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運命の赤い糸はとんでもない!  作者: 竹輪㋠


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34/42

魔女の正体は

 数時間が過ぎ、手術が無事に終わったと知らされた。

 すぐにミラ様たちとで顔を見に行くと、落ち着いた顔つきでハージ兄が眠っていた。見上げるとコラン様も同じように安心したようだった。


 ハージ兄の無事を確認した私たちは会議に戻る。

 コラン様はハージ兄を見て決意した表情をしていた。


「氷の魔女は、今こそハージの心臓を狙う絶好の機会だと思っているだろう。……アイラがハージと呪いを代われることが氷の魔女にバレてしまう前に氷の魔女を倒さなければならない。——次の襲撃で、必ず決着をつける」


 プレスロト国は竜を守り神とした国である。

 十数年前、氷の魔女はプレスロト国に住みついた。彼女は氷の山に城を築き、そこを拠点としたが、竜がそれを許している以上、国としても手出しはできなかった。

 しかし、その頃から失踪事件が相次ぎ、氷の魔女の関与が疑われるようになった。限りなく黒に近いものの、決定的な証拠がなく、事件を追っていた騎士団も慎重に動かざるを得なかった。


 あるパーティの席で、氷の魔女はコラン様を一目見て心を奪われたという。

 それ以来、彼にあからさまな好意を示し続けた。

 しかし、いくら氷の魔女といえども、第五王子であり騎士団長でもあるコラン様を強引に手に入れることはできない。

 さらに、コラン様は生来の女嫌い。どんなにアプローチをしてもまるで響かず、それが魔女の苛立ちを募らせた。彼女自身、美しさには自信があるだけに、拒絶されたことは悔しくてたまらなかったのだ。

 諦めることができなかった氷の魔女は、ついに魔獣討伐を終えた帰りのコラン様を巧みに氷の城へ誘い込み、監禁することに成功する。そのまま呪いの赤い糸でコラン様と自分の足を結び付けようとしたのだ。


 誤算だったのはコラン様が自力で逃げ出すほど優秀であったことと、逃げる途中でハージ兄と出会い、焦って繋げようとした赤い糸の呪いが二人にかけられてしまったことだ。

 魔女には不運だったけれど、コラン様にとっては運がよかった。



「でも、氷の魔女がこんなにもコラン様に執着するなんて思ってもみませんでしたね」

 ミラ様がハア、とつぶやく。

 その言葉にコラン様は苦々しく答えた。

「一度手に入れながらも逃したことが惜しいのだろう。氷の城で私が監禁されたとき、魔女にコレクションにされた者たちが氷漬けで無惨にも転がっていた。あのままいれば私も同じ目にあっていただろう」

