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彼女の部屋に遊びに行った時ついパンツを盗ってきてしまったので、バレない内に女子寮に侵入して返したいと思います

作者: 墨江夢

 俺・綾瀬晴市(あやせはるいち)は、現在女子寮のとある一室の前にいる。

 本来女子寮とは、男子禁制の場所。心も体も戸籍も男の子の俺が、入って良い場所ではない。

 しかし俺は今、こうして女子寮の一室にいる。それはなぜか? ……この部屋の主人、つまり俺の恋人に招待されたからだ。


 俺が恋人の美好瞳(みよしひとみ)と付き合い始めたのは、3ヶ月前のことだった。

 進級して美好と同じクラスになった俺は、入学式の日に一目惚れした彼女に思いの丈をぶつけたのだ。


 結果は「イエス」。もう嬉しすぎて、発狂しそうになっちゃったね。


 時が経つのは早く、気づけばあれから3ヶ月。俗に言う「3ヶ月の壁」を難なく乗り越えたこの日……とうとう俺は、瞳の部屋にお呼ばれしたのだ。


 当然のことながら女子寮に初めて入ったわけだけど、男子寮とは全然違うのな。

 管理人が居るのは同じだけど、女子寮には加えてオートロックが備わっている。

 防犯カメラの数もやたら多いし、インターホンもカメラ付きだ。

 どう考えても女子寮に予算使いすぎて、男子寮がおざなりになったんだろ?


 あといい匂いがする。

 入り口も廊下も階段も、建物の全てから女の子の香りが漂ってきている。やれやれ。俺が紳士じゃなかったら、今頃女子寮内で野獣が暴れていたぞ。


 そんなことを考えながら、俺は瞳の部屋のインターホンを押す。

「はーい」と、すぐに彼女の可愛らしい声が返ってきた。


「早かったね、晴市! さっ、入って入って」


 急かされながら、俺は瞳の部屋の中に入っていく。


 シャワーを浴びた直後なのだろうか? 瞳の髪はまだ湿っており、そこから漂うシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。

 下はショートパンツのくせに上はダボっとしたTシャツを着ているわけだから、ぱっと見何も穿いていないように見える。そして興奮する。

 ……俺、変態だな。


「コーヒーと紅茶、どっちが良い?」

「それじゃあ、コーヒーを頼む」

「ミルクも砂糖なしで良いかしら?」

「あぁ」


 甘いものが苦手という俺の好みを、瞳は熟知している。だからお茶菓子も、甘さ控えめのクッキーだったりする。


 俺だって健全な男子高校生だ。思春期真っ只中だ。恋人の部屋に呼ばれたら、そういう行為に及ぶんじゃないかと内心期待したりするわけで。

 でも、瞳にそんなつもりはさらさらなく。ただ単に部屋に呼んで、楽しくお喋りしたかっただけらしい。まぁ、別に不満はないんだけど。


 会話の内容は、もうすぐ始まる夏休みをどのように過ごすのか。付き合って初めての長期休暇なので、やりたいことや行きたい所ご沢山ある。

 去年までの夏休みは、前半を家の中で昼夜逆転の堕落生活を貪り、後半全く手を付けていなかった宿題に追われるというのが常だったが、今年はなんとも充実したものになりそうだ。


「コーヒーのおかわりいる?」

「お願いしても良いか?」

「うん!」


 俺はいつの間にか空になっていたコーヒーカップを瞳に渡す。

 瞳がキッチンでコーヒーを淹れている間、特にやることもなかった俺は部屋の中を見回していた。


 女子の部屋をまじまじ見るのは褒められたことじゃないけれど、俺は瞳の彼氏なんだ。それくらい許されるだろう。


 すると俺はふと、ベッドの下に落ちている「ある物」を見つけてしまった。


 その物自体に、然程価値はない。コンビニにだって売られている。しかも結構安い価格で。


 重要なのは、誰の物かということ。そう、その「ある物」とは――瞳の下着だった。

 下着というと勘違いが発生しかねないので、ここははっきり言っておこう。パンツ、いや、パンティーだ。


 勝負下着というやつだろうか? 高校生が身に付けるにしては、いささか刺激が強い気がする。

 この下着を穿いた瞳の姿を想像してみると……可愛さというより、エロさの方が勝ってしまうな。


 彼氏たる俺ですら、こんなにドキドキしてしまうのだ。もし誤って他の男子がこの下着を穿いた瞳を目撃してしまったら……。その展開はよろしくない。非常に危険だ。


「……彼氏として、彼女を守る義務があるよな? 決して欲望に負けたとか、そういうわけじゃないよな?」


 言うなれば、これはリスク回避の一環なのだ。

 自分にそう言い聞かせて、俺はベッドの下に落ちている下着を手に取り、ポケットに無造作に突っ込むのだった。





 その日の夜。

 瞳の部屋から下着を拝借した俺は、自室で一人絶賛後悔中だった。

 

