3.シオンとアス
「ふーん……色々あったんだね……」
久々に会ったアスに俺の部屋で紅茶をご馳走しながらもこれまでにあったことを話す。イアソンとメディアにパーティーを追放されたこと、そしてカサンドラとの出会い。オーク達との緊急ミッションの事を……
すべて話した俺だったがアスは相変わらず不機嫌そうに紅茶を飲んでいる。それでも、最初の無感情な眼よりはましだった。いや、なんなのあれ? 何を言っても「……で?」としか言わなくてマジで泣きたくなったんだけど。
でも驚いたのは、アスが俺のパーティーの追放を知らなかったことである。アスに限ってそんな嘘をつくはずはない。ならばなんでイアソンはそんなすぐばれる嘘をついたのだろう。
「あのね……シオン、私は怒ってるんだよ……なんで怒っているかわかるかな?」
「その……なんで怒ってるんでしょうか?」
俺はアスに恐る恐る聞き返す。綺麗めな顔だからか、無表情だと妙な迫力があるのだ。彼女はカップに入った紅茶を飲み干すと彼女にしては珍しく饒舌にしゃべった。
「君はちゃんとイアソンと話したの? イアソンだって、本気でシオンを追放しようとしたはずないでしょ? だって私たちは三人で英雄になろうって約束したんだよ!! どうせ、メディアの馬鹿にそそのかされたんだよ。「シオンがパーティーにふさわしいか試しますとか何とか言ってさ」なんで幼馴染なのにそんなこともわからないのかなぁ!?」
「いや……だって、あいつらは、俺ではもうついてこれないって」
「あの馬鹿は素直じゃないから、シオンに発破をかけただけに決まってるでしょ。そのくせ、意地っ張りだから、あなたがパーティーを本当に抜けるって言ってどうすればいいかわからなくなったんだよ。そういうめんどくさいやつだって幼馴染の私やあなたならわかっていたでしょう!?」
「え……いや……」
俺はあの時の事を思い出す。確かにイアソンはずいぶんと前から俺が強くなることよりも、サポートに回っていたことを怒っていた。だから、あんなことを言ったのか? そう言えば、あいつが新しい仲間を入れていたのも、カサンドラとあいつが模擬戦をした後の話だ。まさか、あいつは俺が戻るのを待っていたのか? あほかよ、あいつは!! わかりにくすぎる。ああ、でもイアソンはそういうところがある男だった。例えばCランクでくすぶっている冒険者達にも俺の時と同様に煽ったものだ。
でも、それはアスの想像に過ぎない。あの場にいなかったアスの想像にすぎないのだ。それに……仮に発破をかけるにしても言っていい事と悪いことはあるはずだ。俺の顔をみて、アスはため息をついた。
「でもね、私が怒っているのはイアソンや、シオンだけにじゃないんだよ。そんなにも自分の力に苦しんでるシオンに気づけなかった私自身にも怒っているんだ。君がつらかった時にいっしょにいてあげられなかった私自分にも怒っているんだ。シオン、本当にごめん。私は君の幼馴染なのに……君が悩んでいる時になにもしてあげられなかったね……私がイアソンとメディアの馬鹿達を土下座させるから『アルゴーノーツ』に戻ってくれないかな」
俺はアスの言葉に何も返すことはできなかった。アスの言葉の通り、あれは俺を奮い立たせるための言葉だったという可能性もある。でも、あの時の言葉の通り本当に追放されていた可能性だってある。そしてそれはもう確かめようのないことだ。そして、もう、終わった話なのだ。
それに俺のパーティーはもう、『アルゴーノーツ』ではないのだ。カサンドラやライム、シュバインと達とのパーティーなのだ。短い間だけど彼女たちとの絆が今はもうあるのだから……だからアスには言わなければいけない。俺はこの幼馴染に伝えなければいけない。俺の気持ちを……
「ごめん、アス……俺はもう……」
「そっか、仕方ないよね。イアソンが悪いんだから仕方ない。あの二人にはちゃんと罰を与えるから安心してね」
「ひぇっ!!」
アスの顔をみて俺は思わず悲鳴を上げてしまった。怒ると本当にこわいんだよなぁ……
「まあ、イアソンの話はもうどうでもいいんだ。終わったことだから。それよりもさ……」
いや、どうでもよくはないよね? と突っ込みをいれようと思いつつ、感情のない目になったアスをみて俺は言葉を飲み込んだ。怖いんですけど!?
