6.シオンとアス2
そうして俺たちはアンジェリーナさんに話を通して、クエストを受けることになった。アンジェリーナさんは、俺とアスが一緒にいることにびっくりしていたが、経緯を説明をすると納得してくれた。「今度イアソンに文句を言ってあげますよ」と言ってくれたが、ギルド職員が片方の肩を持つのはまずいような気がするんだけど……でも、その気持ちは嬉しかった。
ゴルゴーン Bランクの魔物であり、魔眼という特殊能力をもっているのが特徴である。外見は通常時こそ美しい女性だが、本性をあらわすと髪が蛇と化す。身体能力もそこそこで、そこらの一般人ならば歯が立たないだろう。そしてなによりも厄介なのが特殊能力であり、魔眼の効果により、視線を合わせると石化してしまうのである。そのため戦闘時は視線を合せないよう戦わないといけないため厄介なのだ。それなりの身体能力と厄介な特殊能力をもつこの魔物を簡単に狩ることができれば、Aランクも見えてくるといわれている。
そして、ゴルゴーン達は森で集落を作って暮らしているのだ。俺たちは、その集落の近くにある人間たちの村へ馬車で向かっていた。
俺が御者台で借りた馬車を操っていると、背後からカサンドラとアスの会話が聞こえてきた。仲良くしてくれるといいんだけど……
「それで、アスさんは戦闘ではどんなことができるのかしら? 今回は依頼者だけれど、ひょっとしたら力を借りることもあるかもしれないわ」
「もちろん……あなたたちのパーティーにはヒーラーが足りない……だから今回は私も力を貸す。ね? シオンもその方がいいでしょう」
「まあ、俺の法術じゃあ、大きな怪我は治せないからなぁ。頼りにしてるよ」
「ふふ……私の法術は一流……」
アスの言葉に俺は頷いた。どこか得意げな感じがするが、頼られるのが嬉しいのだろう。昔からアスは俺の面倒を見たがるところがあるのだ。まあ、実際俺の方が一つ年下だしね。
「私がシオンをフォローするから安心して……昔からそうだった……シオンが寝込んだ時も……」
「そうだね。懐かしいなぁ、俺が風邪ひいた時もずっと看病してくれてたよね」
「懐かしい……あの頃のシオンは可愛かった……」
「むー……」
俺がアスと会話をしていると背後から不満そうな声が聞こえた。慌てて振り向くとカサンドラが唇を尖らせている。あれ、なんか怒ってない?
「どうしたんだ、カサンドラ?」
「別になんでもないわ……私は荷物が落ちないか見てくるわね」
そういうとカサンドラはなぜか不機嫌そうに声を上げて、後ろの荷台の方へと行ってしまった。どうしたんだろう? 馬車に酔ったのだろうか?
『うわぁ……なんでシオンはこう、察しが悪いのかなぁ……』
『よくわからねえから俺は寝るわ。敵が来たら教えてくれ』
待って、俺が悪いの? なんかやってしまっただろうか。とりあえず後でライムに聞くかと俺が悩んでいると、御者台が軋む。なんだろうと思い音のした方を見ると、アスが隣にやってきて座った。
「今回は……依頼を受けてくれてありがとう……」
「気にしないでくれ、俺もアスの力になりたかったしね。だからさ、カサンドラとも仲良くしてくれると助かる。あとなんでカサンドラの機嫌が悪くなったかわかるか?」
「シオンはカサンドラさんを信頼してるよね……視線でわかった……私は……シオンと仲良くなるのに何年もかかったのにな……」
俺の質問には答えず、なぜか彼女はぼそりと呟いた。アスはいつものように無表情だったが、その声に寂しさがこもっているのを俺は感じた。
彼女が弱音を漏らすのは珍しい。思えばアスには本当に悪いことをしてしまった。彼女がいない間に、俺は新しいパーティーを作った上に、肝心の『アルゴーノーツ』も壊滅状態だ。いきなりの状況の変化に彼女も戸惑っているのかもしれない。
でも、そんな状況だからこそ幼馴染の本音に触れることができたのかもしれない。本心を漏らしてくれた幼馴染には、俺も本音で返すのが礼儀だろう。
「それは違うよ、アスが昔にさ、声をかけてくれたから、俺はこんな風になれたんだ。孤児院でさ、家族がいなくて、拗ねてたクソガキの俺に声をかけてくれたアスがいたから、俺は人や動物、魔物とだって仲良くなれる人間になれたんだよ」
俺の言葉に彼女は目を見開いた。その瞳には信じられないという感情があふれていて……俺は彼女にこんな風にちゃんとお礼を言っていなかったなと思う。だって、なんかこっぱずかしかったのだ。でも、彼女の顔を見て俺は言葉にして、本当に良かったなって思う。だって彼女が本当に嬉しそうに笑ってくれたから。
「シオン……本当……? 私のおかげ?」
「ああ、そうだよ。あの時の俺に声をかけてくれてありがとう」
「えへへ、嬉しい……でも……なんか恥ずかしい……」
そういうとアスは珍しく満面の笑みを浮かべた。
俺は捨て子だった。両親の顔はわからないし、捨てた理由もわからない。だけど、俺が今こうしているのはあの孤児院にいたからだ。先生がいて、アスがいて、イアソンもいて、俺はそこで色々学んだんだ。
誰かが両親や兄弟など、家族の話をするたびに、俺は胸が痛んでいたのを思い出す。俺にはそもそも家族との思い出がないから、わからなかったけれど……家族の事を思い出して泣いたり悔しがっていた二人の気持ちはわからなかったけれど……そんな二人を見ていて、とてつもない疎外感に襲われていたのだ。
そんな俺に優しい言葉をかけてくれたのが、先生で、そんな俺を甘やかしてくれたのがアスで、そんな俺を煽っていたのがイアソンで……みんなのおかげで、俺は家族のようなものを手に入れたんだ。みんなのおかげで俺は寂しい思いをしないで済んだのだと思う。
「シオン……私カサンドラさんに謝ってくる……その私……彼女に嫉妬してたんだ……いつの間にか私の場所にいた彼女に……だから色々とあてつけみたいに昔の話ばかり話してた……」
「アス……俺も気づかなくてごめん」
そういうと彼女はカサンドラがいる荷台へと向かった。俺はアスを不安にさせてしまったのだなと後悔をする。それと同時に、俺もカサンドラに悪いことをしてしまったなと反省をする。そりゃあ、自分をそっちのけで、知らない昔話をされたらいい気分にはならないもんね。後で謝ろう。俺が反省していると再びアスに声をかけられた。
「シオン……どうしよう、謝りたいけど……どう謝ればいいかわからない……」
「大丈夫だよ、アス。正直に謝って、それで、友達になりたいって言えばカサンドラなら許してくれるさ」
「わかった……ありがとう、シオン……私頑張る……」
そういって彼女は今度こそ、カサンドラの元へと向かうのであった。
シオンとアスの過去がちょっとあきらかになりました。何かこの作品年上ヒロイン多いな……
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