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ぼくは流れ星にならないよ

作者: 櫻月そら
掲載日:2022/01/13

漢字をどれくらい使うかにずいぶん悩んだのですが、大人が読み聞かせをする時に、

ひらがなが続いて、つっかえないような配分にしました。

そのため、小学校で習得する漢字の難易度および順番がバラバラです。

とりあえず、漢字にはすべてルビを打つことにしました。


 いつだったか忘(わす)れてしまったけれど、ママとパパとお山(やま)に行(い)ったことがある。


「お星(ほし)さまを見(み)に行(い)こう」とパパが言(い)ったから。


 小(ちい)さな毛布(もうふ)と、あったかいお茶(ちゃ)の入った水筒(すいとう)をもって3人(にん)で行(い)ったんだ。


 お空(そら)を見(み)ると、おうちの窓(まど)から見(み)たときよりも、まっ黒(くろ)だ。

 小(ちい)さな白(しろ)い点々(てんてん)も、たくさんある。


「あの白い点々(てんてん)が、お星(ほし)さまだよ」

 

 パパがおしえてくれた。


「ちっちゃいね。ようちえんで作(つく)ったお星(ほし)さまは、もっと大(おお)きいよ」


「お空(そら)のお星(ほし)さまもね。ほんとうは、もっと大(おお)きいんだよ」


「ふーん。わかんない」


 パパが言(い)うことは、ときどきむずかしい。


 ママがぼくを、ぎゅって抱(だ)っこしてくれた。


「ゆう君(くん)が、もうちょっと大(おお)きくなったらわかるよ。さくらのお花(はな)が咲(さ)いたら、ゆう君(くん)も年長(ねんちょう)さんだね。ようちえんのなかで、一番(いちばん)お兄(にい)ちゃんだ」

 

 ほんとうのお星(ほし)さまのことは、まだよくわからないけれど、ママに抱(だ)っこされると、とってもあったかくて、いいにおいがした。


「お兄(にい)ちゃん」って言(い)われるのも、なんだかうれしい。


 ぼくには、弟(おとうと)も妹(いもうと)もいないから。


「ゆう君(くん)、見(み)て! 流(なが)れ星(ぼし)だよ!」

 

 ママが大(おお)きな声(こえ)を出(だ)すから、びっくりした。


 お空(そら)を見(み)ると、白(しろ)い点々(てんてん)がすごいはやさで、どこかに行(い)っちゃった。


「ながれ星(ぼし)……」


 お星(ほし)さまは、お水(みず)みたいにながれるの?


 プールのお水(みず)は、お日(ひ)さまの光(ひかり)があたると、キラキラしてきれいなんだ。


 だから、お星(ほし)さまもキラキラしてるのかな。


「ようちえんでね、先生(せんせい)がオルガンでひいてくれるお歌(うた)にも、お星(ほし)さまがでてくるんだよ。キラキラして光(ひか)って、みんなを見(み)てるんだって」


「そっかぁ。ママも好(す)きだよ。そのお歌(うた)」

 

 ママもパパも、にこにこしてる。

 ぼくは、このお顔(かお)が大(だい)好(す)きなんだ。


 お星(ほし)さまにも、パパとママがいるのかな?

 ひとりぼっちで、どこに行(い)くのかな。

 さびしくないのかな。

 まいごにならないのかな。


 ぼくは、まいごになると、とってもかなしくなるよ。


 それなのに、パパもママも、どこかに行っちゃうお星(ほし)さまたちを、キラキラしたお顔(かお)で見(み)てるんだ。


「きれいだね」って。


 ぼくは、なんだか泣(な)きたくなって、パパとママがどこにも行(い)かないように、ふたりのお洋服(ようふく)をぎゅっと引(ひ)っぱった。



 

 

 ママが言(い)ったとおり、さくらのお花(はな)が咲(さ)いたら、ぼくは年長(ねんちょう)さんになった。


 お兄(にい)ちゃんだから、なんでもひとりでできるんだよ。


 きょうはママと一緒(いっしょ)に、ヒーローに会(あ)いにきた。

 大(おお)きなデパート。人(ひと)も、お店(みせ)も、いっぱいだ。


「ゆう君(くん)、人(ひと)がいっぱいいるから、ママとおててをつなごうね」


「どうして?」


「迷子(まいご)になっちゃうからね」


「ならないよ。だって、ぼくはお兄(にい)ちゃんだから」


「んー、そうだねぇ」

 

 ママが困(こま)ったお顔(かお)をした。

 どうして、そんなお顔(かお)をするの?

