第1王姫の私は、妹推しの騎士団長を振り向かせたい〜だって初恋の人だから!〜
全身にピチッと合った身体のラインが強調されるドレス、そして入念に仕込んだメイクと優美な髪飾り。
周囲の男を悩殺するにはあまりに過激すぎるが、そうでもしないとあの方は振り向いてくれない・・・。
「シーマ様!見てください!どうですか!」
「ルナ、王宮内であまりそんな格好をするんじゃない。背伸びをするのはいいが、皆の目につかないようにな。」
「もう!子供扱いしないで!私はもう大人です!それに、この格好はシーマさ・・」
「あぁ。キレイだよ。」
シーマ様はそう冷たく突き放すと、私の横を通り過ぎてしまった。
シーマ様は若くしてこの国の騎士団長になった方であり、私の想い人でもあった。
私が幼い頃から王族の直属騎士団の一員として活躍していたシーマ様は、いつからか王家の長女であった私を実の妹のように可愛がってくれた。周囲の国との争いがないときには、二人で語らい合ったことは今でも夢に出てくる。
私はいつしか、この方と結ばれるんだろうな、とばかり思っていた。王家の長女と騎士団長が結ばれるというのは決して異例な事でもなく、むしろ我が父である国王はそれを望んでいるフシはあった。
しかし、この1〜2年その風向きが急激に変わってきた。
シーマ様は私ではなく私の妹“ララ”を可愛がるようになってきたのだ。
それだけならまだしも、それを境に急激に私に対する態度が冷たくなったように感じる。
ララが成人を迎える年齢になった事もあり、王宮の中でもララとシーマ様を結婚させるべきではないかという話がちらほら出ているほどだった。
「シーマ様!今日こそお聞かせください!私がララより劣っている部分はどこなのでしょうか!!」
「劣っている部分なんてないさ。ルナはそのままでいい。」
「そういうのは良いのです!ハッキリ申し上げてください!」
「あぁ、時間のあるときにな。これから軍議の時間だ。急がねば。」
私はシーマ様に追いすがったが、シーマ様はそれを軽くいなすとこちらを振り返る様子もなくスタスタと歩いていってしまわれた。
私は肩を落として部屋に戻った。服を着替え、派手な髪飾りもいつもどおりに戻し、派手な化粧も落としてしまった。
そして鏡に映る自分の姿に思わずため息をついてしまった。
(何やってるんだろう・・・。)
私はふと昔のことを思い出していた。
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まだ12、3の頃のことだ。
王宮の外の世界を知らない私は、馬車の往来の隙を見計らって城門を突破し、城外に出たことがあった。
城下の街は賑やかで、人々は皆笑顔が絶えない生活をしていた。
しかし、そこから少し進むと薄暗い森になっており、そこは魔物が巣食うと噂されるほど不気味な場所だった。
私は好奇心からドンドンと奥へ進み、そしていつの間にか帰路を見失ってしまっていた。
なんて言うことをしてしまったんだ。もうお城に帰れないのではないか。そんな不安から私は座り込んで泣き出してしまった。
そんな時、いの一番に私を見つけ出してくれたのがシーマ様だった。
「全く、お転婆な姫だ。」
「ごめんなさい・・・。」
「もう俺のそばから離れてくれるな。お前がいなくなって悲しむのは王や王妃だけじゃない。俺もだ。」
あの時、馬の上で見たシーマ様の背中は誰よりもかっこよく、そして温かかった。
私は一生この人と添い遂げよう、と決意したのはこの時だった。
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「あの時はああ言ってくれたけどなぁ。」
私は、諦めきれないという思いと同時に、ララには敵わないという思いも抱いていた。
それほどまでに、妹のララは完璧に近い人間だった。
男なら誰しもが振り返るほどに洗練された容姿、そして癒やしと評されるほどの聞き心地の良い声、おしとやかさも兼ね備え、皇女として備えていないものがない。
妹という関係性でなかったなら、多少の嫉妬すら沸かないような存在だった。
私はお転婆と言われるほどの人間であり、また、完璧すぎる妹を持ったせいか、根が暗いと自認している。
故に少しでも派手に着飾って、シーマ様の気を引こうとしていたのだが、もはやその造り物のきらびやかさではララには勝てないほどの絶望的な差があるようだった。
「あっ、シーマ様だ・・・!」
部屋の窓からシーマ様を見つけ、手を振ろうとしたがその手はすぐに降ろした。
シーマ様の隣にはララがいたからだ。
「ララは何を着ても似合う。」
「そんなことないです・・・。でも、シーマ様にそう言っていただけると嬉しいです。」
ララはそう言って静かに頬を赤らめていた。
不覚にも私はお似合いだな、と思ってしまった。
シーマ様とララがあまりに絵になりすぎていた。
ララに嫌なところが1つでもあればまた違っていたのだろうが、そんな皮肉めいた部分がないのも私にとってはあまりに悲惨だった。
「あぁ、ララがどっか行けばいいなんて思ってる自分が嫌いだ。」
私は心の中にあった少し黒い感情を呟くと、開いた窓に腰掛けた。
心地よく靡く風が少し冷静にさせてくれる気がしたから。
しかし、不意に強く風が吹き付け、私はバランスを崩してしまった。
そして窓の下に落ちてしまったのだ。
「きゃああぁぁぁ!!!」
高さは10mほどあろうかという場所から、真っ逆さまに落っこちたのだ。
私は自分の死を悟った。
しかし、心のどこかで、これで良かった、という安堵の気持ちもあった。
もうシーマ様のことでこれ以上悩まなくてすむんだな、という思いがあったからだ。
どんどん地面が近くなり、私は最期の覚悟をして目を閉じた。
ドンッ!!という音がした。
その音からしばらく、私はどこにも痛みも何も感じていないことに気がつき、ゆっくりと目を開けた。
「シーマ様・・・!!?」
シーマ様が私の下敷きになってくださっていた。
ララが少し離れたところで声も出せずに目を丸くしていた。
「全く・・・、本当にお転婆な姫だ。」
「ごめんなさい・・・。窓に腰掛けていたら風でバランスを崩してしまって!それで!」
私は矢継ぎ早に弁明をした。
傍目から見ればただの自殺志願者だ。
シーマ様は起こっているに違いないと思った。
しかし、シーマ様は力強く私を抱きしめた。
「言っただろう。お前がいなくなって悲しむのは俺なんだ。」
「シーマ様・・・。」
シーマ様はゆっくりと私から離れると、私の頬に垂れていた涙を指で払った。
私は知らぬ間に泣いていたのだ。
「ルナ、泣くな。キレイな顔が台無しじゃないか。」
「キレイじゃありません・・・!化粧も何もしていないのに!」
「お前は着飾る必要なんかない。そのままでいいんだ。私は、そのままのルナが好きなんだ。」
「え、好き・・・?」
シーマ様が穏やかな笑顔で私を見た。
そして私の頭をポンポンと叩いた。
私はその言葉だけであと50年は生きられる。そう確信した。
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