14.ペルセウスの村
翌朝俺たちはペルセウスの案内で村に入っていた。ちなみに、シュバインには森で待機をしてもらっている。平常時でも誤解を与えやすいのに、ゴルゴーン達と争っている村に魔物を引き連れて行ったらどう思われるかわからないからだ。
「なんというか、活気がないわね……」
「ああ…、まだ昼なのに外にあまり人がいないな……」
「みんな……不安そうな顔をしてる……」
村人とすれ違うと、俺たちを見て不思議そうな顔をしていた。ペルセウスが冒険者だと説明するとその顔が安堵に染まる。ゴルゴーン達から村を守りに来たと思われたのかもしれない。
「そうだな、田舎の村だから元々人は少ないのもあるが、必要以上に外出をしないように言われているからな。今の村の雰囲気はゴルゴーンへの不安とよそ者の珍しさの半々と言ったところか、貴公らは好奇の目線には不慣れかな?」
「私は馴れているわ……昔が懐かしいわね」
そういってカサンドラがあっさりした感じで答えた。彼女は魔族の血を引いているから、好奇の目でよく見られていたと言っていた。今もフードを深くかぶり、髪の毛を後ろで結んで隠している。でも、彼女の顔には負の感情はなく、乗り越えたのだなと思った。俺たちの影響だったら嬉しいなと思う。
「そういえば、ペルセウスはどうしてここで警護の仕事をしているんだ? 大きな怪我をしたというわけではないんだろう?」
「確かに、あなたのギフトと、実力なら引く手数多だと思うけど……」
「それは、色々あってな……」
俺とカサンドラの言葉にペルセウスは少し遠い目をした。まずい、聞いてはいけないことだったのだろうか? 確かに冒険者をやめるようなできごとがあったのだ。あまりいい話ではないのだろう。踏み込みすぎたことを謝ろうかと思うと彼は口を開いた。
「組んでいた相方が人妻に手を出してな、それがばれて捕まってコンビを解消したから休養もかねて実家に帰ってきたら、我が歌姫に出会ったから口説いているんだ」
「うわぁ……しょーもな……」
「その相方最低ね……」
「シオンも……浮気したらダメ……」
「俺は浮気以前に彼女が欲しいんだけど!?」
思ったよりもしょうもない理由だった。てか捕まるって貴族の奥さんにでも手を出したのか? とはいえこれ以上掘ってもしょうもない話しか出てこないだろう。しかし、俺も恋人くらいほしいものである。恋愛って格差がでかいよね。俺がため息をついているとペルセウスが耳元でささやく。
「それで、シオンよ、貴公はどっちが本命なんだ?」
「え……? は……?」
「恋はいいぞ、明日への気力になる。それに私達冒険者はいつ死ぬかわからない。悔いを残さないように生きてた方がいい。だから私は彼女に愛を囁くのさ」
ペルセウスの言葉に俺は思わず後ろを歩いている二人を見る。カサンドラは綺麗な顔をした少女だ。強気なところもあるが俺には心を許してくれているのだろうからか結構優しい。
アスは無表情だが、心優しい少女だ。ちょっと束縛が強いところがあるが、俺の事を昔からサポートしてくれた。もしも……もしもだ。二人とも恋人になってくれたら絶対楽しいとは思う。
「どうしたの、シオン?」
「寝不足……?元気の出る薬飲む?」
「いや、なんでもない、なんでもないんだ」
あわてて俺は正面を向く。カサンドラは相棒だし、アスは幼馴染だ。そんなことを思うのは失礼だろう。でも……もしも俺は彼女達を好きになったらどうするのだろう、どうなるのだろう? 今はそんなことよりもゴルゴーンの件を解決しなければ。
「フフ、若いな……ちなみに赤髪の子は激しく罵ってくれそうで、アスクレピオスさんはチクチク罵ってくれそうだな」
「そんなんしらないよ!?」
「さて、ついたぞ、ここが村長の家だ」
そういってペルセウスは、村で一番大きな家の前で立ち止まった。ノックをすると「はーい」という声が聞こえる。扉を開くと一人の少女が出迎えてくれた。
「おはよう、ペルセウス、そして、あなた方がペルセウスの言っていた冒険者ですね、よろしくお願いします」
「ああ、彼らがその冒険者さ。それよりも、もう歩いて大丈夫なのか、アンドロメダよ。昨日まで寝込んでただろう?」
「心配してくれてありがとう。でも行商人さんから買った薬を飲んだら元気になったよ」
少女は笑顔でペルセウスと俺たちを部屋に招き入れてくれた。少女とペルセウスは親し気に会話をしている。俺たちもそのあとに続いていると後ろを歩いていたアスがポツリとつぶやいた。
「あの子……おかしい……」
俺は思わずアスを見つめるが、彼女に確認をする余裕はなく、村長が来るまで案内された部屋でまたされるのであった。
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