9.森の中の少女
『いやー、銀髪の雌の力はすごいなぁ。自分の体じゃなかったみたいだぞ。カサンドラもかけてもらうといい!! 力の出し方がわかる気がするぞ。俺はもっと強くなれる!!』
「ごめん、興奮するのはいいけど、食事中に剣を振りまわすのはやめてくれないかしら? アスは料理が上手なのね」
やたらハイテンションなシュバインをカサンドラがあきれた顔をしながらあしらっている。身体能力強化の法術をかけてもらった時の感覚を忘れないようにするためか、飯を食べながら素振りを始めたんだけどマジで危ないからやめてほしい。
「フフフ……料理は得意……毒は薬になるように、スパイスにもなる……」
『僕は遠慮しておくよ……』
「俺も保存食がまだあるから……」
あれから馬車を飛ばし、村も近くなったが、時間も遅くなったので、あたりに魔物がいないことを確認した俺たちは、たき火を焚いて食事をしていた。さすがに夜中によそ者が村を訪ねたらあらぬ誤解を受ける可能性があるからね。シュバインは森で待機していてもらう予定だが、カサンドラの髪は目立つしね。
今日はアスが料理をしたいというので任せたが、俺とライムは串にささっているキノコらしきものをみてお互い嫌な予感を感じて顔を見合わせる。
「シオンもライムも食べないの? せっかくアスが作ってくれたのに悪いじゃない」
「なあ、アス……これってまさか……」
「正解……さっきのマタンゴ……毒抜きをするととても美味しい」
「『やっぱり……』」
俺とライムの声が重なった。アルゴーノーツにいた時にあのダンジョンにも何度か訪れているので、ライムはアスと面識があり彼女の魔物食についても知っているのだ。
「え……? え……嘘よね……私半分くらい食べちゃったんだけど……」
『へぇー、あいつら美味いんだな。お前らが喰わないなら俺がもらうぞ』
アスの言葉に呆然とした顔のカサンドラが食べかけの串を落として、それをシュバインが拾って食べた。ライム『やれやれ』と呟いて自分用の薬草を袋から取り出して食べ始める。
アスの料理の腕は確かだし、ギフトのおかげで害もないどころか健康にいいのもわかっている。しかも質が悪いことに味もいい、でもさ……
「シオンも食べて……美味しい……」
「やだよ、俺さっきこいつらの声を聞いてたんだぞ!! さっきまでしゃべってた魔物なんて食べたくない!!」
「私の料理は……いや?」
「う……」
そういうとアスはあきらかにしゅんとした顔でうつむく。ちょっと待ってずるくない? そんな顔されたらなんか俺が悪いみたいじゃん。だって俺は魔物を食わされようとしているんだよ?
「アスが可哀そうじゃない!! ああ、でもこれ魔物なのよね……どっちの味方をすればいいのかしら……」
「いい……私が一人で食べる……」
しょんぼりしたアスの顔を見て、すさまじい罪悪感に襲われた俺は、キノコを食べることを決意する。でもさ、一人じゃなんか悔しいよな。俺はにやりとカサンドラを見つめて言った。
「いやあ、俺もキノコ食べたかったんだよ。これ美味しいなぁ!! ほら、カサンドラも食べなよ。新鮮だよ」
「そりゃあさっきまで動いてて、私たちを襲ってきたものね……って私に振らないでよ」
「カサンドラは……キノコ嫌い……」
俺に話を振られたカサンドラは俺を睨むが、アスの視線に気づいて、しばらくマタンゴの串を見つめた後にやけになったかのように食べ始めた。
「く……無駄に美味しいのがなんか悔しいわね」
「健康にもいいんだよ、アスはそういうのが得意だから……」
『いやあ、魔物っていつも生で食べてたけど、調理するとうめーのな。やっぱり人間は頭がいいなぁ』
シュバインだけやたらテンションが高い食事が始まった。まあ、魔物だってわかって覚悟を決めればうまいんだよね。しばらく食事に集中していると、シュバインが怪訝な顔をして聞き耳を立てながらあたりを見回してた。
『ん? なんか声が聞こえないか?』
「声か、どうだろう?」
「マタンゴ達の呪いじゃないわよね……」
シュバインの言葉に俺たちは耳を傾ける。すると、かすかだが、歌声が聞こえてくる。こんな夜中の森に何者だろうか。村は近いとはいえ魔物が出現するというのに……
俺たちはシュバインとライムに火の番を任せて、声のほうへと向かう。森の開けたところに一人の少女がいた。深夜の森で歌うその姿は何か神秘的で、歌声の美しさもあり、俺たちは思わず魅入られてしまった。
「そこにいるのは誰かな? 盗み聞きとは感心しないよ」
しばらく歌声に聞き惚れていると、少女が歌を中断し、いきなり声をあげた。気配を消していたはずなのに……俺たちが目をあわせてうなずいて姿を現そうとすると、別の草むらから一人の茶髪の青年が姿を現した。
「ふふ、相変わらず美しいな、我が歌姫よ。私の存在に気づくとは……この気持ち、まさしく愛だなぁ!!」
そう言って青年は、少女の方に歩み寄るのだった。
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