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運命の赤い糸はとんでもない!  作者: 竹輪㋠


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33/42

襲撃の末に

「アイラちゃん! いる⁉」

 テラ副団長と部屋で待機していると魔術師のリンリ様とミラ様が血相を変えて私を呼びに来た。

「アイラ、すぐに来てほしいんだ! すぐにハージ様の呪いを移してほしい!」

「……ハージお兄様になにか、あったのですか?」

「移動しながら説明するよ。テラ副団長、護衛をお願いします!」

 すぐに移動しようとするミラ様。けれど、イルマも大変なのだ。


「イルマが……」

 私が言うとテラ副団長が簡単に説明してくれた。

「ミラ様、アイラ様の侍女が催眠にかかっている」

「え、そんなことになってるの? それならリンリに任せればいいよ。さあ、アイラ、行こう!」

 イルマはリンリ様に任せて、ミラ様の後を駆け足で付いていく。心配なのはハージ兄だ。


「まだ氷の魔女と戦っているのですか?」

「テラ副団長に聞いたのかな? 氷の魔女は撤退したんだけどね。作戦通り裏山へ誘い込み、魔術師たちと罠を張った場所へ追い込んだんだ。二人は連携の訓練もしてたし、あのまま氷の魔女を倒せるとみんな思ってた。でも、あと一歩のところで及ばなかったんだ」


「それで……」

「……あのね、落ち着いて聞いてね。ハージ様は大怪我を負った」

 その言葉に、心臓が大きく跳ねた。

 落ち着け、落ち着け……。


「すぐに手術をしたいから、呪いを外してほしいんだ。あと……コラン様が酷く落ち込んでる。ハージ様はコラン様を庇ったようなものだったから」

「……い、命は?」

「命に別状はないと思う。けど、右足を骨折して今は気を失ってる」

 あの屈強なハージ兄が気を失った……。


「……そう、ですか」

「……アイラ、大丈夫?」

「だ、大丈夫です……」



 うん……大丈夫だ。これまでだって、ハージ兄が怪我したことなんて何度もある。きっと父が守ってくれる。

 私が泣いたってなにもいいことは起こらない。

 ぐっと涙をこらえて、ミラ様の後を追った。


「ハージお兄様!」


 私が行くとハージ兄は医務室のベッドに寝かされていた。

 駆け寄って、すぐに呪いを移した。隣ではコラン様が下を向いていた。


「アイラ、すまない。ハージが……」

 呪いを解いたハージ兄はすぐに手術室へ運ばれていく。骨折した右足は、見るのがつらいほどに無惨な状態だった。


「コランお兄様……」


 ハージ兄が運ばれた後も、コラン様はショックのあまり立ち尽くしていた。

 呆然とするコラン様とは対照的に、私はハージ兄の姿を確認できたことで、ひとまず気持ちを落ち着けることができた。


 私は騒めく部屋から隣の部屋に移動して、コラン様を空いているベッドに座らせ、自分も隣に座った。


「ハージは私を庇って……」

 コラン様の声が震える。彼がこんなに弱気になっているのを見るのは初めてだった。

「今は、手術の成功を祈りましょう。コランお兄様は大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」

「私はなにも……」

「なにもって、腕が切れていますよ」

 身体を確認すると、腕から血が出ている。

 側にあった救急道具を借りてコラン様の応急手当をした。

 簡単な処置なら慣れている。昔からハージ兄にしてきたことだ。

 コラン様の腕は鋭いもので切られていて、幸い傷は浅いが、服はもう駄目だろうと袖を途中から切り落とした。

 傷の手当が終わると私はそっとコラン様を抱きしめた。


「大丈夫ですよ。ハージお兄様は頑丈ですから。ご自分を責めてはダメです。ハージお兄様がコランお兄様を庇ったのなら、それはハージお兄様が望んだことですから」

「……しかし」

「状況はわかりませんが、同じ立場ならきっとコランお兄様だってハージお兄様を庇ったでしょう?」

「それは、そうだが……ハージがあんなことになって、アイラは私を恨まないのか?」

「ハージお兄様が望んでしたことです。それに弱い男じゃありません。きっと、大丈夫です」

「……アイラはハージを信じているのだな」

 私は動揺していないようにあえて笑った。

 そしてこれからのことを聞いた。

 ケガをした兄たちを守らなければならないと思ったからだ。


「氷の魔女はこれからどうでるでしょうか? 退散して諦めますか?」

「いや……。やっと、ハージにあれだけのケガを負わせたんだ、この状況を利用しない手はないだろう。これを好機だとハージの心臓を狙いにくるはずだ」

 動けなくなったハージ兄は格好の的になってしまうのか。


「ずっと怖くて聞けなかったのですが、赤い糸の呪いを受けたまま片方が亡くなったら、どうなるのですか?」

「呪いは死んでも消えない。その時は糸を一生つけたままになる」

「つけたままに……」


「生き残ったほうの行動に制限はなくなり、新たな他の赤い糸の呪いは受けれなくなる。呪いの赤い糸は一つしか結べないからだ。だから、氷の魔女はハージの心臓を欲しがっている」