「カサンドラってどんな女性なのかな……? アンジェリーナさんや、ポルクス以外にも敵が現れるのは予想外……うかつだった」
「ああ、いいやつだよ。ちょっとコミュ障なところもあるけど、腕も立つし頼りになる」
後半はごにょごにょとつぶやいていたからよくは聞こえなかったけど、アスの問いかけに俺は答える。おそらく俺の新しい相棒がどんな人間か、心配してくれているであろうアスに俺はカサンドラがどんなにいいやつで、どれだけ信頼しているかを語る。
すると彼女はまたぶつぶつといいながら何かを考えているようだった。なんで不機嫌になってるんだ?
「どんな人物かだいたいわかった……明日シオン達を指名してクエストを依頼していいかな……? Bランクじゃないと難しい依頼なんだ……」
「ああ、今、クエストは特にうけてないから大丈夫だと思うけど、一応みんなに確認とってからでいいか?」
「うん……もちろん……ありがとう。……シオンとまた一緒にいれるね」
そういうと彼女は嬉しそうに笑った。久々に笑う幼馴染を見て俺もつられて笑う。なんだかんだこいつは寂しがり屋なところがあるんだよなぁ……
「じゃあ、明日一緒にギルドに行こう……今日は旅から帰ってきて体が重いし……いっぱい喋ったからか疲れた……もう寝るね……」
「え、ちょっと待って? ここ俺の部屋なんだけど!? お前ここに泊まるつもりじゃないよね?」
「問題ない……私達は昔から一緒に寝てたし……パーティー組んだ最初の頃も雑魚寝してた……大丈夫……」
「それは子供の頃だし、パーティー組んだ時はイアソンもいたよね!? って、アス? 寝るの早くない? おーい」
「こんな真夜中に宿も決まっていない女の子を放り出すの……? シオンの鬼畜……」
「う……いや、それは……」
「やっぱり……シオンは優しい……といわけでおやすみ。フフ……シオンの匂いだ……癒される……」
そういうと彼女は俺のベッドに横になり寝息を立てた。耳元で叫んで起こそうかと思ったが、幸せそうに寝ている彼女の寝顔をみて俺はあきらめた。まあ、俺とアスなら変なことはおきないだろう……いや、おきないよね? とはいえ、さすがに同じベッドはまずいよね。まあ、床に毛布でもしけばいいか……と思うと、彼女の指が俺の服の裾を掴んでいた。振りほどこうとすると
「シオン……一緒にいて……寂しい……」
それは寝言だったのかもしれないし、彼女の本音だったのかもしれない。彼女からすれば旅から帰ってきたら、パーティーは解散して、幼馴染の一人は行方不明。もう一人は他のパーティーを結成していたのだ。不安になるのも無理はないだろう。
「大丈夫、俺はここにいるよ」
そういって彼女の横に寝ると心なしか彼女が微笑んだ気がした。そうして俺たちは同じベッドで眠りにつくのだった……
って眠りにつけるはずないだろ? 隣に女の子いるんだよ。いくら幼馴染だからって寝れないよ!? 待ってこういう時どうすればいいの? あれだ、隣にいるのはゴブリン隣にいるのはゴブリン……いや、ゴブリンがいたら恐いよ。ここは、ダンジョンか? それにこんな綺麗なゴブリンはいない。
うおおおおおおおおお、どうすればいいんだぁぁぁぁぁ!! その日俺は結局一睡もすることはできなかった。
アスとシオンの会話回です。ちなみにシオンとアスは何にもありませんでした。
イアソンが何を思ってシオンを追放をしたのかは、イアソン視点でそのうち語られます。幼馴染の絆を信じているアスだと色眼鏡がかかっているかもしれませんね。
どのみち到底許されることではないですからね。シオンも許すつもりはないです。
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