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41.ステンノ

ステンノ視点です。

 私は荒れた道を必死に歩いていた。ペガサスに乗れればこんな苦労もしないのだが、あの馬は私が乗るのを拒絶したのだ。エウリュアレは喜んで乗せるのに……不愉快だったらから傷つけてやったので、胸が少しすっきりしたものだ。なんでエウリュアレは乗せるのに私は乗せないのだ。

 昔からそうだった。みんなに愛されるメデューサ、みんなに優しくて慕われるエウリュアレ、私には何もなかった。私は長女でありながら何もなかった。

だが、私は族長の娘だった。そして長女だった。だから後継ぎとして恥ずかしくないように、自分にも厳しく他人にも厳しくした。でもそれは逆効果で、余計に他者を遠ざけるだけだった。そんな私の癒しは趣味の薬を作ることだった。何にも誇れない私だったけど、薬を作る才能だけはあったのだ。そしてある日、転機がおきた。

 それは里の外を警護している時だった。私は襲ってきたマタンゴを倒してその胞子から、薬を作るの事に成功したので、その効果を試していたのだ。私が、たまたま見つけたゴブリンにそれを振りかけるとやつらは混乱をして同士討ちを始めた。私がその結果に満足していると背後から声をかけられた。



「へぇー、それは君が作ったのかい? ゴルゴーンなのに魔眼以外の戦闘技術を生み出すなんてすごいなぁ。君ならこの閉塞した里を変えれるかもしれないね」

「貴様は何者だ……?」



 突然の存在に私は警戒心をむき出しに構える。目の前にいたのは吟遊詩人のような帽子をかぶった優男だった。なぜだろう。本能が言っているこいつには逆らってはいけないと。逆らったら死ぬと。



「ああ、ごめんごめん、あまりに君が興味深かったから声をかけちゃったんだよ。僕の名前はヘルメスだ。君たちが魔族と呼んでいる存在だよ」

「魔族だと……」



 そういって、軽薄そうな笑みを浮かべてこちらに歩いてくるヘルメスに、私はなにもできなかった。彼は終始笑顔だったけれど、それが逆に不気味だった。まるで蛇に睨まれた蛙のように体を動かすことができなかった。蛇は私のはずなのに……



「君にプレゼントを上げよう。君は僕の求める英雄になれる可能性がある。僕の予想を乗り越えることができる可能性がある。これから君の里は危機に襲われるだろう。そこで君がどう動くか楽しみにしてるよ。なに、他人から盗った『ギフト』だからね、遠慮はいらないさ」



 そういって彼は私に触れた。すると私の頭の中で何かが変化する。私の世界が変化する。少しの間、気を失っていたのだろう。目を覚ますと誰もいなかった。私は夢でも見ていたのかと思い、実験中だった薬を回収しようとすると驚いた。見ただけでその成分がわかるのだ、見ただけでどういじればもっと有用になるのかわかるのだ。これが彼の言っていた『ギフト』と言うやつなのか。私は一層、薬の研究に実が入った。私は里のために仲間を守るために、色々な研究を続けていった。

 そして、ある日私は母と他のゴルゴーンが話しているのを聞いてしまったのだ。



「後継者はステンノ様と、エウリュアレ様のどちらにされるのでしょうか?」

「決まっているでしょう、エウリュアレよ。あの子の方が人望があるし、ペガサスにも認められている。ステンノには悪いけど……」

「最近ステンノ様もがんばっていますが……やはり、エウリュアレ様の方が私たちをよりよく導いてくださるでしょうね……」



 その話を聞いた時、私は思わず家を出て、誰もいないところで泣いてしまった。でも……心の中では私はわかっていたのだ。彼女の方が人望があるという事も……彼女だけが村の守護者であるペガサスも認められているという事も……だから彼女こそが族長にふさわしいのだという事も。一晩中泣いて、私は自分を無理やり納得させた。私はせめて自分のできることをやろうと思う。私は族長にはなれなかったけれど、エウリュアレを支えようと。



 流れが変わったのはキマイラとその配下のオーク達に里が襲われてからだ。キマイラは非常に強力な魔物で、ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ魔物でここら辺一体の魔物のボスのような存在だった。

 みんなが絶望に侵された顔をしながらも武器をとる。まともにやったら負けるだろう。だからせめて子供達だけは助けようと、子供たちが逃げる時間だけは稼ごうと、武器をとる。