 もしも、ハージ兄が最悪の状態になっても、その心臓を食らえば糸は移るのだ。


「どうしてそんなに氷の魔女はコランお兄様と繋がりたいのですか?」

「さあな。悪趣味だとしか思えない。こんなに嫌がっている私をそばに置いて何が楽しいのか」


 投げやりに言うコラン様をじっと見る。うん。まあ氷の魔女が欲しくなるのも無理はないほどの美しさである。

 私には理解しがたいが、一度手に入れ損ねたものが惜しくなって、良く見えることはあるかもしれない。


「このまま被害が大きくなるなら、私が生贄になった方が楽な気もしてくる」

 あんなに訓練して頑張ってきたのに、弱音を吐くコラン様が気の毒になる。

 けれど、それでは今、手術室で頑張っているハージ兄がかわいそうだ。


「ダメですよ。そんなことをしたら、ハージお兄様が報われません。それより、ハージお兄様の仇を取らないでどうするのですか」

 私が発破をかけたのが意外だったのか、コラン様が目を見開いていた。

「アイラがそんなことを言うなんて」

「私はハージお兄様をあんな目にあわせた氷の魔女を許せません。コランお兄様はどうですか?」

「もちろん、私も氷の魔女を許したりしない」

「では、必ず氷の魔女を倒してください」

 そう言って手を握るとやっとコラン様の表情が意思のあるものに戻った。


 もう大丈夫だと判断した私は顔色の良くなったコラン様と部屋を出た。

 みんなを集めて今後のことを早急に話し合わないといけない。

 きっと氷の魔女はすぐに行動を起こす。

 それまでに対策を考えなければならなかった。


 意欲を取り戻したコラン様が魔術師たちと意見を言い合っているのを、隣で黙って聞いていた。

 私が思っていたより、はるかに氷の魔女は厄介な存在だったようだ。


 みんなは、私を怖がらせないようにと、今まで氷の魔女の話を伏せ、あれこれと対策を講じてくれていたのだ。

 私が呑気に寂しさを感じていた間も……ずっと。


 その時、ポケットがもぞもぞしてハンカチを取り出すとハッパちゃんが出てきた。

「ハッパちゃん……そうだ、ミラ様に見てもらわないと! あれ……緑に戻ってる」

 赤くなっていたハッパちゃんは元の緑に戻っていた。

 思わず出てしまった私の声に、反応したミラ様がこちらを見た。

「ごめんなさい、お話の途中で……」

 私が謝ると、「大事な話は一通り済んだからいいよ」とみんなが快く許してくれた。

「あ、無事だったんだね」

 手のひらに出したハッパちゃんを見て、ミラ様がほほ笑んだ。

 私は頑張ったハッパちゃんの雄姿を知ってほしくてミラ様に報告した。


「赤くなって、種を飛ばして赤い目をした鳥を追い払ってくれたんです」

「ああ、氷の魔女の使い魔だね。偉いぞ、ハッパちゃん。立派にアイラを守ってくれたんだな」

 ミラ様が当然のように言うので、思い当たることを聞いてみた。


「あの、私を守るためにミラ様がハッパちゃんを届けてくださったんですか?」

「届けたのはコラン様に頼まれたんだけど、ハッパちゃんはアイラが好きだからアイラを守ったんだ。ハッパちゃんは離れていても他のハッパちゃんに危険を知らせることが出来る。一番危険な時に赤くなるんだ。だからテラ副団長がすぐに駆け付けられたんだよ」


 ミラ様がそう言うとテラ副団長の胸ポケットとミラ様の後ろから複数、兄弟らしきハッパちゃんが顔を出していた。

 あ、あんなにいたんだ、ハッパちゃん……。

 こうやって私を守ってくれていたのか。


 コラン様はもちろん、プレスロト国の人たちがいい人で良かったと目頭が熱くなる。

 第五王子のみ助けるなら、糸の呪いを足首に残したまま、相手を殺せばすぐに解決したのだ。

 それなのに、この人たちは面倒でも呪いを解くことを選んでくれていた。


 尊敬できる人たち。きっと、ハージ兄のことも助けてくれる。


「私も作戦に参加させてください」


 私が声を上げたことでさらにみんなの注目が集まった。

 ずっとみんなが守ってくれた。

 だから、今度は私が頑張る番だと思った。


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