「どう考えても、これってマズいよなぁ」


 下着の端と端をつまみ、軽く伸ばす。

 もし瞳がこの下着の紛失に気付いたら――。察しの良い彼女のことだ。もしかしたら俺が持ち出したことに気が付くかもしれない。


「彼女の下着を盗むなんて、そんな人だとは思わなかったよ。最低」。そんな罵声と共に、唐突に別れを告げられるかもしれない。

 下着を持ち出すというのは、それ程までに危険な行為なのだ。


 リスク回避の為にした行動が、寧ろリスクを生んでしまっているなんて、本末転倒じゃないか。


「やっぱり、一刻も早く返した方が良いよな」


 俺は時計を見る。

 現時刻は午後の10時40分。学生寮の門限は10時なので、正面からインターホンを鳴らして下着を返すのは不可能。

 ……正攻法が無理ならば、侵入するしかない。


 俺はタンスの奥から、女物のワンピースを取り出す。あとは金髪のかつらとヒール……言っておくけど、俺の趣味じゃないからね。前にイベントで使っただけだからね。


 即席の女装を済ませた俺は、早足で女子寮に向かう。さあ、ミッションの開始だ。


 第一関門は、オートロックと管理人。

 鍵を持たない俺にこの自動ドアを開ける術はないので、中に入るには誰かに開けてもらうしかない。

 ここには管理人しかいないなら、彼に開けてもらうしかないだろう。


 俺は管理人に聞こえる程度の大きさで、自動ドアをノックした。


「すみません。コンビニに行っていたら、門限を過ぎちゃって」

「コンビニって……今何時だと思っているんです? コンビニなんて、何十分もいる場所じゃないでしょう?」

「えーと……なんかコンビニのレジに、テーマパークのアトラクションみたいな長蛇の列が出来ていて」

「……」


 勿論大嘘だし、管理人もその嘘を見抜いている。

 しかし管理人も、面倒ごとはごめんなのだろう。「今回だけだぞ」と軽い注意だけで、それ以上の追及はしてこなかった。

 女子寮のセキュリティー、ザルすぎるだろ。





 女子寮内部への侵入をクリアした俺は、寄り道することなく瞳の部屋に向かう。

 

 さて、ここで第二関門だ。どうやって瞳の部屋に入ろうか?

 ……瞳に入れて貰うしかないよな。


「会いたくなったから」とか言えば、もしかしたら入れてくれるんじゃないかな。よし、それでいこう。


 方向性を決めた俺は、インターホンを鳴らした。


「はーい。……って、晴市? こんな時間にどうしたの? てか、何その格好? ウケる」


 仕方ないだろう。女装でもしなきゃ、夜遅くに女子寮に入れないんだから。


「いやな、突然お前に会いたくなってな」

「夜に会いたいだなんて、晴市のえっち」


 揶揄うように言う瞳だったが、そういう冗談に慣れていないのか、すこぶる恥ずかしそうだった。


「他の人に見つかると大問題だから、取り敢えず中に入って」


 理解のある彼女で、俺は幸せ者だ。難なく瞳の部屋に入ることが出来た。

 瞳が俺の為にコーヒーを淹れる為、キッチンへ向かう。このタイミングが、最初で最後のチャンスだ。


 俺はポケットの中から下着を取り出すと、元あったベッドの下に投げ入れるべく、腕を振り上げた。その時、


「晴市ー。実は丁度コーヒー切らしちゃってさ、紅茶でも良い……って、何してるの?」

 

 絶好のタイミングが、最悪のタイミングに一変した。

 瞳の視線が、俺の右手に……正確に言うと右手の中にある下着に向けられる。どうちよう。


「それって……」

「もしかして、探していたとか?」

「まぁ、一応ね。体育祭の借り物競走で使うやつだから」


 借り物……競争? しかも使ったやつではなく、これから使うやつ? つまりは、この下着はまだ未使用ってこと?


 ……おいおい、嘘だろ。

 俺は未使用の、それも女子が穿く予定すらない下着を返す為に、こんな危険を冒したってのかよ。


「ハハハハハ」


 笑いながら、俺は項垂れる。


「どうしたの?」

「いや。悪いことすると、絶対に自分に返ってくるんだって、しみじみと思っただけだよ」

「何のことを言っているのかわからないけど、猛省して、今後は悪いことをしないように努めなさい」

「あぁ、改心するよ」


 心を入れ替えたのが良かったのだろうか? 突然開いていた窓から風が入ってきて、瞳のTシャツ捲れる。

 瞳は……短パンを穿いてなかった。

 

 露わになる彼女の下着。しかもそれは、借り物競走で使用するパンティーと同じくらいエロエロだった。

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