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メイドのイザベラさん ~ご主人様、ソシャゲの周回もできますよ~  作者: KOKUYØ
第二章 コンパニオンのソフィア
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第六話 学校に来るソフィア


 ソフィアは鬱陶しそうにしていた。女子生徒に囲まれて。


「お前たちうるさいでーす。わたし日本語しゃべれまーす。栗栖トウヤを出せでーす」


「栗栖トウヤって誰?」


「ほら、二年にいなかった? そういう名前の子。マラソン大会でけっこういい成績だった」


「えーっと、あの目立たない子?」


「そうそう」


 目立たなくて悪かったな。


 ソフィアは栗栖トウヤを出せとわめいている。幸い昼食時だ。周りに人は少ない。しかし目立つことこの上ない。このまま騒がせていたら変なうわさが立ちそうだ。


 しょうがない、と栗栖は物陰から出ていく。


「あ、栗栖トウヤ!」


 ソフィアがまるで親の仇でも発見したかのように歯をむいた。


「ねえねえ、この子キミの彼女?」


 三年の先輩が聞いてくる。やっぱり女の子はそういう話が好きだ。


「違いますよ、ぞっとしないこと言わないでください。これは、えーっと、親戚の子です」


「嘘だー。だってこの子外人さんじゃん」


「あれなんですよ、ハーフです、ハーフ」


 適当に答える。三年の先輩たちはそういうことにしておいてあげるわ、とでも言いたげな表情で去っていく。小さな声で、メイド服ってちょっと趣味悪いよねと聞こえた。これはソフィアも聞こえたようで、自分の格好をまじまじと見つめる。


「変ですか?」


「いや、別に。ただTPOってものがあるからな。学校に来るんならそんなコスプレメイドみたいな格好はやめてくれ」


 この前のマラソン大会でイザベラが来たときもメイド服だった。なんだ、フランスではメイド服で外を出歩くのだろうか? 分からないが、そうだと言われたら信じてしまいそうだ。


「それよりお前、弁当届けに来てやったでーす。まったくお前はバカでーす。せっかくお姉さまが作った弁当を忘れるなんて」


「本当にな。ありがとうよ」


 栗栖は弁当の入った巾着袋を受け取った。


 彼自身は知らないが、最近クラスでは栗栖の弁当が話題になっている。今までコンビニのおにぎりやら出来合いの弁当やらを持ってきていた男が、突然あきらかな手作り弁当を持ってくるようになったのだ。あれはなにかある、とうわさされても仕方がない。


 ちなみにこのうわさを積極的に流しているのは山崎である。


 ソフィアは帰ろうとしない。向き合って、じっと栗栖を睨んでいる。


「まだなにかあるのか?」


「もうないでーす」


「じゃあ帰ったらどうだ?」


 こんなところを人さまに見られたらなんて言われるか分からない。


 だがソフィアは帰ろうとしない。何かを栗栖に言おうかどうしようか迷っているようだ。しかし意を決して言うことにしたらしい。


「お前!」と、栗栖を指差す。


「なんだよ」


「お前、お姉さまとどんな関係でーす! お姉さまが居ない今、はっきりさせてやるでーす!」


「それ今じゃなくちゃダメか?」


「どうしてお前みたいな男がお姉さまの主人なんです! わたしは認めませーん」


「そう言ってもな、俺じゃなくてイザベラがそういったんだ。理由は俺だって分からないんだよ」


「どうせ、どうせお前も――お姉さまを捨てるんです! お前もお姉さまを傷つけるんでーす!」


「捨てる? 傷つける? なんのことだ?」


「もしもそんなことになれば、わたしはお前を許しません!」


 ソフィアは言いたいことだけ言うと、さっさと帰っていく。長い下り坂を小走りで降りていくのだ。後ろ姿から見ても、肩を怒らせているのが分かる。


 あの子はイザベラのことがとても好きなのだ。大切に思っているのだ。だから彼女を悲しませたくない。


 しかし捨てるというのは聞き捨てならない言葉だった。あの言い方だと、イザベラはこれまで誰かに捨てられたのだろうか? それが男だったら嫌だな、と思った。けれどそれは違うはずだ、確信はないがそれだけは自信を持って言えた。イザベラはそんな人じゃない。


