39.シオンとアス4
俺は頬に柔らかい感触と、髪を撫でられる感触と共に目を覚ます。あれ、トロルを倒して、ステンノを追い詰めて俺はどうなったんだ。てかこの枕何なの? 暖かいし柔らかいんだけど。
「よかった……起きたんだね……」
「うおおお、アスか!! あれ、ステンノは? トロルは?」
「残念……昔みたいで懐かしかったのに……」
俺が慌てて体をおこすしてあたりを見回すと、目の前ではアスが残念そうな顔をして正座をしており、背後にはトロル達が倒れていた。どうやら膝枕をしてくれていたらしい。そういえば、俺が体調を崩したときは良く看病してもらってのを思い出す。てか今はそれどころではない。一体何がおきていたのだろう。俺の表情で疑問に思っているのが通じたのかアスが説明をしてくれていた。
「あのゴルゴーンが……マタンゴの毒をばらまいたんだ……それでシオンは正気を失って……苦しそうだったから、治療薬を飲ませたんだ……騒ぎがおちついたころにはゴルゴーンは姿を消していたよ。追いかけようとも思ったけど……カサンドラ達も捕まってるし……一人ではちょっとね……」
アスの説明で俺は状況を理解する。マタンゴの毒を浴びた俺は正気を失って彼女に襲い掛かろうとして、それを彼女の薬によって治療されたのだろう。自分の無力さに思わず手に力が入る。格好つけて、タンカを切ったというのに、結局また、アスに助けられてしまった。俺は結局弱いままだ……
「アス……ごめん、俺は君を助けようと……」
「でも、シオンは強くなったね……前まではトロルに歯が立たなかったのにさ……守るだけじゃ……駄目だったんだね」
アスからかけられた声は予想外のものだった。でも、俺を見る彼女の表情は嬉しそうだけど、どこか寂しそうで、なぜか儚げだった。俺は何と言っていいかわからず、ただ押し黙る。
「守ってくれてありがとう……かっこよかったよ……君は強くなった……私と……アルゴーノーツにいた頃よりは強くなってるよ……だから、自信を持って……」
「アス……ありがとう」
「ああ……でも、ちょっと悔しいな……君を強くしたのは私じゃない……ただ、守っていた私じゃなくて、一緒に支え合ってるカサンドラ達なんだね……」
そういって、顔を下げているアスはいつもと違い、とても寂しそうに見えた。直感で思う。このままじゃいけないのだと。想いは言葉にしなければ通じないのだから。だから俺はアスの正面に立って自分の気持ちを伝える。アルゴーノーツの時に言えなかった言葉を伝える。
「違うよ、アス。それは違う。アスが守ってくれたから俺はここまで強くなれたんだよ。アスがいたから……アスたちがいたから俺は強くなりたいって思ったんだ」
「私たちのおかげか……ふふ、シオン……大丈夫……君は強くなったよ……」
そういうとアスは俺に満面の笑みを浮かべてくれた。俺が強くなろうとしたのも元はアスやイアソンと英雄になろうと誓いあったからだ。彼女達がいなければ今の俺はいなかっただろう。アスの顔を見て、もっと早く伝えればよかったなと少し後悔をする。だがいつまでもこうしている場合ではないだろう。
「とりあえず、ここにとらわれているカサンドラとエウリュアレを助けたら、また、ゴルゴーンの里に戻ろう。ステンノを放ってはおけない」
「シオン駄目だよ、ステンノは厄介だ。今回は知っている毒だったからよかったけど、未知の毒だったら死んじゃってたかもしれないんだよ!! 幸いにも共犯者の村長さんはここにいるし、あとはゴルゴーン同士の問題だ。捕らわれているゴルゴーンを助けて後は彼女にまかせれば……」
「アス……俺はメデューサ達も助けたいんだよ。あの子は自分が傷つけられてもさ、里の人を守りたいって言うんだ。その気持ちすごいわかるんだよね、俺だって同じ立場だったら……」
メデューサはペルセウスと逃げることだってできたのだ。だけど彼女は救う事を選んだ。自分を敵と思っている里のみんなを救おうとするその姿を俺はかっこいいと思った。そして、俺も同じ様な事をするだろうと……だから力になりたいのだ。
「わかったよ、シオン……私もあのゴルゴーンは許せないしね」
「ああ、ありがとう、アス。じゃあ行こう」
「その前に……一つだけ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「ん?なんだ?」
俺の返事に彼女はなぜか、感情の無い目で俺の胸元を凝視しながら彼女はこういった。
「そのキスマークはなに?」
「ひえ……」
一切感情の無い声がひどく恐ろしい。そういえばフィズにつけられたままだった……てか、アスがまじでこわいんだけど……
ゴルゴーンにキスマークをされるのはこの時のためだけに描写しました。嫉妬している女の子可愛いですよね……
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