逃亡への準備
*トッド視点
クリストファー殿下の提案を受け、我々はそれぞれ準備にかかった。クリストファー殿下の護衛を外すことは出来ない為、父クジと弟のリードにも手伝って貰う。リードには誠魂燈石を全て持ってシトイット侯爵様の所へ行ってもらい。父に旅に適した目立たぬ服を準備してきてもらう。
村に居る母とコニー様は食糧の準備をしている。なんと、クリストファー殿下が見せたあの何処からか誠魂燈石を出現させる魔法は何でも持ち運べる上、時間の経過が無いらしい。初めて見る魔法だ。確かに何ヵ月も前に収納したというオーバーローデントが新鮮な状態であった。魔物は食べられるのかと、訊ねる殿下にクスリと笑ってしまう。
「殿下何時も召し上がっておられますよ」
と申し上げると殿下は嬉しそうに
「じゃあこれも?」とオーバーローデントを指さす。「はい、勿論でございます。」
「じゃあ、お願いします。それと殿下もクリストファーも禁止だ。出来れば様も要らない。これから逃亡生活だからねっ」
と更に四羽オーバーローデントを取り出した。
「はいわかりましたクリス。」
「変だね。敬語や丁寧な物言いも要らないな!」
「善処します。」
オーバーローデントを母テレサに託す。
「預かるわ、クリス様の所へ」
言葉少なに母は解体の仕事を受けてくれた。
私は、クリストファー殿下がお産まれになられて陛下の近衛から殿下付きの近衛に異動となった。クリストファー殿下を亡くなったと偽装する上で、護衛対象が亡くなった近衛が生きているなど有り得ない。その為、私も殿下と共に消える必要があった。城では密かに私トッドは処刑されたと思われているはずだ。勿論、我がバルドー士爵も家名ごと消え、一家行方不明の偽装の上で此方に身を寄せていた。これは全てマリアーナ様のご配慮でシトイット侯爵には大変お世話になった。このご恩に報いたくこれからもクリストファー殿下をお護りする騎士で居ると誓う。
*ルー視点
クジ殿が用意してくれた、一般的な旅装束に身を包み王都のギルドに登録をする。皆バラバラの街で登録をする予定だ。シトイット侯爵家から出たことのないオレを知る者はほとんど居ないことから王都にはオレが来た。
街並みの向こうに城が見えている。
(あの城に、マリアーナ様が...)
急激に胸が苦しくなる。(会いたい...)
オレ、ルークス·セルステンアーノはセルステンアーノ伯爵の外子だった。婿養子である父は家では育てられないが捨てることも出来ないと、人柄に信頼のおけるシトイット侯爵にオレを託した。侯爵様はしっかりとした教養や剣まで習得出来るまで面倒みて下さった。
オレはシトイット侯爵家で快く迎えてもらい親切にして戴く中で、畏れ多くもマリアーナ様の事をお慕いしてしまった。しかし、歴とした侯爵令嬢である上、既に王太子殿下と婚約していた。幼い頃より婚約者同士であったお二人は仲睦まじく、庶子なんかのオレの淡い想いが陽の目を見るなど到底有り得ないこと。オレの募る想いは剣の稽古や勉強にぶつけた。侯爵様はそんなオレを買って下さり、成人しても侯爵家で雇って貰う筈だった。
ある日、マリアーナ様の護衛にと登城していたサムさんがコニーさんと帰って来た。(何故?)
城での出来事を何も知らなかったオレは侯爵様の執務室へ入るのを見て、マリアーナ様のお城での様子が分かるかもしれないと、聞き耳を立てていた。そこで、クリストファー様が狙われて連れて逃げて来たこと知った。オレはその場でクリストファー様の護衛にして欲しいと懇願した。あの方の一番大切なものを護りたい。あの日から、オレの気持ちは変わらない。




