13.二人
事情を聞いた俺たちは明日の朝ペルセウスに村を案内してもらうことを約束して、カサンドラ達の元へと戻った。俺はカサンドラと火の当番をしながら、ペルセウス達との話を説明していた。ちなみにアスはギフトの使い過ぎで疲れたとのことで、早々に眠りについた。
「つまり、ゴルゴーンの中に同族を売っているやつがいるってことなの? ひどい話ね……」
「あくまでメデューサの推測だよ、明日は村の人たちの話も聞いてみないとね。それより、調子は大丈夫? ペルセウスの武器の影響はもうない? 疲れてるなら休んでた方がいいんじゃないかな?」
「大丈夫よ、あの男の武器は確かに嫌な感じがしたとは思ったけど、そんな力があったなんてね……でも、もう大丈夫よ。ペルセウスから離れたら楽になったもの。それに、久々に二人っきりになりたかったしね。私たちのパーティーも一気に騒がしくなったしね」
「確かにな……シュバインとかは俺たちがいないと退治されそうになるもんな……」
俺はパーティーを結成した当時の事を思い出す。アンジェリーナさんが根回しをしてくれたとはいえ魔物を仲間にして冒険者をするのはそれなりに大変だった。まず、シュバインには人間の世界の常識を説明しなくてはいけなかったし、価値観が違うこともあり色々と苦労したものだ。
でも、不思議とそれは苦ではなかった。シュバインは俺達人間にあわせようとしてくれたし、カサンドラやライムのサポートをしてくれた。確かに大変なことはあったけど、みんなで協力をしていて、まさに仲間って感じで、俺にとってそれはすごい嬉しい事だったのだ。確かに俺たちは種族は違うが、絆は少しずつ育っていってると思う。
「俺とパーティーを組んでくれてありがとうな、カサンドラ」
「何をいまさら……私、あなたに本当に感謝しているのよ、おかげで冒険者生活が楽しめたもの。でも、今回は足を引っ張ってばかりね……アスとは大違い……」
そういうカサンドラは少し悔しそうで……今回の失言とペルセウスとの戦いでの苦戦でへこんでいるのだろう。だから俺は本心を言った。彼女への感謝の言葉を言った。
「カサンドラは足を引っ張ってなんかいないよ。俺だって彼女がゴルゴーンだって気づかなかったし……それに、俺はカサンドラには感謝しているんだ。君がいなかったらオークたちに殺されていたかもしれないしね。あの時助けてくれたのは誰でもないカサンドラなんだよ」
「じゃあ、お互い様ね、あなたがいなければ、私は今もソロだったでしょうね……私を孤独から助けてくれたのはあなたなのよ。ありがとう、シオン」
そう言ってから俺たちは照れ隠しとばかりに笑いあう。彼女といるとまるでずっと相棒だったかのような錯覚に襲われる。それくらい居心地が良いのだ。
「なぁーに、人の顔を見てにやにやして」
「いやぁ、カサンドラの髪の毛綺麗だなぁって思ってさ」
つい見すぎてしまったらしい。俺は照れ隠しにいつもの誉め言葉を言う。そう言うと彼女はいつも恥ずかしがって、話を誤魔化せるからだ。今回もそうなると思ったのだが、彼女から意外な言葉が紡がれた。
「じゃあ……触ってみる?」
「え……?」
パチンとたき火の中で小枝がはじける音がした。聞き返した俺の言葉に彼女からの返答はなかったけれど、黙って火を見つめる彼女の顔が心なしか赤いのは気のせいだろうか。唾をのんだのは俺か彼女か……俺は意を決して、彼女の髪を触る。まるで絹のように滑らかで俺は驚きを隠せない。っていうか甘い匂いがする。なんなんだろうね、これは……俺がどきどきとしていると彼女が口を開いた。
「どんな感じかしら、私の髪は?」
「ああ……その気持ちいいし、いい匂いがする」
「え? そんなに匂う? 確かに今日は野宿だけどそんなはずは……」
そういうと、彼女は俺からさっと離れてしまった。それと同時に手にあった柔らかい感触も消え去る。彼女は俺から少しはなれて自分の髪の毛の匂いを嗅いでいる。
余計な事言うんじゃなかったぁぁぁぁぁ。てかいい匂いとかなんだよ。何言ってんの、俺きもくない?
「いや、その変な意味じゃなくて、カサンドラの匂いがしたっていうか……」
「何よ、それ……まあ、変な匂いじゃないならいいんだけど……」
「でも、どうしたんだ。いつもは触らせてくれないのに……」
「お礼よ……あなたはいつも、私がへこんだ時に欲しい言葉をくれるから……それにアスと話した時も、ちゃんと私の事を相棒って言ってくれたから嬉しくて……なにかお礼をしたいなって思ってたの。それでいつも髪の毛を褒めてくれるから、こうしたらシオン喜んでくれるかなって」
俺の言葉に彼女は顔を真っ赤にして答えた。恥ずかしそうに上目遣いにしている彼女はとても可愛らしく、俺よりも圧倒的に強いであろうに守りたいななどと思ってしまった。うおおおおお、何この生き物無茶苦茶可愛いんですけど!!
「はい、おしまい。それであなたは村人たちの話を聞いてどうするの? アスの依頼はゴルゴーンの血をもらうだけよね、適当にゴルゴーンを狩って戻る?」
カサンドラは恥ずかしくなったのか、急に真面目な話を振ってきた。俺はそれを少し残念に思いながらも、カサンドラの言葉に首を横に振る。確かに依頼を達成するならばそれでいいだろう。でも俺は話を聞いてしまった。メデューサの悲しそうな眼を見てしまった。仲間を疑わなければいけない苦悩を知ってしまったのだ。だからできれば彼女も助けたいと思う。
「村人の話を聞いて、ゴルゴーン達と人間関係をもとに戻す努力をしたいって言ったら怒るか?」
「ううん、私は付き合うわよ。たぶんライムもシュバインも賛成すると思うわ。というかね、私はあなたならそう言うと思ったもの」
俺の言葉に彼女は何を言ってるのよとばかりに笑う。よかった……実は反対されたらどうしようかなって思ってたんだ。そして彼女は火をみながら言葉を紡ぐ。
「シオンはすごいわよ、だってゴルゴーン達も救おうとしてるんですもの、あなたは人でも魔物でも、魔族にだって手を差し伸べてくれるのね」
「別にすごいわけじゃないよ。なまじ声が聞こえてしまうから、感情移入をしてしまうんだよね……そのうち、俺って人間の敵になったりしたりして……」
「そうね、それであなたが判断を間違えそうだったら私が、私たちが止めるから安心しなさい。その代わりあなたが正しい道を進むなら私はあなたの剣となるわ」
俺の言葉にカサンドラが笑顔で返す。その姿はとても心強くて彼女が相棒で本当に良かったなと思うのだった。
ちょっと今回の章で影の薄いカサンドラとシオンの会話シーンでした。感想でカサンドラ可愛いというお言葉をいただけたのでがんばってみましたがいかがだったでしょうか?
均等に出番を出すのって難しいですね……がんばります。
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