お兄様万歳
ハージ兄が見つけた食堂はとても広い店で、様々な料理を扱っているようだった。
給仕に人数を告げると、奥の隅の席に案内される。
私が硬い木の椅子に躊躇していると、ハージ兄が買ってきてくれたクッションを袋から出して渡してくれた。
「ありがとうございます。とっても柔らかいです」
我が兄ながら、なかなかのチョイスのクッションである。
ホクホクとお尻の下に敷いて位置を調節して座る。
あれ? でも柔らかすぎてあんまり意味がないかも……。
でも、きっと一生懸命さがしてくれたんだろうしな。
そう思って、そのまま我慢することにした。
「大好物のオムライスは外せません……デミグラスソースマッシュルーム入り。お、美味しそう。でも、海老のタルタルソースも捨てがたいです……」
メニューが多くて悩む……。外食なんてほとんどしてきてないから、全部美味しそう。
「アイラ、食べきれなかったら食べてやるから好きに頼め」
そこでハージ兄が嬉しい提案をしてくれた。
食べ物を残すのはダメですからね!
「お兄様たちは何にするのですか?」
「俺はステーキ」
「私も」
「……へえ」
お昼からがっつりなんだ。なんだか全部筋肉になってそう……。
しかも同じ注文ってやっぱり仲がいいな。
「では、オムライスと……デザートを頼んでいいですか?」
「ここはナッツのパイが名物らしいぞ」
「わあ! それにします!」
結局、俺も食べたくなったと言ってハージ兄が海老のタルタルソースも頼んでくれた。
ほんとさ、優しいんだよね。
そしてナッツのパイはみんなで食べようとホールにしてもらった。
「美味しーい!」
この、デミグラスソース最高!
アツアツのオムライスをスプーンで頬張る。
お尻が痛くなかったら、もっと最高だけど。
オムライスが半分減ったところでハージ兄がエビフライを一匹お皿に入れてくれた。さっすが~! もー大好き!
「食事が済んだら、宿で薬を塗って寝ていたらいいからな。すぐに呪いは交代するから」
「心配かけてすみません」
「いいんだ。気にかけてやれなかった俺が悪い」
ハージ兄が申し訳なさそうにするのに心苦しい。
ここは、平気なふりを通さなければ。
しかし、コラン様の目はごまかせなかったようだ。
「アイラ、今も痛いのではないか?」
ずっと黙ってたコラン様に指摘されて、思わず肩がびくりと跳ねてしまった。
「……え、痛いのか? そのクッションだと薄かったか」
「あ、あの! クッションはとっても触り心地も良くて! 柔らかくて……」
ハージ兄をがっかりさせたくなくて言い募るが、バレバレなのか二人の視線が厳しかった。
「アイラ、無理しなくていい。プレスロト国に着くまでまだかかる。ちゃんと言ってごらん」
コラン様に言われてハージ兄を見る。
せっかく買ってきてくれたのに文句を言うようで嫌だ。
首を振ると、おでこをこつんと指でつつかれた。
私がこうやって嘘をつくのはもうハージ兄にはお見通しだった。
「ちょっと、柔らかすぎて、痛いです……ひゃっ」
仕方なく白状すると、言い終わる前にコラン様に腰を掴まれて体が浮いた。そうして私は膝の上に乗せられた。
ええっ。
ええええっ。
「コ、コランお兄様?」
「こうすると楽なんじゃないか?」
コラン様が足を開いて私を間に入れ、片方の太ももに座らせた。なるほどこうすると太ももで座るのでお尻は痛くない。
「……ら、楽です……」
「では、こうしていよう」
「コラン様! それはいくらなんでも……アイラ、俺の太ももに座ればいい」
「ハージ、呪いの糸があるんだ。それは無理だ」
「……アイラは俺の妹なんですよ?」
「私の妹にもなったのだ。いいじゃないか、ハージはアイラに「大好き」なんて言ってもらえたのだから」
「アイラが俺のことを大好きなのは当たり前です」
ん?
どうして二人が言い争うような感じになってるのだろうか。
おかしい。
これは、私をダシにした恋人同士のじゃれ合いなのだろうか。
私は兄が二人になってお得でしかないけれど。
「あ、頼んでいたデザートが来ましたよ? ほら、みんなで食べましょう。私、楽しみにしていたんです」
「アイラは私のことも大好きだな?」
「え? はい。コランお兄様も大好きです! 私はだーい好きな二人の仲がいいと、もっと嬉しいです」
そう言うと二人は黙った。
それからホールで頼んだパイをどちらが私に切り分けるかで一悶着あったが、あとは無事に昼食を終えることができた。
そんな二人を見て、ニヤニヤが止まらない私。
だって、なに、このイチャイチャ!
コラン様が本格的にお兄様になったようである。 万歳!