10.少女と青年
人目のつかない深夜の森で若い男女が会って話す。これはすなわち密会だろうか? 二人がどんな関係かはわからないが、近くに魔物はいないようだし、邪魔をするのも悪いだろう。
「わざわざこんなところで会って話すなんて、身分違いの恋とかなのかしらね?」
「いい……障害を乗り越えたところに真実の愛がある……種族違いの幼馴染が障害を乗り越えるとか最高……」
「二人共聞こえたらまずいよ……邪魔しちゃ悪いし、気づかれないように戻ろう」
なんだかんだ二人とも女の子だからか、こういう恋愛話には興味深々なようだ。なぜか、アスが俺をみつめてくるんだけど……ていうかあの二人が幼馴染かはわからないよね。とはいえ、恋人同士のやり取りを盗み聞きはまずいだろう。俺は二人に戻るように促そうとして……
「やはり、君だったか!! 僕は君が嫌いだって言ってるだろう!! さっさと帰れこのストーカーめ!!」
「ああ、その罵倒!! なんたる甘美な事か!! もっと罵っていただきたい!!」
恋人じゃなかったーー!! 今ストーカーとか言ってたよね? あれ、これって助けに入ったほうがいいかな? 俺たちは顔をあわせてどうするか悩む。
「こんなところに一人では危険だよ、我が歌姫。ただえさえ、今は色々と騒がしいんだ。君が襲われたらと思うと私は胸が張り裂けそうになってしまう……」
「心配しなくても、僕は君になんて助けられなくてもなんとかできる!! むしろ、君の方がこわいよ!!」
芝居がかった青年の言葉に少女が叫び返す。てか青年の方が、罵られて本当に嬉しそうなんだけど、真正の変態なんだろうか?
「ああ、その侮蔑の目線たまらないねぇ……でも、君だけじゃやっぱり心配だなぁ。だってそこにいるやつらにも気づいていないじゃないか? 姿を現したまえへ、彼女の歌声を盗み聞いていいのは私だけさ!!」
そういうと青年は腰から鎌のような武器を抜刀して、俺たちの潜んでいる草むらへと、向ける。こいつ俺たちに気づいているのか!? ただの変態ではないようだ。俺たちは観念して草むらから姿を現す。念のために武器はいつでも抜けるように構えておく。
「待ってくれ、俺たちはたまたまこんな時間に、歌声が聞こえたから気になって来ただけなんだ。別に彼女に危害を加えようとしたわけじゃないし、二人の邪魔をしたいわけじゃない」
「フッ、私たちの愛の逢瀬を盗み見るとはハレンチだな!!」
「待って、僕たちに愛なんてないよね? 一方的に言い寄られて困ってるんだけど!!」
「つれないその姿もまた愛おしいよ。我が歌姫よ」
「ああ、言葉が通じないぃぃぃ!!」
青年の言葉に少女が頭を抱えて悶え始めた。俺たちは何をみせられているんだろう? もう帰っていいかな? 俺たちが言葉を失っていると青年は急に真剣な顔でこちらを振り向いた。
「では貴公らは何をしにこの村へ来たのかな? 残念ながらこの村にこれと言った特産品もないのだが……君たちは冒険者だろう。まだ、村長もクエストの依頼をしていないはずなんだが……」
「確かに……ここら辺によそ者が来るのは珍しいね。一体何の用できたの?」
この返答で彼らの出方が決まりそうだ。どう返事をするのが正解だろうか? まあ、隠すことでもないので正直に言うべきだろう。
「俺たちは彼女の依頼で素材を取りに来ただけだよ。あなたたちに害を加えるつもりはない」
「素材……? それはどんな?」
「私たちはゴルゴーンの血をもらいにきただけよ、あなたたちに危害を加えるつもりは……」
「カサンドラ……ダメ……」
「やっぱり、こいつらが……姉さまを……」
カサンドラの一言で、なぜか、少女の顔が憤怒に染まる。その瞳はまるで親の仇を睨みつけるかのようで……その姿に、俺とカサンドラは動揺をしてしまい、一瞬動きが遅れる。そして青年が少女をかばうかのように前に躍り出る。
「その髪、魔族の血を引くものだろう? 貴女もつらい思いをしただろうに……今度は狩る側に回るという事か!! 歌姫よ、あなたは私が守る」
「ペルセウス!! 僕だって戦える!!」
そういうと青年が斬りかかってくる。その斬撃は思いのほか速く、カサンドラがかろうじて受け止めた。しかもその後も圧倒する事ができずに、斬り合っている。
実力差があるのならば、気絶させるなりなんなりできるのだろうが……あいつはBランクのカサンドラと互角なのか? というかカサンドラの動きがいつもと比べて悪い気がする、なにがあった?
「アス……とりあえず、カサンドラに法術を!! カサンドラはそいつを殺さないように!! 俺は少女に話をする」
「シオン!! ダメ……そいつは……」
『魔眼よ、開眼せよ』
少女の方を向くと、視線があう。そして、彼女は俺を凝視して言葉を紡ぐ。これは……人の言葉ではない。
そして、彼女の目はまるで、蛇か何かのように瞳孔が縦にさけていて……嫌な予感がした俺はとっさに魔術をはなつ。間に合えぇぇぇぇ。
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