 

「ぼくは、お兄(にい)ちゃんなんだよ。もっと大(おお)きくなったらヒーローになって、パパとママを守(まも)るんだ」


「そっかぁ。ママ、うれしいな。でも、見(み)て? ゆう君(くん)より大(おお)きいお兄(にい)ちゃんも、ママとおててつないでるよ?」


「んー、じゃあ、しかたないね。ぼくもつなぐ」

 

 ママが「ふふっ」って笑(わら)った。

 なんだか、いやな気(き)持(も)ちになった。


「なんで笑(わら)ったの?」


「ゆう君(くん)が、どんどんお兄(にい)ちゃんになっていくから、ママ、うれしいの」


「ふーん」

 じゃあ、いいか。



 ヒーローショーが終(お)わって、みんなが色々(いろいろ)なほうに歩(ある)いていく。


「やっぱり、ヒーローはかっこいい!」


 ぼくより小(ちい)さな男(おとこ)の子(こ)が、そう言(い)ったのが聞(き)こえた。


 ヒーローはかっこいい。ぼくもそう思(おも)う。


 ぼくもパパとママのために、はやくヒーローにならなくちゃ。



 エレベーターに乗(の)って、屋上(おくじょう)から1階(かい)までおりてきた。


 デパートの出口(でぐち)まで来(き)たけれど、ママがかばんの中(なか)をゴソゴソとして、なにかをさがしてる。


「どうしたの?」


「ママ、さっきのヒーローショーのところにハンカチを忘(わす)れてきたかも……」


「ぼくが取(と)ってきてあげる!」

 

 ぼくは、すごいはやさで走(はし)りだした。

 かけっこは、ようちえんで一番(いちばん)なんだ。

 いつも、パパもママも先生(せんせい)もほめてくれる。


「待(ま)って! ゆう君(くん)!」


 ママの声(こえ)がした。

 大丈夫(だいじょうぶ)だよ、ママ。

 ぼくが、すぐに取(と)ってきてあげるから。


 きっと今日(きょう)も、ママはほめてくれるんだ。


 ぼくがエレベーターの前(まえ)まで来(き)たときに、ちょうどドアが開(ひら)いた。

 光(ひか)った三角(さんかく)が上(うえ)を向(む)いてる。


 これに乗(の)れば、屋上(おくじょう)に行(い)けるんだ。


 マンションのエレベーターだって、ひとりで乗(の)ったことがあるから大丈夫(だいじょうぶ)!


