11.対決
「水よ!!」
俺の魔術によって生み出された水の鏡が、魔眼の力を反射する。少女……とっ言っていいものか、先ほどまで歌を歌っていた美しい彼女の髪の毛は蛇となり、異形と化している。とっさの魔術だったため、少女に跳ね返すことはできなかったものの、なんとか直撃は避けることはできた。
少女の正体はゴルゴーンだろう。人に擬態をするとは聞いていたが、本当に見分けがつかなかった。目線を合わせたら石化する魔眼もかなり厄介だ。これがBランク上位の魔物の力。これは苦戦しそうだ……
くっそ、左目が見えなくなってきた……顔が重いのは一瞬視線があってしまった左目から徐々に石化をしてきているからだろう。俺とカサンドラだけだったら本当に危なかっただろう。でも今はアスがいる。
「シオン……大丈夫? 癒せ」
「ありがとう、アス。解析も頼む」
「僕の魔眼を解除した!?」
俺は少女と目を合せないようにしながら動きを警戒する。アスの言葉と共に法術によって、石化が解除されていく。少女が驚愕しているが『医神の申し子』たる彼女の前では状態異常なんて怖くない。いや、アスがやられたらまずいよね。俺はアスをかばうようにして剣を構える。
「ごめん……体温が低いから……人間じゃないのはわかってたけど、初めて見たから、何なのかわからなかった……でも、もう大丈夫」
「いや、あれはわからないよ。俺たちも人間だと思ってたし……それにアスがいれば怖くない」
「任せて……」
背後でアスが何かを作り始めたのをみて俺は勝利を確信する。
それにしても、本当に少女は人と見分けがつかなかった……可愛い子だなとは思っていたが、ゴルゴーンだったなんて……
冒険者の与太話に、腕利きの冒険者が可愛い少女に誘われたらゴルゴーンで、石にされたというのがあるが、確かにこれは騙されるね。それくらい彼女の擬態は完璧だった。
『おいおい、お前ら大丈夫かよ!? 楽しそうなことになってるじゃねえか!!』
『お、かわいい子だ。シオンってばまたナンパしたの?』
騒ぎに気付いてやってきたシュバイン達の声が心強い。すぐさま状況を判断したシュバインが武器を構える。とりあえずは……
「シュバイン、カサンドラのサポートを頼む!! あの男を生け捕りにしたら次は少女だ。アスは俺に補助を!! ライムはアスを守ってくれ」
『任せろ!! 二対一で悪いな、そこの雄!!』
「わかった……任せて。加護よ!!」
『女の子の守りなら任せてよ』
全員がそろった俺たちは反撃をする。確かにあの二人は強いが、全員がそろった時点で俺たちに敗北はない。俺は身体能力の上がった体で少女に牽制をする。魔物と会話をしている俺に驚いたのか、ゴルゴーンの少女の顔に動揺が走る。
「魔物を仲間にするギフト持ち!? こいつ……まさか、それで僕の姉さまを……絶対に許さない!!」
「なんのことかわからないって言ってるだろ!!」
さっきから違うと言っているのに聞く耳を持とうとしない少女に俺は怒鳴り返す。魔物とは言え人の女性に近いから傷つけるのは抵抗があるが仕方ないだろう。アスの法術によって身体能力を上がっている俺の敵ではない。
「我が歌姫よ!! ここは私が時間を稼ぐから君はあれを頼む。そしたらすぐに逃げるんだ! 『クリエイター』たる私の力を信じてほしい」
「ペルセウス……でも……」
「ふふ、そんなに見つめられると照れるなぁ……そちらの魔族の少女も私を見つめてもらえるかな。貴女の視線を釘付けにする!!」
「こいつ……私、相手にずいぶんと余裕じゃないの、炎剣って……え……?」
ペルセウスが腕を掲げると同時に、彼の腕に鏡の盾が現れそれをみたカサンドラの体が石化し始める。まさか、ゴルゴーンの石化を鏡越しにカサンドラに見せたのか?
「これはもう、識っている……もう大丈夫……」
『おお、銀髪の雌はすごいな!』
「ありがとう、アス。助かったわ!!」
勝利の笑みを浮かべるペルセウスだったが、アスが投げたポーションによってカサンドラの石化が解除される。俺の石化を癒したときにその作用を解析し、即座に特効薬をつくったようだ。そして、戦いにシュバインも参戦する。ペルセウスと呼ばれた青年も二対一では分が悪いらしく、一気に劣勢へと立たされる。
『そりゃぁぁぁぁ』
「ようはその盾を見なければいいんでしょう? 悪いけど二回は通じないわよ。炎脚!!」
ペルセウスをシュバインが受け止めた武器ごと吹き飛ばし、それをカサンドラがスキルを使って追撃をした。
「僕の事はいいから、彼を殺さないで!!」
「なぜ、逃げないのだ、我が歌姫!!」
少女の叫び声で戦いは中断される。少女は俺の目の前で、目を閉じ、両手を上げてもう戦う意思はないということをアピールする。髪の毛もいつの間にか、蛇からまるで人のものへと戻っている。これは……信じてもいいのだろうか?
「あなたたちがなんで僕らゴルゴーンをさらうかはわからないけど、彼は関係ないんだ。だから彼の命だけは助けてほしい……」
「ちょっと待ってくれ……俺たちは今、来たばっかりだよ。ゴルゴーンがさらわれるって……今ゴルゴーンの集落では何がおきているんだ?」
「え……本当? 君たちは僕たちをさらいに来たんじゃ……?」
「違う……私はあなたたちの血が少し欲しいだけ……さらう気はない……」
俺たちの言葉にゴルゴーンの少女は困惑の表情を浮かべるが、それは俺たちも同様である。そんな俺たちをみてシュバインにつかまれているペルセウスが口を開く。
「私たちの間には情報に齟齬があるようだな。よかったらうちに来て話さないか? ついでに、このオークに少し加減をしてもらえるように言ってもらえると助かる。彼女の前では常にかっこよくいたいんでな」
そうして俺たちはペルセウスの家へと向かうのだった。
カサンドラが今回動きが悪かったのにはちゃんと理由があります。あと、ペルセウスの武器はハルペーってやつですね。
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