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僕の家庭教師  作者: 口羽龍
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 実力テストで高得点をたたき出したとはいえ、知也はまだまだ油断していない。本当の目標は、第一志望の共進学園に合格する事だから。最初は全く自信がなかったが、奈美恵と出会ってから、明らかに変わり始めた。徐々にわかるようになり、そして自信がついてきた。このままいけば共進学園に合格できそうだと思い始めてきた。だが、そうなったからとはいえ、手を抜いてはいけない。


「あと4か月か」


 知也はカレンダーを見た。受験まであと4か月ぐらいになった。友達はすでに受験勉強をしているだろう。みんなも頑張っているかな? 自分も頑張らないと。


「頑張ろうね」


 奈美恵も期待している。最初に会ったときは、あまりできなかったが、この夏でとても成長した。そして、自信をつけてきた。ここまで頑張れば、合格も見えてきた。驚くほどの成長っぷりだ。子供を教える事って、ここにやりがいがあるのかな? 奈美恵は嬉しくなった。


「うん」


 知也は笑みを浮かべた。君に出会わなければ、ここまで頑張れなかっただろう。奈美恵には感謝している。


「徐々に狙えそうだと思われてるけど、もっと頑張らないと」

「努力の積み重ねが大事だもんね」

「うん」


 知也は黙々と受験勉強をしている。奈美恵はその様子をじっと手見ている。奈美恵は、知也の頑張る姿を、まるで彼女のように見ている。なぜだろう。一緒にいるうちに、好きになってきた。自分は幽霊なのに。


「少し休憩しよっと」


 知也は少し休憩をした。休憩時間は10分だ。50分勉強をして、10分休む。この方が中学校の授業のリズムと同じで、はかどりやすい。


「ねぇ」


 と、知也が声をかけた。どうしたんだろう。奈美恵は首をかしげた。


「どうしたの?」

「東京って、どんな所かな?」


 共進学園は東京にある。東京は、旅行などで行った事があるが、まだまだあまり知らない。もし、共進学園に合格したら、東京に住む事になるだろう。そのために、ある程度東京の事を知っておかないと。


「知りたい?」

「うん」


 奈美恵は大学時代、東京に住んでいた。奈美恵なら、東京の事はある程度わかるかもしれない。聞いておこう。


「東京って、いい所だよ。私、東京に住んでたの。故郷と比べて豊かで、夢があるよ」


 奈美恵は知っている。東京は豊かな所で、夢であふれている。きっと知也も気にいるだろう。


「本当?」

「うん」


 知也は決意した。共進学園に合格して、東京に住んで、豊かな生活を手に入れるんだ。


「受験で頑張って、東京に行かないとね」

「そうだね。もっと頑張らないと」

「東京か。きっと知也くん、東京が気に入るよ」


 知也は、修学旅行で東京に行った事を思い出した。ディズニーランドに行って、スカイツリーに行って、東京ドームで野球観戦をして。とても楽しかったな。また行きたいな。


「本当? 僕、修学旅行で行った事があるんだ。」

「そうなんだ」


 奈美恵もそうだ。修学旅行で初めて東京に行った。そして、いつかここに住みたいと思うようになった。念願かなって、東京に住む事になった時は、とても嬉しかった。両親も喜んでいたという。


「東京ドームに行って、スカイツリーに行って、東京タワーにも行った。とっても楽しかったな」


 東京タワーにも行ったとは。合格したら、そっちにも行ってみたいな。


「そう。私、彼氏と一緒にスカイツリーに行った事があって、展望台から東京を見下ろしたんだ」

「そっか。彼氏もいたんだ」


 奈美恵には彼氏がいて、その人とスカイツリーに行ったのが一番の思い出だ。だが、結ばれる事はなく、死んでしまった。今頃、彼氏は他の女と交際しているんだろうか? 奈美恵の事を忘れずに生きているんだろうか? とても気になる。


「うん。私が死んだ時、とても泣いていた」

「ふーん」


 葬儀で彼氏が泣いていたのを、幽霊になった奈美恵は目の前で見ていた。だが、彼氏には奈美恵の幽霊が見えない。慰める事も出来ない。目の前にいるのに、何もしてやれない。無力な自分がつらかった。


「今頃、どうしてるのかな?私の事、忘れていないかな?」

「心配なの?」


 奈美恵は彼氏との日々を思い出した。とても楽しかったな。いろんなことをして。卒業したら、結婚しようと約束したっけ。だけど結婚できなかった。死んだ時はとてもつらかっただろうな。


「うん。新しい彼女と仲良くしていたら、幸せなんだけど、私との恋も、忘れないでほしいな」

「そっか」


 と、知也は初恋の事を考えた。自分にはまだ、好きな女の子がいないけど、いつかは巡り会うんだろうか? そして、恋をするんだろうか?とても気になるな。


「僕もきっと、誰かと恋をするのかな?」

「きっとすると思うわ」


 奈美恵は思っている。きっとみんな、恋をするだろう。そして、結婚まで至らなくて、その恋は心の中で続いていくんだと。そしていつか、その恋を思い出すだろう。


「どんな人とするのかな? わからないけど、奈美恵先生のような人がいいな」

「本当?」

「うん」


 知也は思っていた。やがて出会う初恋の人は、奈美恵のような人がいいな。面倒見が良くて、優しくて、頭のいい人がいいな。だって、奈美恵の事が好きなんだから。


「ありがとう。知也くんに行ってもらって嬉しいな」

「さて、そんな人と専願の高校で巡り合えるように、頑張らなくっちゃね」

「よーし、頑張るぞー」


 10分が過ぎた。知也は再び受験勉強を始めた。知也は再びやる気が出てきた。初恋の人に巡り合うために、東京に住むために、受験勉強を頑張らないと。

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