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メイドのイザベラさん ~ご主人様、ソシャゲの周回もできますよ~  作者: KOKUYØ
第二章 コンパニオンのソフィア
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第一話 嵐を呼ぶソフィア


 その少女といってもまだ差し支えない女が空港に降り立った時、一陣の風が吹いた。「ここにお姉さまがいるのね」


 目立つ格好をした少女だった。


 メイド服、なのだろうが格調というものをまったく感じさせないどこかアニメチックな服装だ。華美にすぎるフリルとレース。胸の下の腹部には巨大なリボンが存在感を示している。極めつけにスカートはミニだ。メイド服、というよりもどこかのアニメに出てくるゴスロリメイドのコスプレのようなものだった。


 栗色の髪をなびかせ、幼児体型の少女は巨大なスーツケースを引いている。その目にはサングラスがかけられており、格好と相まってどこかちぐはぐな印象を受ける。


「まったくお姉さまは何を考えているのかしら、この大切な時期に日本になんて」


 少女はそう、フランス語で呟く。


 地方の小さな空港だった。欧州から直通便はなく、一度成田を経由した長旅だった。だというのに少女は疲れをまったく感じさせない足取りで歩いている。だがその足取りに海外旅行の浮かれた様子はない。どちらかというと今から仕事にいくビジネスマンのそれだ。


 少女の名前はマリー・ソフィ・ド・トゥールーズ=ロートレック。親しい人間からはソフィアと呼ばれている。


 彼女が日本に来た理由は簡単だ、イザベラを連れ戻しにきたのだ。


 ソフィアとイザベラはつい先日まで同じ屋敷で働いていた。だがイザベラは暇を出されて、実家でもある養成学校に戻ると言っていた。だというのに、彼女は失踪したのだ。ソフィアはとても気をもんだ。なぜならイザベラは今、Sランクメイドへの昇格試験を控えた身だったからだ。


 今が大切な時期。


 だというのに、一体どこにいったのだろうか。まさかプレッシャーに耐えられなくなって逃げたのか――それはないと思いながらも心配だった。


 そんなおりイザベラから手紙が来た。


 内容はとても簡単なものだった。


『貴女には迷惑をかけたわね。行き先も告げずに出ていったことを謝ります。私は元気でやっております、こちらで素敵なご主人様もできました』


 概ねこれが、イザベラからの手紙の内容。その全文に近い形だ。


 ソフィアが気になったのは最後の部分だ。


 ――ご主人様ができた、ですって?


 あのイザベラに、という疑問もあったし、それを手紙に嬉しそうに書くのも驚くべきことだった。なんとなく嫌な予感がした。大好きなイザベラを誰かに盗られてしまうのではないかという予感だ。


 差出人を見る。日本からの手紙だった。


 ――ジャパン、行ってみたいわ。


 ソフィアは矢も盾もたまらず旅支度を始めたのだった。


 そして現在、彼女はすさまじい行動力で日本までやってきた。


 イザベラの住所はメモしてある。空港から出て、停まっていたタクシーに乗り込んだ。


「どこまでですか?」と、気難しそうな顔をしたタクシーの運転手は、ここは日本だ馬鹿野郎とでもいうようにぶっきらぼうに、日本語でソフィアに尋ねた。


「このメモのところまで行って欲しいでーす」


 ソフィアの言葉はどこかなまりがあるが、しかしそれはとてもつもなくわざとらしいものだった。まるでアニメに出てくる外国人の喋り方をそのまま真似したようなものだった。


 もっとも、通じるか通じないでいえば問題なく理解できる。


「はい、かしこまりました」


 タクシーの運転手はメモに書かれた住所を一瞥すると、なめらかに車を発信させた。


 空港でタクシーを拾った客はソフィアだけのようだった。他の客は駐車場まで行って自家用車に乗り込んだり、大型バスにつめこまれていったり。こういう光景も田舎特有だろう。ちなみに後者はアジアからの観光客だ。


「今日は天気悪いですね」


 運転手はまるでそうするのが義務だとでもいうように、ソフィアに話をふった。


「本当でーす。わたし、こんな天気の日は嫌いデス」


 彼女の『わたし』の発音は少しおかしい。


 しかしその妙な発音でも自信満々に喋るので、聞いている方からしたらどこか愛らしい気がする。といっても、タクシーの運転車はまったく笑わないのだが。


「すぐに雨が降り出しますよ、さっき天気予報で言ってましたからね」


「日本の天気予報、すごい精度と聞いてます。きっと当たるでしょう」


「嵐が来ますよ」


 タクシーは校外から県庁所在地に向かって行く。目的地まではやく二十分。


 ソフィアは覚悟を決めるように鋭い目で前を睨んでいる。


「お姉さま……」


 と言う言葉が口をついた。


「なにか言いましたか?」


「なんでもないでーす」


 なんでもないということはない、ソフィアのその言い方はまるっきり想い人に対するそれだったのだ。しかしその目には、わずか数ポンド程の憎しみの色も込められている。そのことに、ソフィア自身も気がついていないのだが。


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