 しかし、幸いにも里が滅びることはなかった。私の薬がキマイラたちから里を救ったのだ。この戦いは激しく何人もの同族が命を落とした。ゴルゴーン達の間には外敵への恐怖があったのだろう。己の命を失う事への恐怖があったのだろう。だから、みんなが私を賞賛した。まるで英雄のように賞賛した。



-----力があれば私は認めてもらえる。



 戦闘が終わってからはエウリュアレよりも私への人望が増した。そして命を落としたものの中には私の母もいた。戦闘が終わった後に、だれを族長にするかの話し合いになった。なぜか、私を族長にという声があがった。それは小さい声ではなく、何人もの同族が私を推し始めたのだ。エウリュアレを褒めた口で、私を褒めたたえるものが増えたのだ。



「やはり、優しいだけのエウリュアレ様ではだめだ。強力な力を持つステンノ様こそがふさわしい」



 里のところどころでそんな声が囁かれて、そして族長には私がなった。圧倒的にわたしを推す声が多かったそうだ。

 私もエウリュアレも何も変わってはいないのに…………私の事をけなしていた奴らが私を褒めるようになった。エウリュアレを族長にと推していた奴らが私を推すようになった。そして私は悟った。他人の評価なんて変わるものなのだ。他人の評価なんて絶対ではないのだ。

 私はきまずさと多少の優越感をもってして、それを報告するとエウリュアレも、メデューサも喜んだ。エウリュアレは本当に私が族長になったことを喜んでくれているようで、私は思わず聞いてしまった。



「あなたは悔しくないの? 本当だったらあなたが族長になっていたのよ?」



 そんな私の言葉に彼女は笑顔で答えた。いつもの優しい笑顔で答えた。



「うん、だって、私よりもステンノ姉様の方がふさわしいって思ってたから」



 その言葉は本心で、私は欲しかったものを手に入れたはずなのに、私は彼女との勝負に勝ったはずなのになぜかむなしさを感じてしまった。そして理解する。私にとって死ぬほど欲しかったものは……選ばれなくて悔しくて泣くほど欲しかったものは、彼女にとっては笑い飛ばせる程度の価値しかなかったのだ。それを知った途端に私の心の中が醜い感情が支配してきた。



 そう……あの時が私の生き方のキーポイントだった。もしも、キマイラが襲ってこないで、エウリュアレが族長に選ばれていればこうはならなかっただろう。もしも、私が族長になったときにエウリュアレが悔しがってくれたらこうはならなかっただろう。

 その時に私は悟ったのだ。力があるものがすべてなのだと、力を持っていれば他者に評価をしてもらえっるのだと。だから私はより強い力を……権力を求めることにした。幸いにも私のギフトは権力を得るのに最適だった。

 薬と毒を使いこなし、他者を利用するのだ。私はそうやって、成り上がってきた。でも、もうそれも終わりだ。おそらくエウリュアレの言葉によって私の権力は落ちるだろう。でも……そんなことはどうでもいいのだ。

 だって、元々人間の村の村長に命令して冒険者たちを集めさせて、ゴルゴーンの里は壊滅させるつもりだったから……もう薬は十分手に入った。後は、ゴルゴーンの血の秘密を知る同族をみんな死んでもらって、私は地上に降りて毒と薬でどこかの街を支配するのだ。幸いにも、近くの村に住む人間たちのおかげでうまくいくことが証明された。

 万が一、メデューサが里のやつらを説得していても、エウリュアレが目覚めるまでは誰も耳を貸さないだろう。それならば何とかする方法はある。私はカバンにはいっている薬をみて嗤うのであった。


嫉妬と劣等感は人を狂わせますね。

ヘルメスがダンまちのまんまやんけって思う方いると思いますが、ギリシャ神話のトリックスターは彼なんすよね……許してください。



おもしろいな、続きが気になるなって思ったら、ブクマや評価、感想をいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ターニングポイントじゃなくてキーポイントなの?
[良い点] 身内での嫉妬は不幸ですね。 嫌でも目に入るし、比較もされる。 さてさて、彼女に救いはあるのでしょうか? 身内諸共、滅ぼそうとしている時点で取り返しのつかない所まで踏み込んでますからねぇ。 …
[一言] こじらせてますね…誰が救ってくれるでしょうか?
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