2.日常と再会
「お疲れ様です、シオンさん。依頼主の方も大変喜んでいましたよ。またお願いしたいとのことです。やりましたね!!」
「いえ、アンジェリーナさん達のおかげですよ」
ギルドに戻った俺たちはアンジェリーナさんに報告すると、彼女はいつものようににっこりと笑顔を浮かべて俺達を迎えてくれた。実際、魔物を連れた俺達がたいした問題なくクエストをこなしているのは彼女たちギルド職員のフォローのおかげというのが強い。この街の住人たちはカサンドラを受け入れたように、異物に対してあまり抵抗感はないが、他の街の住人たちはそうはいかない。現に最初は先ほどの依頼主も、不審な目で俺たちを見たものだ。それをアンジェリーナさんと俺が説得して依頼を実行したという流れになる。
緊急ミッションから一月、ギルド内もようやく落ち着いてきたし、俺の仲間の魔物たちも徐々にだが、ギルドと街に受け入れられつつある。そして俺達は次の段階として、他の街にもその存在を宣伝しているのだ。
「きゃー、本当に気持ちいい。ライム君すごい」
『ふー、やっぱりシオンの肌より女の子の方がいいなぁ……』
声の方を見ると戦士らしき少女の肌にライムがくっついている。よくわからないが、ライムはいくつもの薬草を定期的に摂取しているためか肌にとてもいいらしく、よく冒険者の女子達に頼まれてくっついているのだ。ライムと視線が合うとあいつはニヤリといやらしい笑みを浮かべやがった。くっそ、あのエロイムめ!! あいつばっかり女の子にくっついててずるくない?
「それで……あれってなんとかなりませんかね」
「すいません……本当にすいません……あいつの生態みたいなものなんですよ……」
俺はアンジェリーナさんの指をさした方をみて謝る。そこにはシュバインとガタイの大きい、前衛系の冒険者が取っ組みあいをしており、周囲では歓声が飛び交っている。あいつらまた金賭けてやがるんだろうなぁ……
これは一人の冒険者がシュバインに取っ組み合いを挑んだことから始まった恒例行事と化している。シュバインに勝ったら、賞金がもらえて、参加者は挑戦料を払う。勝手なことをするなよって話だが、シュバインも楽しんでいる分あまり文句は言えないのだ。それに強そうなやつにかたっぱしから喧嘩を売るよりはましだろう。
「そういえば、イアソン達は……」
「わかりません……あれ以来ギルドにも顔を出してませんし……」
「そうですか、見つけたら教えてください」
そうして俺は少し寂しい思いをしながらもアンジェリーナさんにお礼を言ってカサンドラの元に向かった。
「そういう場合はこうすればいいわ」
「ありがとうございます!! 次会う時には絶対マスターしてみせますね」
「そんなに焦らなくていいわよ、あなたはまだCランクなんだし。またわからなくなったら聞いてね」
「はい、カサンドラさんありがとうございます」
俺がカサンドラと少女のやりとりを見守っていると、少女はお礼を言って去っていった。緊急ミッションの後からだろうか、カサンドラは一部の前衛の少女に良く話しかけられるようになった。男性が多い前衛職で、活躍する女性と言うのはそれだけ、賞賛を集めるという事だろう。
「はぁー、うまく教えられたかしら」
「大丈夫だと思うよ。あの子喜んでたし」
「シオン!? まさか聞いてたの? それなら声をかけてよ……バカ」
一人になってため息をついているカサンドラに声をかけると彼女は顔を真っ赤にしてこちらを睨んできた。すねた感じでちょっと可愛らしい。
「あの魔術剣ってそんなにぽんぽん教えていいものなのか?」
「別にいいんじゃないかしら、それでこの街の冒険者の戦力が上がるならむしろありがたいことじゃない?」
俺の言葉に彼女はきょとんと聞き返す。すっかり表情がやわらかくなった気がする。他の人とあんなに好意的に話すなんて最初に会った彼女からは考えられないくらいである。まあ、時々狂犬みたいに凶暴になるけどね。
「ねえ、シオン今、なんか変なことを考えなかった?」
「いや、なんも考えてないって。それより次はどんなクエストを受けようか?」
「そうねぇ……私達は連携さえもっと強化できればAクラス昇進クエストを申請してもいいと思うのよね」
「そうだなぁ……」
確かにカサンドラとシュバインのおかげで、戦力はこの街でも上位になったと思う。ならばあとは実戦を繰り返しつつ、昇進クエストを受けてもいいかもしれない。
「シオンさーん!! こんなところで会うなんて偶然ですね。私、今日もクエスト頑張ってこなしたんですよ。褒めてください!!」
「おい、ポルクス!! だからその軟弱男に近寄るなと言っているだろう。それにこの時間はシオンがいるから早く行こうって言ったのは……おぐぅ」
声の方を向くと、ポルクスとカストロがいた。カストロがまた杖でみぞおちを突かれて呻いているがいつもの事だ。
「お疲れ様、今日はどんなクエストをしたんだ?」
「墓地でアンデット退治ですね、スケルトンってやっぱり怖かったです……ほら、私の手まだ震えてませんか?」
そういうとポルクスは俺に自分の手を握らせる。やわらかくて気持ちいい。あとなんかいい匂いが……いや死臭だ。全然良くないや。俺は急激に胸のドキドキが消えていくのを感じた。
「シオン……厭らしい顔しないの」
「いや、ポルクス、お前ノリノリでアンデットを焼き払って……いや何でもないです」
カサンドラがゴミをみるような目で俺をみてきた。いや、俺なんもしてなくない? でもさ、可愛い女の子に慕われてニヤニヤするのは仕方ないと思うんだよね。
そうしてみんながあつまったことで俺たちは今日も無事にクエストを終えたお祝いに酒を飲むのであった。
酒を飲んで自分の家へと向かっていると、俺は家の前にフードを深くかぶった人影を立っていることに気づいた。一体何者だ? とりあえず、近くの草むらにいたネズミに声をかける。
「よう、兄弟。あの人影はいつからいた?」
『酒くせえな、二時間くらい前だぞ、なんかずっとお前の部屋を睨んでたけど大丈夫?」
「情報提供ありがとう、今度チーズを渡すよ」
俺はネズミにお礼を言って、人影の方へと向かう。一応身体能力の強化法術もかけて武器もいつでも抜けるようにする。
「そこは俺が泊っている宿なんだけど何の用かな?」
「シオン……馬鹿……私待ってたんだよ」
「え、アスか?」
俺は意外な人物に驚愕の声を漏らす。少女がフードを取ると腰まで伸びた銀髪があらわになる。純白のように真っ白いローブを着た少女は俺を一瞬睨んだで頬を膨らませたかと思うとこちらに駆け出してきて抱き着いてきた。
「シオン……『アルゴーノーツ』を抜けたって本当?」
「え、だってそのことはアスだって……」
俺が何かを言う前に彼女は俺に抱き着いたまま匂いを嗅ぐ。そして、なぜか一切感情のない瞳でこういった。
「知らない女の匂いがする……これはどういうこと?」
「へ?」
なぜだろう、俺はすさまじい殺気を感じたのだった。
というわけでアスの登場回です。次回でどんなキャラかわかるかと思います。シオンもてるなぁ……
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