17.情報収集
あの後、薬の内容を調べるからしばらく一人にしてほしいと、アスが言ったため俺とカサンドラ、ライムで村で聞き込みをすることにした。
ちなみにカサンドラは髪を後ろに縛って、深くローブをかぶり、赤い髪を隠している。彼女の特徴的な赤髪はいつもの街ならともかく、こういう田舎の村では忌避される可能性があるからだ。そしてライムは俺の肩の上で『僕は悪いスライムじゃないよ』と無害さをアピールしている。こうして俺たちが魔物と一緒にいることを認識させておかないといつまでもシュバインが村に入れないからね。
「とりあえず、行商人について聞くとするか」
「そうね、村の人たちに聞き込みをしましょう」
『ついでに薬草もみてみよ、こういう田舎の村って、上質な薬草があるんだよね。あとはやはり、ラブロマンスだね、村一番の美少女は旅スライムに恋をするって相場が決まっているんだ』
「まあ、物語ではよくあるわよね。ああいう物語って、結構冒険者が美化されているのよね……スライムは知らないけど」
「カサンドラって、そういうの読むんだなぁ」
俺が意外そうな声を出すとカサンドラは不満そうにこちらを睨んできた。Bランクソロの眼力はちょっとこわいんだけど……
「悪い? 私だって恋物語にあこがれるのよ!!」
「いや、別に悪くないって!! なあ、ライム?」
『なんで僕に振るかなぁ……カサンドラは今までどんな恋をしてきたの?」
「したことないわよ……だって、私の周りには誰もいなかったもの……」
うおおおおお、ライムがカサンドラのトラウマをふんだぁぁぁぁぁ!! 俺とライムは顔を見合わせとっさにフォローの言葉を考える。
『大丈夫だよ、カサンドラも最近は友達増えてきたし……シオンもカサンドラ可愛いなぁ……デートしたいとか言ってたよ』
言ってないなぁ!! いや、確かに可愛いし、時々ドキッとするけどさ。でも俺達パーティーだよ。なんかそういう関係になったら大変じゃない?
「私が可愛いって本当……?」
俺がどう答えようか悩んでいるとカサンドラが上目遣いで言った。何この表情反則じゃない? ここで可愛くないとか言えるやつは人間でも魔物でもないよ。いや、実際可愛いんですけどね。
「ああ、カサンドラは可愛いし、髪の毛は綺麗だし、いざとなると頼りになる理想の相棒だよ!!」
俺の言葉に彼女はフードで顔を隠す。あれ、なんか間違えたかな? 俺がどうしようか途方に暮れていると、カサンドラが「ふふっ」っと笑った。
「ごめんなさい、あなた達がすごい焦っていたからついからかっちゃった。私はもう大丈夫だから安心して、あなたたちのおかげで仲間が増えたもの」
「カサンドラ……」
笑顔のカサンドラを俺は恨めしそうに睨むが、彼女はあいも変わらず笑っている。ちなみにライムのやつは俺の肩の上で寝たふりをしてやがる。まあ、笑えるようになったのだ。良い事なのだろう。俺は気を取り直して、情報収集を始めることにした。
「おや、あんたたちはペルセウスと一緒にいた……」
「はい、冒険者としてこの村をゴルゴーンから守るよう、依頼を受けた群団のシオンと言います。あ、この薬草を売っていただけますか」?
