第1話 テニスの神様
「テニスのサブカルが少なすぎる!」
俺の前では《庭球神》を名乗る不審者が熱弁を奮っている。
恐らくここは夢の中。真っ白な世界に、神様を名乗る不審者。この支離滅裂でアホくさい現状から察するにやっぱりここは夢の中なのだろう。
「はあ……そうですね。でも、ほらテニスのプリンセスとか、ワンツーステップとか有名なのあるじゃないですか?」
まあ、中学生の頃にソフトテニスをやっていたのでテニス関係の娯楽をさわったことはある。テニスってスポーツの中では有名な方だから漫画やアニメでも有名所は知っている人も多いだろう。
「だけどよー、野球とかサッカーとかめちゃくちゃ有名で面白いのがわんさかあるじゃないかー。それにネット小説とかで探してみてもよぉ、スポーツジャンルで大作があるのはやっぱり、野球とサッカーだ」
ほーん、そうなのか。
「テニスだって面白いのはあるけど、ほとんどはなんて言うか青春のスパイス的な? 俺が読みたいのは、テニスがメインのヤツなの!」
目の前で熱弁を振るう姿を見ていると、だんだんアホくさくなってきた。俺になんの関係があるんだよ……
「んで、俺は考えたワケ。世間では今、野球が来てるだろ? やっぱ人気のスポーツにはスター選手がつきものだ。だからよォ、なるんだよお前が!」
成程、意味が分からん。
「生まれ変わるんだ、お前は。目指すはグランドスラム全制覇。流石に裸一貫で目標達成できるとは思わん。特典はつけてやるから頑張れよ! 死ぬ気でやれば出来るぜ、多分な!」
というか、俺は学生時代、ソフトテニスしか触ったことないんだが? これ、人選ミスってないか……
「ううむ。特典をつけるためのリソースが足りない? お、グランドスラム全制覇を制約として組み込めば行けると……よし、これで万事オッケー!」
なんて思ったが、意識は薄れ、俺の記憶はそこで途切れたのだった。