 弁当を抱えて教室に戻ろうとしたら、後ろに山崎がいた。


 その目は面白いものを見たというように笑っている。


「なんだよ、お前いたのか」


「いたよ、いたいた、いましたよ」


「……見たのか?」


「見たよ、見た見た、見ましたよ」


「よし、口封じに殺すか」


「おいおい相棒、水臭いじゃないかよ。あんな可愛い子と知り合ってたのかよ。ってことはその弁当も、あの子の手作りかい。っていうかなんでメイド? 栗栖の趣味? ……ん、メイド?」


「そうだよ、メイドだよ」


 栗栖は山崎をよけて教室に戻ろうとする。山崎は慌てて追いかけてくる。


「ちょ、メイドってお前。最近よく言ってた?」


「言ってたけど、まあ違うメイドだ。もう聞かないでくれよ」


「あれマジだったのかよ! 俺てっきりいつもの妄想かと!」


「なんだよ、いつものって。俺がいつお前に妄想を口にしたんだ」


 言い方が悪い。それでは栗栖がいつも変なことを言っているようではないか。


「なにあのメイドさん! 外国人だったよね!」


「違うって、親戚の子だよ」


「ああ、親戚かー。って、そんなわけねえだろ! なんで日本人のお前の親戚が外人なんだよ!」


「なんていうかほら、あれだよ。腹違い。うん、そうそう。遠い親戚なんだよ」


 さすがに無理のある言い訳だ。当然のごとく山崎は信じない。と、思ったら――。


「ああ、腹違いか。ならそういうこともあるのか」


 あっさり信じた。


 どうやら山崎は腹違いの意味を知らないらしい。こいつこんなので次のテストの現国大丈夫だろうか、と栗栖は心配になってしまう。なにせ山崎ときたら、テストではいつも学年最下位近くをうろうろしているのだ。

 一年の学年末テストなんて不登校のやつよりも点数が悪かったくらいだ。自分では補習に行きたかったのだ、なんて強がり言っているが、誰が好きこのんで長期休暇までこんな長ったらしい坂道を登って学校に来たいものか。


「腹違いってことは、お兄さん」


「なんだよお兄さんって気色悪い」


「俺にもチャンスがあるんですよね、お兄さん! 外国人のロリータメイドと付き合えるチャンスが!」


「万が一、億が一、お前とソフィアが結婚しても俺はお前のお兄さんじゃねぞ」


 そもそも妹ではないのだ。


「いやあ、光明さしてきた!」


 はあ、と栗栖は深く息を吐く。山崎と話をしていると、時々疲れる。


「つうかお前、この前の外人さんはどうしたんだよ。パン屋に来るっていう」


 十中八九イザベラのことなのだが。


「ああ、あの人か。あれは……あんまりにも奇麗過ぎるからさ。レベルが違うんだよ。マジでお前も見たら分かるよ、綺麗すぎて息がつまるんだ。話そうとしてもキョドっちまってさ。まともに声すらかけられないんだ」


「へえ」


「それにさ、良い匂いするんだぜ。甘い匂いなんだ!」


「なあ、キモいからやめてくれる?」


 イザベラの匂いを山崎がかいだと思うと無性に腹が立つ。


「今度、朝にうちの店来てみろよ。いつも6時に来るんだ」


 別に行かねえよ、と適当に答えた。


 その後、口封じのために山崎にジュースを奢る。もっとも口の軽い山崎のことだ。こんなことは気休め程度だ。だが、やらないよりは良い。


「絶対に誰にも言うなよ!」


「それってふりか?」


「マジだ!」


「オッケー」


 ぜんぜん信用できない。だけど見られた自分が悪いのだと思うことにする。それにどんなうわさを流されても事実無根である。どうせソフィアもしばらくすればフランスに――フランスかは分からないが海外に帰るだろう。そうなればうわさもそのうち無くなる。


 栗栖はこのとき、そう思っていた。


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