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運命の赤い糸はとんでもない!  作者: 竹輪㋠


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アイラの決意

「そういえば、アイラ、母様から小包を預かっている」 

 しばらくしてコラン様から離れると、ハージ兄が荷物を渡してくれた。


「とりあえず、結婚のことはアイラにとっては急な話だったろう。今夜は呪いを俺が引き受けるから、ゆっくりと休むといい。いいですよね、コラン様」

「ああ……」

 心配そうな二人を見上げる。呪いは解かなければならないのだから、結婚することはもう決まったようなものだ。

 私が気持ちの整理をつければいいだけ。

 その晩は心を落ち着かせるためにも早くからベッドに入って、母からの小包を開けた。


「手紙……と本だ」


 ――私の愛する娘アイラへ


 プレスロト国は寒い国だと聞きましたが、ハージと二人、元気にやっていますか? 体にはくれぐれも気を付けてください。送ってくれたお金は大切に使わせて貰います。でも、ハージもアイラも無理することはありません。お母様一人くらいなら何とかしますからね。

 コラン様がコートボアール家に正式に結婚の申し込みをなさいました。まさかあなた達が三角関係になろうとは思ってもみませんでした。どちらがコラン様と結婚するのかはハージとよく考えなさい。

 どんな結果になっても祝福したいと思います。


 そうそう、それとね、例の本の二巻が出ていたのよ。参考になると思うわ。

 二人の幸せを願っている、あなたの母より

 ライラ



「二巻……」

 一緒に出てきた本は私と母が貪るように読んだ男性の同性愛の本の二巻だった。


 一章 二人の愛の試練

 二章 未来を思うこと

 三章 偽装結婚

 四章 偽りの家族

 五章 愛のカタチとは


 両思いになってから、あの二人がどうなったのか超気になってた! 

 ちゃんとカバーもしっかりかけられている、お母様、わかってる! 

 も、目次だけでも萌える!

 それから私は侍女さんたちに「一人にしてほしい」と頼んで、夢中になって二巻を読んだ。


「うわああああん」

 夜通し夢中で読み、もう一度盛り上がる場面を噛みしめて……気づけば涙が止まらなかった。

 一巻では、男同士という高い壁を乗り越えて結ばれた二人。二巻では、片方の彼が貴族の落胤であることが判明し、父親の一族に懇願されて家を継ぐことを余儀なくされる。

 そこで跡継ぎが必要になり、遠縁の女性と偽装結婚するのだ。

 当然二人は苦悩し、葛藤する。が、この女性が意外にもいい人だった。

 彼女は元々身分違いの恋をしており、身ごもって途方に暮れていたのだ。

 やがて三人は友情を育み、彼女が生んだ赤ちゃんを跡取りとして大切に育てるのであった。


 ああ、もう、みんな、なんていうか、いい!

 主人公の二人も、友情を築く女性も!

 子供も加わって、様々な愛が渦巻き、幸せが、いろんな幸せがああああっ。


 こんな愛の形もあるというのに!

 私はなんてちっぽけなことで悩んでいたのだろう。

 ハージ兄だって、私とコラン様が結婚することに胸を痛めないはずがない。

 それを隠し、呪いを解くために私に妻の座を譲ったというのに。

 私は『妻』になったら当然、夫に愛されるべきだと……そんな固定観念に囚われていたのだ。

 三人で幸せになったって、いいじゃないか!



「ふああああん」

 気持ちを高揚させたまま、私は本を胸に抱え、登ってきた朝日に、清々しい気分になった。


 大丈夫。私たちはきっと三人で幸せになれる!

 ハージお兄様! アイラは立派な嫁になりますからね!


 そしてその後、私は心よくコラン様のプロポーズを受け、一週間後には婚約が決まり、半月後の私の誕生日が過ぎたら結婚することになった。



 ***




「やっぱり、嫁だったんじゃない。まあ、いいわ。これで正式に私の娘になるんだから、可愛がってもいいのよね?」

「いえ、可愛がるのはご遠慮ください」

「なんでよ!」

 結婚の挨拶のため、王宮にいるロザニー様のもとへ、コラン様とともに訪れた。


 氷の魔女を警戒し、こちらに着いてからは呪いで繋がっている間、湖へ連れて行ってもらった時を除けば、部屋かコラン様のマントの中にいた。

 ロザニー様の部屋へ向かう際も、秘密の通路を通り、大きな鏡の裏から出て、ようやくたどり着いたくらいだ。

 王宮のロザニー様の部屋には、さまざまな剥製や珍しい花が飾られている。


 もともとロザニー様は優秀な魔術師だそうだ。

 珍しい魔眼の持ち主で、呪いの赤い糸もへんてこな眼鏡を使わなくても見えている。

 持って生まれるのは魔力と同じだが、魔眼は持っているだけでその力が随時発動されるという不思議な力だ。


 そんな特別な魔眼の持ち主でありながら、ロザニー様は王様を補佐しているため、魔術師団には属していない。

 故王妃は第四王子を出産された際に、不幸にも亡くなられている。

 四人の王子との確執を避けるため、ロザニー様は『公妾』という立場に落ち着いているのだ。


「では、挨拶は済みました。婚約は一週間後を予定しています。よろしくお願いします」

 私が一言も発せないまま、二人の顔を見比べていると話が終わってしまう。

 今度こそ、ちゃんと結婚のご挨拶しなくては!


「あ、あの!」

 その時、私とコラン様をつなぐ糸をロザニー様がじっと見た。

「あらあら……こんなに赤い糸が熟していたら十分ね」

「え?」

「結婚はいつするの?」

「半月後にアイラの誕生日があるのでその二日後くらいにするつもりです」

「アイラちゃんは十八歳になるのね。コランが二十四歳で六歳差かあ……、お誕生日会はいろんなことが片付いてから盛大にしましょうね! コランのこと、よろしくお願いね」

「こ、こちらこそ! お願いします!」

「それじゃあ、もう、いいですよね?」

 やっと挨拶できたと思ったら、コラン様に腰を掴まれてサッと部屋を退出する。『コランのケチッ』というロザニー様の声がまた後ろから聞こえていた。


「父には婚約するときに挨拶するから」

「そ、そうなのですか。き。緊張します」

「ところで、アイラは、ずっと軍服を着るつもりなのか?」

「こちらの服の方が好きですよね?」

「……好きだが、ドレスを贈っただろう?」

「コランお兄様の苦手な匂いが炊き込めてあったのです。今、風にさらしています」

「そんなことをしてくれていたのか」

 ありがた迷惑なことに新作のドレスは素敵だったが、強烈な薔薇の香りが焚き染めてあったのだ。正直あそこまでされると私もちょっと苦手である。


「久しぶりにミシェルに会いに行ってもいいですか?」

「すまない。これからハージと訓練を行いたいんだ。呪いを代わってもらってから、護衛をつけて見に行ってもらうことになるがいいか?」

「あ、はい。もちろん」

 とは言ったものの、本当はコラン様と行きたかった。


 結婚が決まってから呪いは夜だけ私が引き受けていた。しかし、激しい訓練をしているらしく、ベッドに入るとコラン様は秒で眠ってしまう。

 だから会話もほとんどない。


 今日は久しぶりに昼間一緒にいれたのだ。

 もう離れてしまうなんて……寂しい。

 でも……。

 こんなふうに思うのは、ハージ兄に悪い。

 二人を応援するって決めたのに、心が揺らいでしまう。


 そのまま話も弾まず、騎士団の練習場へと向かった。

 細くて特別な通路を歩いているとチラチラと雪が降ってきていた。

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