8.アスの力
馬を休めるために馬車を止めた俺は、二人の様子をみるために客室を覗く。すると、カサンドラとアスが会話している。二人の間に流れる雰囲気は先ほどまでとは違い、どこか和やかだ。アスは無事謝れたようだ。俺がほっとしていると、視線に気づいたカサンドラが俺をみてちょっと恥ずかしそうに言った。
「何よ、にやにやして」
「ああ、仲良くなったんだなって思って」
「その……お互いの生い立ちを話したんだけど、アスさんの気持ちもわかるし、友達になってくれるって言うし、いいかなって…」
「あ、そう……」
俺の相棒チョロすぎない、大丈夫? 友達になるっていったら無条件で許したりしてないよね? 彼女の人生を心配しているとカサンドラが俺を睨んで言った。
「別に友達になってくれるから許したってわけじゃないのよ。彼女の話を聞いて思ったのよ、自分が知らないところで話が進んでて、いつの間にか大事な人が、パーティーを追放されていたらどうだろうって……私だって同じ立場だったら混乱するし、隣にいる相手に嫉妬するわよ」
「カサンドラの気持ちもわかる……シオンと会えてよかった……」
「そうか……そうだよな」
俺はカサンドラと一緒に、ライムに特製の薬草を与えているアスを見ながら思う。確かに彼女からしたら、驚きの連続だっただろう。彼女が俺の家に泊まりにきたのも、俺がどこかに行かないようにという想いもあったのかもしれない。表情に出ないからって俺はなんで気づいてやれなかったんだろう? 俺はあいつの幼馴染だって言うのに……
『シオン敵襲だ!! 身構えろ』
自分の愚かさを後悔していた俺だったが、シュバインの一言で俺たちは即座に戦闘モードに切り替わる。パーティーメンバーではないため、シュバインの言葉が通じないアスも、俺たちの様子で気づいたのか、身構えた。ここらへんは新しく来たところだからか、いまいち動物たちに力を借りるのが難しいのだ。こういう時はシュバインの野生の勘は助かる。
客室を出ると、シュバインが魔物らしき影に突撃をしようとしたが、あれはまずい。
『未知の土地で未知の敵!! たぎるなぁぁぁぁぁぁ』
「シュバイン待て!! マタンゴだ!! やつらに近づくと状態異常をおこす」
「確かに接近戦だけのシュバインとは相性が悪いわね……」
俺の意見にカサンドラも頷いた。俺たちの反応をみてシュバインは不満そうな顔をしながらも動きを止めた。
『ふふふ、人だ、人だぁ、オークもいるぞぉぉ』
『ふふふ、久々の獲物だぁ。いい苗床になるぞぉ」
『腐腐腐、人とオークのカップリング……いい……特にあの男受けっぽい……萌える』
俺の言葉にシュバインは疑問を浮かべている。マタンゴ、ランクはCランクの魔物で身体能力こそ低いが、毒を持った胞子をばらまくという特殊能力を持っている前衛職の天敵である。毒で生き物を動けなくして苗床にするのだ。シュバインのいたダンジョンには、こうした状態異常を使う魔物はいなかったから、馴染みがないのだろう。パーティーを組んで思ったが彼はからめ手に弱いようだ。てか、マタンゴの一匹が俺とシュバインをやたら情熱的な目で見つめてくるんだけどなんなの?
ちなみにマタンゴ自体は火系の魔術が弱点なので俺とカサンドラで事足りるのだが……
「シオン……せっかくだから私の力を見せたい……」
「ああ、お願いできるか。シュバイン、暴れたいんだよね? だったら、アスの言うことを聞いてくれるか? アスに任せていいかな?」
「うん、大丈夫……私はこいつの毒を知っている……」
『なんだ、この雌がなんかできるのか? ごばぁ』
しゃべっている途中のシュバインの口に、彼女特製の薬がぶち込まれた。もちろん彼女とて未知の毒などの対処はできないが、マタンゴはわりかしメジャーな魔物である。薬は作ってあるという事だろう。
「これで毒は大丈夫……あと、これはサービス……医神よ」
『うおおおおお、なんだこれ!? 体が軽いぞ!!』
「よし、これでシュバインに毒は通じない。暴れていいよ」
『よっしゃー!! 狩りの時間だぁぁぁ』
『ぎぇぇぇぇぇ』
彼女の言葉と共にシュバインの体が白く光る。マタンゴ達は彼らの毒を防ぐ薬とアスの法術によって強化されたシュバインによって蹂躙されるのだった。
といういわけでアスの能力のお披露目会でした。
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