「私はカサンドラです、よろしくおねがいします」
雑貨屋のおばさんに薬草を買うついでに、話を聞くことにした。こういう閉鎖的な村ではこういう接客業の人を経由して情報が回るからだ。俺は買った薬草をさっそくライムにあげる。
「え……それってスライムじゃ……」
「はい、俺の仲間のスライムのライムと言います」
びっくりしているおばさんの目の前でライムが薬草を美味しそうに食べる。その姿はとても可愛らしく、本性がエロイムとは知らなかったら騙されてしまいそうなくらいだ。ライムは薬草を食べ終わると俺の肩の上でかわいらしくお辞儀をした。
「『とても上質な薬草をありがとうございます』とライムがお礼を言っています」
「へえー、魔物だからって怖いと思っていたけど、結構可愛いのね。よかったもう一枚食べるかしら? ちょっと待っててね」
「ええ、結構可愛いですよ。とはいってもこいつは俺のギフトで懐いているんで、他のスライムには餌を上げたりしないでくださいね」
おばさんが後ろを向いた隙に俺とライムはハイタッチをしてニヤリと笑い合う。
『ふっ、計画通りだね。シオン』
「ああ、チョロいね」
「あんたらろくな死に方しないわよ」
俺たちが喜んでいるとカサンドラがクズをみるような目で見てきた。ひどくない? 俺たちは情報収集をがんばっているだけなんだが……
「はい、お食べ。ああ、本当に美味しそうに食べるわねぇ」
ライムが薬草を美味しそうに食べているとおばさんが楽しそうに言った。これで少しは警戒心がさがればいいんだが……俺はおばさんから情報を聞き出すことにする。
「結構品ぞろえがいいですよね、この村には結構、行商人が来るんですか?」
「いや、めったに来ないわよ。だからいつもはゴルゴーンと村長のところのアンドロメダちゃんが薬草とかを交換してくれるんだけど……」
「話は聞いてます……アンドロメダさんが襲われたらしいですね……」
辛そうな顔をするおばさんの言葉に俺も続く。なんかんだゴルゴーンの事も信用していたのかもしれない。その顔にある表情は怒りよりも悲しみの方が強い気がした。
「あ、でもね、今度、新しく行商人が来てくれることになったのよ。その人からも薬草や雑貨は仕入れることができるようになったし、ゴルゴーンの毒を解毒する薬も売ってくれたらしいわよ」
「それはよかったですね、ちなみにその行商人はどんな人でしたか?」
「そうね……顔にひどい傷があるからって、ちょうどあなたみたいにフードをかぶっていてちゃんと顔はわからなかったけど、綺麗な声の女性だと思うわ」
そういうとおばさんはカサンドラを指さした。彼女のようにフードで顔を隠していたっていう事か……ますます怪しいな。顔を見られたくないのか、それとも顔を隠さなければいけない理由があるのか……
「その行商人はまた来るって言ってましたか?」
「ええ、三日後にまた来るって言ってたわ。なんでもゴルゴーンの毒を治す薬が切れるから補充しに来てくれるらしいわよ。ありがたいわね」
俺たちはおばさんにお礼を言ってシュバインの様子をみることにした。ちょうどおばさんのところで美味しそうなソーセージを買ったのであいつも喜んでくれるだろう。カサンドラがフードを触りながらぼやく。
「でも、やっぱりフードは窮屈ね。森に入ったらとっていいかしら?」
「ああ、そうだね、俺もカサンドラの綺麗な髪が見れないのは残念だからさ」
「シオン……さっきの仕返しのつもりなんでしょうけど、私の髪の毛を褒めとけば照れるとか思ってない?」
なぜか、カサンドラがジトっとした目で睨んできた。さすが相棒……鋭い……さっきの仕返しに褒めて恥ずかしがらせようと思ったのに、そう簡単にはいかないらしい。
「俺は本気だよ、最初に会った時もいっただろう? カサンドラの赤い髪がきれいだってさ。オークから助けてくれた時は天使に会ったって思ったんだよ」
「あー、もう、こんなところで何を言っているのよ……でも、ありがとう」
そういうとカサンドラはあきれたとでも言うように肩をすくめると、なぜか早歩きで俺の先を行ってしまった。ふふ、勝ったね。俺が勝利の笑みを浮かべているとライムがあきれた顔で言った。
『ラブコメの気配を察知、アスに言おーっと。あんまりフラグばかり立てるといつかさされるよ』
「今のがなんでラブコメなんだよ!! てかお前はアスとはしゃべれないだろ。ってカサンドラ早すぎるって!!」
俺はあわててカサンドラの後を追いかけ、森へと向かう。シュバインが隠れている森へにつくと轟音が聞こえた。一体何が? 俺とカサンドラは走って音のした方へと向かった。
『ははは、お前やるなぁ!! 中々骨があるじゃないか』
『お前……強い……おもしろい』
そこではシュバインとトロルがお互いに武器を持って斬り合っていた。よほどの乱戦だったのか二人とも傷だらけで、周りの木も何本か折れている。
「え? 何がおきてるのよ……」
本当に何がおきてるんだよ? おとなしくしてろって言ってたと思うんだけど。
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