王宮へ
「さあ、もう出てきてもいいぞ」
「うわあああ……!」
ひらりとマントから出ると、視界が一気に開けた。
そこは、キラキラと輝く広い部屋……まるで物語の中のお城のようだった。
カーテンの織り柄が見事で、厚みもある。家具のひとつひとつが高価そうで、堂々とした存在感を放っている。
「とりあえず、この客室はアイラが自由に使ってくれ。服はすぐに用意させよう。着替えたら宮廷の魔術師団のところへ向かう。着いたばかりですまないが、協力してもらえるか?それが済めば、たっぷり休めるように計らおう」
「わかりました」
「では、アイラ、仕度が済んだら迎えに来る。不都合があれば、なんでも侍女に知らせなさい」
「すぐに駆けつけてやるからな」
「はい」
そう言って、二人はコラン様の自室へと向かった。
客室に一人になると、すぐに侍女たちがやって来た。
恥ずかしくて抵抗したものの、彼女たちは「お嬢様、我慢なさいませ」と繰り返し、容赦なく私をお風呂で磨き上げてしまう。
そして、ロザニー様のお古だというドレスを身に着けさせられた。
「……胸に詰め物をいたしましょう」
スカスカのドレスの胸に詰め物をされて屈辱を味わう。
最後の仕上げにと香水をふりまかれそうになってそれを拒否した。
「すみません! 香水はコランお兄様が嫌がるので」
慌てて止めると侍女たちが目を丸くして私をじっと眺めた。
「……失礼いたしました」
ついでにお化粧も拒否して化粧水だけつけてもらった。
「グロスは香りがついておりませんので」
気を利かせてくれた一人が唇に無臭のグロスを塗ってくれた。
あんなに色々と化粧品を用意してくれていたのに、きっと彼女たちには物足りない仕度にさせてしまっただろう。
「あの、ありがとうございます。こんなに素敵にしてもらって嬉しいです」
お礼を言うと侍女たちがにっこりと笑ってくれたので少しほっとした。
「アイラ、仕度は出来たか?」
胸がスカスカだった以外は素晴らしいドレスに感動していると兄たちが迎えに来てくれた。
「わ……」
二人は正装に着替えていて、見目麗しい美男子となっていた。コラン様は当たり前として、ハージ兄さえワイルドな男前に見えるのだから、この邸の使用人の技術の高さには驚かされる。
「おお、可愛いじゃないか」
私を見てハージ兄は真っ先に褒めてくれたが、コラン様は固まっていた。
ロザニー様のの昔着ていたというドレスはお気に召さなかっただろうか。
それとも最近男の子みたいな恰好ばかりだったから、女の子らしいのは嫌だったのかな。
「匂いは大丈夫でしょうか?」
そう言って近づくと、コラン様がビクリと肩を揺らした。
「あ、ああ、とても似合っている。匂いも大丈夫だ」
一応、合格点だったようでホッとする。
もうこのドレス自体がいい匂いなのはどうしようもないからだ。
ドレスを着たからかコラン様がエスコートしてくれる。
うんうん、幼女扱いからちょっと脱出したかな?
そこから宮廷魔術師団のある王宮に馬車で向かったが、王宮はさらにすごく豪華で大規模な建物だった。
「団長!」
コラン様の手を借りて馬車を降りると、いかつい騎士たちが彼を見つけ、勢いよく駆け寄ってきた。
久しぶりに帰ってきた騎士団長だ。
あっという間に五、六人が集まってきたかと思うと、さらに後ろからかき分けるように、真紅の髪を持つ美形の騎士が現れた。
「コラン様! 戻られたのですね! ああ、ハージ殿も……あれ? その方は?」
戸惑いを隠しきれない騎士たちの視線が、一斉に私へと向けられた。
「こちらはハージの妹、アイラだ。あまり見てやるな、緊張してかわいそうだ。
あとでちゃんと説明するが、私が頼んでロメカトルト国から来てもらっている。
丁重に扱ってくれ」
「だ、団長がお願いして、わざわざロメカトルト国から女の子を? な、なにか理由が?」
「理由はおいおいわかるだろう。アイラのことは、私の妹だと思って接してくれ」
コラン様がそう言いながら、私の背中に手を回し、そっと前へと出した。
私は背筋を伸ばす。
「アイラ=コートボアールです。不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げると、コラン様が優しく頭を撫でてくれた。
一瞬、場が静まり返り、そして、どよめきが広がった。
「なんだ、ハージ殿の妹か」
「え、でも団長の妹だって思えって……。え、なに? 俺バカだから理解できない」
「あの、女嫌いの団長が触ってるぞ、嘘だろ?」
「いや、しかし、妹……憧れの響きだ」
「なんか、でも、小動物みたいで可愛い」
「確かに……可愛い」
「可愛いからいいんじゃないか?」
ざわざわと騎士たちが思い思い口にしている。
どう反応していいかわからなくて目をパチパチしていると、赤い髪の人がゴホン、と咳払いした。
「ともかく、プレスロト国までコラン団長のためにはるばる足を運んでくださったのですね。どうぞ、よろしくお願いします」
その声を聞いてみんなが姿勢を正して「よろしくお願いします!」と続けた。その大きな声に驚いた私も
「お、お願いします!」
と叫ぶと、その素っ頓狂な声がおかしかったのか、みんなが顔を見合わせてケラケラと笑った。
優しそうな騎士のみなさんで私も安心した。
「テラ、しばらくはまだ騎士団のことを頼む。みなもテラ副団長の言うことをしっかりと聞くように。私はこれから二人と魔術師団のところへ行ってくる。」
赤い髪のイケメンはどうやら副団長だったようだ。
コラン様が軽く肩を叩いてその場を過ぎ去った。慌てて手を振ると、笑顔になった皆が手を振り返してくれた。
「アイラは挨拶しただけで皆に好かれるのか?」
「え?」
手を振る私を見てコラン様がそんなことを言うと、
「どこに行っても、いじられ役ですが、好かれるんですよ」
と成り行きを見守っていたハージ兄が返した。むむ、確かによくいじられるけれど、暴露しないでもいいのに。
私は余計なことを言うハージ兄に口を尖らせた。