 あっというまに屋上(おくじょう)についた。

 いっぱいだった人(ひと)が、もういない。


 ぼくは、キョロキョロとあたりを見(み)わたした。


「ハンカチ、どこにあるのかな……?」


「ぼく? どうしたの? お父(とう)さんかお母(かあ)さんと一緒(いっしょ)に来(き)たのかな?」


 ヒーローショーのときのお姉(ねえ)さんだ。


「ママのハンカチをさがしにきたの」


「そっか! すごいね!」


 ほらね。やっぱりほめられた。


「ママのハンカチはこれかな? 忘(わす)れものみたいだったから、お姉(ねえ)さんが預(あず)かっておいたの」


 晴(は)れたお空(そら)みたいな水色(みずいろ)のハンカチ。


「うん、これ! お姉(ねえ)さん、ありがとう!」


 お姉(ねえ)さんは、にこって笑(わら)ってくれた。


「ハンカチ、ママにわたせるね。ママは、どこにいるのかな?」


「えっとね、1階(かい)」


「え?」


 お姉(ねえ)さんが、おどろいた顔(かお)をした。


「ここまで、ひとりで来(き)たの?」


「うん! ぼくはお兄(にい)ちゃんだから」


「そっかぁ。でも、お姉(ねえ)さん心配(しんぱい)だから、ママのところまで一緒(いっしょ)に行(い)ってもいいかな?」


「ぼく、ひとりで大丈夫(だいじょうぶ)だよ?」


「お姉(ねえ)さんも、ママに会(あ)ってみたいな。だめかな?」


「いいよ! 連(つ)れていってあげる」


 お姉(ねえ)さんが、また笑(わら)ってくれた。

 お姉(ねえ)さんも、ママに会(あ)いたいんだ。


「ゆう君(くん)!」


「あ、ママだ」


 エスカレーターで来(き)たんだ。1階(かい)でまっててくれたら、よかったのに。


 はぁはぁと苦(くる)しそうなのに、ママはぼくのところまで走(はし)ってくる。


「だめでしょ?! 勝手(かって)にどこかに行(い)ったら!」


「でも、ぼくはお兄(にい)ちゃんだから……」


「お兄(にい)ちゃんでも、だめなの! ママがいいよって言(い)うまでは、ひとりでどこかに行(い)っちゃだめよ?!」


 ママに、ぎゅっと肩(かた)をつかまれた。

 ママはまだ、はぁはぁと苦(くる)しそうで、汗(あせ)もいっぱいかいてる。


 ぼくが、ながれ星(ぼし)みたいに、どこかに行(い)っちゃったから、ママもかなしくなったのかな。


「ママにハンカチを届(とど)けたかったんだよね?」


 お姉(ねえ)さんにそう言(い)われて、ぼくはうなずいた。


「えらかったね。でも、お兄(にい)ちゃんなら、ママを心配(しんぱい)させちゃだめだよ?」


 そう言(い)って、お姉(ねえ)さんがぼくの頭(あたま)をなでてくれた。


「お世話(せわ)になりました」


 ママがお姉(ねえ)さんに、おじぎをした。


 あ、おとなが『ありがとう』っていうときにつかう言葉(ことば)だ。

 ぼくも、ありがとうって言(い)わなくちゃ。


「お姉(ねえ)さん、ありがとう」


「どういたしまして」


 バイバイ、と手(て)を振(ふ)ってくれたお姉(ねえ)さんに、ぼくも手(て)を振(ふ)った。


 

 ママは、いつのまにか、いっぱいの涙(なみだ)をながしてた。


「ごめんね、ママ。もう、勝手(かって)にどこかに行(い)ったりしないから。笑(わら)って?」


 ぼくはママのおめめに、ハンカチをあてて、涙(なみだ)をふいてあげた。


 いつもは、ぼくがママにしてもらってる。

 でも、もうお兄(にい)ちゃんだから。


 ママはすごくびっくりした顔(かお)をして、また泣(な)いちゃった。


「ママ、泣(な)かないで?」


 ぼくは、ママのキラキラしたお顔(かお)が好きなんだ。


 だから、あのお山(やま)でながれ星(ぼし)を見(み)たときみたいなお顔(かお)に、ぼくがしてあげる。


 ぼくは、ながれ星(ぼし)みたいにどこかに行(い)ったりしないから。



主人公「ゆう君」は、自分が迷子になっても、「大人が迷子になった」と思ってしまうタイプです。

子どもの成長過程でどこから湧いてくるんだという「万能感」と、それでもときどき感じる「孤立・離別する不安」がテーマ。


保護者からすると「勝手にどこかに行かないで。心配するでしょ?」という気持ちを、子どもたちに理解してほしいという内容です。


後書きにここまで書いてしまうと、野暮なのかもしれませんね……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 子どもにありがちな突っ走りですね。 でも行動力がすごい! いい男になりそうです。 ( *´艸`)
[良い点] ゆう君がとても純粋で可愛かったです! もおっ、心配させて、この子はぁ〜 むぎゅう♡ って、他人だけどめっちゃ抱きしめたいです。 ウザくて、怖くて、二度と流れ星にならないかもしれません(笑…
2022/01/26 20:21 退会済み
管理
[良い点] ママ思いのゆう君、子供の気持ちをちゃんと優先して考える(ただ危ない、や、やめなさいとやぶからぼうに押さえつける大人がいますが)お母さんや会場のお姉さんが素敵でした! 最後のセリフ、ぼくは、…
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