35.ステンノの工房2
地下に入ると、そこは薬品の匂いなのかひどい異臭のする部屋だった。でもこの匂いなんか嗅いだことのある薬も混じってる気がするんだよね。棚には不思議な色をした薬品らしき液体が入った瓶がなだめられておりラベルに何か書いてある。
『治療薬』『マタンゴの毒への特効薬』『混乱薬』『惚れ薬』『幻惑薬』『麻痺薬』『ゴルゴーンの毒への特効薬』『狂化薬』
なんか惚れ薬以降物騒になってない? 何かあったのかな。几帳面な性格なのか、瓶の横には資料らしき紙が置いてある。ゴルゴーンは『ゴルゴーンの毒への特効薬』の資料を手に取って、顔を歪めた。
「ビンゴね……エウリュアレ様の事もかいてあるわ。あの人は森の外れにある砦跡に捕らえられているみたい」
「これでメデューサと俺たちの言う事を信用してもらえるかな?」
「信じざるをえないわね……私の他のゴルゴーンもこれをみれば何人かは信じてくれると思う」
「全員じゃないんだね……」
やはり、そう簡単にはいかないか……俺は『麻痺薬』の資料を見ながらため息をつく。これは使えそうだね。トロルやゴルゴーンは殺さずに無力化しないといけないから都合がいい。俺は遠慮なくいただくことにする。ついでに気になったので『狂化薬』というのも見てみる。効果は自分の体のリミッターを外して強力な力を得る代わりに意識が高揚して、全てが敵に見えるというものだった。毒薬だなぁ……
「メデューサ!!」
ゴルゴーンの声がしたので奥へ進むと、粗末なベットがあり、そこにはメデューサが乱雑に寝かされていた。そしてその奥には何かを捕えているのか、頑丈そうな鉄格子がに包まれた部屋がある。俺は駆け寄って、メデューサの様子を見る。右腕に切り傷があり、申しわけ程度に、止血用の包帯がされている。その姿はなぜか実験動物かなにかを彷彿とさせた。
「なあ、メデューサ達姉妹は仲良しだったんだよね?」
俺はメデューサの姉たちの事をしゃべるの時の笑顔を思い出しながら聞いた。だってさ、本当に家族なら、こんな風に乱雑に扱うはずがないし、傷つけたりしないんじゃないかな? 俺に血のつながった家族はいないからわからないけどさ……でも、ケイローン先生は無茶苦茶なことは言ったりしたけれど、理不尽なことはしなかったよ。イアソンだって、傲慢なやつではあったけど、わざと俺を傷つけることはしなかった。アスはいつも厳しかったけど優しかったんだ。
「ええ、はたから見ても仲良しだったわ。厳しいけど真面目なステンノ様、誰よりも優しいエウリュアレ様、どこか抜けているけれど、みんなに愛されているメデューサ。仲良し三姉妹として有名だったわ。だから私もあなたたちの話を信用することができなかったのよ。でも、今のメデューサをみてると信用せざるを得ないわね」
彼女も今のメデューサの扱いに疑問を覚えているのだろう。ベットの上のメデューサを悲しい顔をしてみつめた。そして彼女はメデューサの髪を優しくなでる。
「それにこんなものまでみつけたらね……」
「これは……メデューサの血が入った……」
そういうと彼女は机の上に置いてある液体の入った瓶を指さした。瓶にはメデューサとエウリュアレと書いてある。それはアンドロメダさんにみせてもらった薬と同じものだった。ここで調合をしていたのだろう。
「これだけ証拠があれば、ステンノの罪を暴くこともできるんじゃないか?」
「どうかしらね……あの人はリーダーとしての人望もあるのよ。マタンゴの胞子を毒として使ってゴブリンの襲撃から守ったり、実績もあるからね、可能ならエウリュアレ様を見つけて、直接ステンノ様の罪を言ってもらればいいんだけど……」
マタンゴの胞子か、そう言えばゴブリンを混乱状態にして、支配下に置いたとか言っていたな。毒のスペシャリストとは中々厄介である。何はともあれ、エウリュアレを探さないといけないようだ。
「さっき言っていた砦跡ってどこかわかるか? エウリュアレを助けてくるよ」
「ええ、わかるけど……何であなたは私達を助けようとするの? これはいわば私達ゴルゴーン同士のもめ事よ。あなたたち人間からしたら、敵である私たちが勝手に自滅をしようとしているのよ。メデューサを助けて、そこの解毒剤を持っていって逃げたって私は文句を言わないわよ」
「え? それじゃあ、メデューサは悲しむし、君もつらいだろ」
「は……?」
俺の言葉に彼女はなぜか間の抜けた顔をした。何かおかしなことをいったのだろうか?
「確かにそうだけど……私達は魔物なのよ? そこまでして助ける理由はないでしょう? まさか体目当て……」
「ちげえよ!! 俺の最初は恋人とって決めてるんだよ、官能小説かよ!! 仲良くなったんだ、魔物も人も関係ないだろ。大体、君だって牢屋で助けてくれたじゃん」
「いや……それはあなたたちが騒げば私が動きやすくなるからってだけで……ああ、もう、人間の思考はわからないわね!!」
なぜか頭を掻きむしっているゴルゴーンを横目に俺は解毒薬をカバンに入れてメデューサは背負う。結構重いなぁと思いつつ体勢を整えて外へと向かおうと思うと、肩を掴まれた。
「あなた名前は?」
「え、シオンだけど……」
「変わった名前ね、覚えたわ。私はフィズよ。あなたよく変わってるって言われない?」
「いや、別に……言われない……よ」
「なんなのよ、その間は……」
『グルゥゥゥゥゥァ』
ジト目のフィズから目を逸らすと、奥からまるで地の底から響くような唸り声が聞こえてきた。意味はないのだろう。ギフトをもってしても『翻訳』はできなかった。てか、待って? 暗くてわからないけどなんかいるの? あきらかにやばそうなんだけど……
「今のって何?」
「知らないわよ、とにかくここから出ましょう」
嫌な予感がした俺達は慌てて階段を上る。俺とフィズが上へあがって一息つくと外から声が聞こえた。
「おい、鍵が破壊されているぞ!!」
「侵入者か」
やべえ、見回りかなんかだろうか、俺とフィズは顔を見合わせる。そして、彼女によって投げ渡された兜を寝ているメデューサにかぶせて背負い、俺も兜で姿を隠す。
『おい、ここに不審者はいなかったか? ステンノ様もいないし、どうなっているんだ』
『いえ、誰もいなかったわ。鍵が開いていたからだれか侵入してきたのかと思ってやってきたのだけれど』
『くっそ、あの男たちが脱走したんだ。私が襲う番だったのに』
どたどたと荒々しい足跡でやってきたゴルゴーン達に彼女は返事をする。てか俺襲われそうになってたんだね。こわいなぁ
彼女達にぶつからないように外にでると背中で「うーん」と声がした。タイミング悪すぎない?
『おい、だれかいるのか?』
「すいません、鍵が開いていたもので……私は他のところを見て回ります」
『ああ、わかった……しかし、変な声だな』
とっさに裏声で誤魔化したがなんとかなったようだ。俺はみんなと合流をするために外へと出た。
ゴルゴーンとシオンはもっとあっさりしたものにするはずが思ったよりも会話が増えてしまいました。
でもさ、やっぱり魔物と人って萌えませんか?