 こ、氷漬け……。凍った人間を想像するとブルりと寒気がくる。

「ご無事でよかったです」

「しかし、私が氷の城の惨状を見たからこそ、騎士団として正式に討伐の許可を王から得られた」

「騎士団長が証人では氷の魔女も言い逃れできませんからね。王も許可が出せて安堵されたでしょう」


 コラン様とミラ様の話を聞いて、兄たちが苦労して氷の山から戻ってきたことが伺える。

 そんな大変な時に父の訃報を知って、コラン様はコートボアール家に来てくれていたんだ……。ハージ兄に父とのお別れをさせてくれるために。


 私がそのことに感動しているとリンリ様は首をひねっていた。

「そもそも氷の魔女が十数年前にふらりと現れて、どうやって竜の許可を得て氷の山に城を建てたのか不思議だなぁ」

 リンリ様が言うとミラ様が少し考えてポツリと言った。

「まるで悪魔そのものだよな。悪魔なら強大な力で竜をねじ伏せてもおかしくない」


 悪魔。

 悪魔ってなんだろう。醜い異形であることだけは言い伝えで知っているけれど、漠然としすぎていて私には想像できない。

「魔女は悪魔と契約した女性ですよね? 悪魔と契約した地点でもう悪い存在なのではないのですか?」

 私が質問するとみんなが顔を見合わせた。

 聞けば聞くほど氷の魔女が悪い人にしか聞こえない。そもそも、悪魔と契約なんてとんでもないではないか。

 するとミラ様が答えてくれた。

「人間が魔力を得たのは僕たちの祖先が悪魔と契約をしたのが始まりだと言われているんだ」

「えっ」

「だから、契約しただけの女性は『悪』ではなくて、運よく力をもらえた人って感じなんだ」

「悪魔なのに?」

 ミラ様の説明に混乱しているとリンリ様がフォローしてくれた。

「あのね、私たちが『悪魔』と言っているだけでそれが『悪』なのかは本当のところわからない。とても力を持っている存在をそう呼んでいるだけなの『神様』だって言う人もいるくらいだよ」

「神様!?」

 私が驚いて声を上げるとミラ様が少し笑った。


「もちろん、『悪魔』って呼ばれているのには訳がある。彼らの力の糧は人の魂だから」

「それって『悪魔』は人の魂を食べちゃうってことですか……」

「僕たちだって生きるために家畜や植物の命をもらってるでしょ。悪魔からしてみれば人の魂の価値がどうなのかって話」


「じゃあ、悪魔と契約して力をもらうだけなら、その人は魔女っていうだけで悪い人じゃない?」

「実際、欲にまみれず、魔女になって人々を助けた人もいるからね」

「賛否両論あるんだよ。簡単に魔女=悪いとは言えないんだ。ただ、『悪魔』そのものは別。悪魔は力を得るためにたくさんの魂を必要とするから」


 そこで、黙っていたコラン様が言葉を発した。

「私たちが、魔女だと思っていた女は、本当に魔女なのか?」

 その言葉に今度はその場にいたみんなが黙った。


 落ち着いた声でコラン様は続ける。

「私たちは『悪魔』が人の形をしているはずもないと、思い込んでいた。けれど、すでに氷漬けされた者がいたんだ、人の魂を食らって力をつけているとしたら、『悪魔』そのものじゃないか」

「コラン様が氷の城で見た氷漬けの人間は……コレクションではなく、魂を抜かれた人たちだったと?」

 ミラ様の声が震える。しかしリンリ様は納得したようだ。


「私、どうしてあんなに急に氷の魔女が強くなっていたか気になってたの。周到に準備は怠らなかったし、予測していた氷の魔女の力以上のトラップを仕掛けた。コラン様とハージ様の連携も申し分なかった。以前の氷の魔女なら十分倒せたはずだもの」

「……いや、ありえないよ。氷の魔女の額にはちゃんと契約の印があったし、彼女が『悪魔』だったとしたら、たくさんの生贄が必要なんだよ? そんなに人が亡くなったって話は……聞いてないよね?」


 それを聞いてテラ副団長がなにか思いついたようだった。

「我が国ではなかったので、気に留めていませんでしたが……周辺国で貧民街の住人が集団でいなくなったという噂を耳にしていました。報告を受けた時は集団夜逃げかと思って国境の警備を強化したのですが……」

「……悪魔が魂を集めていたのかもしれないな」


 力を得るために人の魂を糧にする『悪魔』。

 そんな存在が密かに力をつけて、ハージ兄の命を狙っているなら。

 コラン様と赤い糸で繋がるだけで、満足して終わるとは思えない。


「もしも、氷の魔女が『悪魔』そのものだったとしたら……この先、プレスロト国も数百年前のロメカトルト国のように数千人……数万人の命を狙われることになるかもしれない」

