34.ステンノの工房
俺は慌てて振り向くがそこには誰もいない。いや、確かに気配は感じるのだ。俺は警戒しながら武器に手をかける。
「ちょっと待ちなさい。さっき牢屋にいた童貞でしょう? 無事脱出できたようね。誰か来たと思って驚いたじゃない」
「ああ、君か、びっくりしたよ」
その声と同時にゴルゴーンが兜を外して、姿を現した。俺たちにこの場所を教えてくれたゴルゴーンだ。彼女は安心したかのように深く息を吐いた、彼女に続いて、俺は多少警戒しつつも兜を取る。
「外が騒がしいのと、緊急招集の声がしたのは、あなたたちの仕業ね」
「ああ、もう一人の男と、俺の仲間達が暴れてくれているよ。命は奪わないようにお願いしているからそこは安心してくれ」
「ありがとう……でも、これは戦いですもの……死人が出ても仕方ないわよ。その代わり一生あなたたちを恨むけど」
恨むのかよ、いや、そりゃあ、友達が殺されたら恨むよね。彼女も俺と同様に侵入をして、ステンノの悪事に関する情報を探したり、メデューサに事情を聞こうとしていてくれていたのだろう。その証拠に周りの棚は開いており、書類を読んでいた痕跡がある。
「そういえば、メデューサはどこにいるんだ? ここに捕らえられてるって言ってたけど……」
「そう、メデューサがいないのよ……確かにステンノ様はここに連れ込んだはずなのに……それに、ここには何も怪しい情報はないの。不自然なくらいにね。ステンノ様がこのまえトロルを捕えた時に使った時の薬の資料だってない……もしかして、ほかにも工房があるのかしら」
「こいつらなら何か知っているかもしれないね」
俺は机の上の瓶に入ったネズミを指さした。彼は『助けて……助けて……』と言っている。アスが言っていた。ネズミたちは繁殖力があるし、人に体のつくりが少し構造が似ているらしい。だから薬の実験によく使われるのだと。ゴルゴーンと似ているかはわからないけど。
「ああ、こいつら(おやつ)ならみていると思うけど……」
「え、待って、今おやつっていったよね、こいつら食べるの?」
「当たり前でしょう。あなたたち人間だって考えが煮詰まったらクッキーとか食べるんでしょう? それと同じよ。生きているのを丸のみにするの結構おいしいのよ」
おやつ代わりだった!! そりゃあ助けてほしいよね。目の前で仲間が喰われて食いくんだもん。俺だったら世界に絶望するわ。でも、貸しを作れるね。俺は瓶を手に取ってネズミに話かける。
「お前を助けてあげるからさ、その代わりに教えてくれるか、この部屋に隠し通路とかあったりしない?」
『本当? 助けてくれるの? ここの机の下でいつも何かやってたよ。ほら言ったでしょ? 助けて!! 今もゴルゴーンが目の前で僕を食べたそうにみてるんだ。こわいよぉぉぉぉぉ』
何を言っているんだろうとおもって、ゴルゴーンを見ると彼女はよだれを垂らして、獲物をみるかのようにネズミを見ていた。やばい、このままじゃあ、このネズミ食べられてしまう。いや、別にいいんだけどさ、利用だけしたみたいで、後味が悪い。俺は瓶を開けて逃がしてやると、ネズミはすさまじい速さで出て行った。
「ああ……もったいない」
「ネズミの事はあきらめてくれ。それより隠し通路があるみたいだよ」
俺は恨めしそうにこちらを睨んでいるゴルゴーンをなだめながらテーブルの下にある絨毯を引っぺがすと、そこには鉄の扉があった。
「それにしても、あなたはさっきネズミと話をしていたけれどあれがあなたの本当にギフトなの?」
「ああ、そうだ。俺のギフトは『翻訳』だからね。動物や魔物とも会話できるんだ」
「すごいわね、おかげで助かったわ。でも、『魔を魅せる』っていうのは嘘だったのね、じゃあ、なんなのかしらこれ……」
何やらゴルゴーンは不思議そうな顔で俺を見つめた。よくわからないが俺に笑顔を浮かべる彼女はなぜかため息をついて先に行ってしまった。そして地下へと向かうのであった。
やっとシオンが活躍しましたね!
よろしくお願いします。