 コラン様の言葉が重い。みんなの顔が曇った。


「……コラン様に執着している今、悪魔を倒す必要がありますね。ホラム様にも報告しておかないと」

 これは、ずっと大変な事態になってきそうだ。

「テラ副団長、周辺国からの情報を集め直してくれ。どちらにしても氷の魔女は一刻も早く討伐しなければならない。とにかく、今はハージを守ろう」

 コラン様の言葉にみんなが頷いた。



 ***


 それから警戒して過ごして二日後、ようやくハージ兄が目を覚ました。

「お兄様あああぁっ! ふ、二日も眠っていたんですよ!」

「アイラ、泣くな……」

 目覚めたハージお兄様を見てしまうと、私は我慢していた涙腺が崩壊してしまった。

 困ったようにハージ兄が私の頭を撫でて、その優しい温かさにさらに涙が出た。


 みんなと対策を考える以外は病室にいる私に、コラン様もずっと付き添ってくれた。


 目覚めたハージ兄に、コラン様が謝るかと思った。

「お前を守れなくってごめん」と。

 けれど、コラン様は私の言葉を聞き入れてくれたようだ。


「ハージ、私は氷の魔女を迎え撃とうと思う」

 コラン様は真っ直ぐ姿勢を正して言った。

 これこそハージ兄が欲しかった言葉だと私は知っていた。


 そう、これが共に戦い、わかり合う男たちのやり取りである。

 うんうん、心のバイブル本もこんな感じだった。


 それにハージ兄はギュッと一度目をつぶって

「わかった」 と答えた。

 ……このやり取りに私は静かに痺れた。




 そうしてハージ兄が新たな氷の魔女討伐の作戦に加わることになった。

 しかし……。

「アイラを巻き込むなんて許可できない!」

 ベッドの上で体を起こす体勢にしてもらったハージ兄が、私が参加しているのを見て叫んだ。

 これからの事を説明するためにミラ様、リンリ様、そしてテラ副団長が集まっていた。当然コランお兄様も隣にいる。


「心配してくれるのはありがたいですが、今は重傷のハージお兄様よりは私の方が動けます。ハージお兄様がコランお兄様と繋がるよりマシです」

「そうは言っても!」

「ハージお兄様、私、今まで生きてきて一番怒っているのです。大事なお兄様をこんな目に合わせた氷の魔女を許しません。私、コランお兄様とここにいるみなさんを信じてます。私にできるのはコランお兄様の呪いを一緒に受けるだけですが、私も、氷の魔女と戦います」


 このままだと、氷の魔女はハージ兄の心臓を食らってしまう。そんなこと、絶対に許さない。


「アイラ、お前は氷の魔女を知らないから! 変な術を使うんだぞ!」

「対策を考えましょう。ハージ殿、氷の魔女があなたが重傷だと思い込んでいるうちに何とかしないと、取り返しのつかないことになるかもしれません。お願いです。プレスロト国を救ってください」

 テラ副団長の言葉にハージ兄が首を傾げた。


「国を救う? 氷の魔女は俺の心臓を取り入れて、コラン様と赤い糸の呪いで繋がりたいだけなのだろう?」

「昨日、北の国境近くでも十数名の不審死が確認されました。おそらく、氷の魔女の仕業です。急速に魔力を貯めていると思われます。やっぱり、氷の魔女は悪魔だったんです」


「なに言ってるんです……人間の形をした悪魔がいるって?」

 ハージ兄が驚いている。

 信じたくないのはみんな同じだ。

「確証などありませんが、考えれば考えるほど急に力をつけすぎています。ハージ殿も感じたのではないですか、異常なまでの氷の魔女の魔力を。あれが『悪魔』だとしたら、この先恐ろしいほどの被害が予想できます」


「本当なのですか? コラン様」

「ああ。残念ながら、被害はだんだんと大きくなっている」

「悪魔……だって?」

 ハージお兄様は肩を落として黙ってしまった。私だって急にこんな話になって怖い。


「そうだ、以前アイラが話していたのを聞いたんですけど、コートボアール家はラルラ王と悪魔を倒した愛馬の眠る土地を守ってきたお家柄ですよね? ラルラ王は悪魔をどうやって倒したんですか?」


 ふと、思いついたようにミラ様が訊ねた。

 そういえば悪魔なら、倒し方は同じのなのだろうか。私はハージ兄と顔を見合わせた。


「ラルラ王の愛馬、コートボアールは馬でありながら魔力を封じる力を持ってたんだ」

 そうして、ハージ兄は私たちコートボアール家に伝わる話をみんなに披露した。

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