別れは突然に
「大変よ、ジェシカさんが重傷で運ばれたって……初心者パーティーを救うために戦ったんだけど、片腕も失って、生死をさまよってるって……」
冒険者ギルドでその話を聞いたとき私は自分の頭の中が真っ白になった。私だって、冒険者ギルドで受付嬢をやって、もう一年だ。担当パーティーの死には馴れている。馴れてしまった。
だけど彼女は違うのだ。彼女とシオンさんだけは違うのだ。最初に担当したということもあった。最初の関係は冒険者と受付嬢だった。だけど彼女は私を色々サポートしてくれて……プライベートでも一緒にご飯に行ったり、お酒を飲んでたりして……私にとって彼女はもう、友達以上に親しくて、まるで姉のような存在だったのだ。
「そんな……だってジェシカさんは言ったんですよ。バーを開くんだって、開いたら一番最初のお客さんにしてくれるって、だからそんな……」
「アンジェリーナ……今日はもう休みなさい。今のあなたに仕事は任せられない」
「でも……」
「いいから!! 鏡をみてみなさい。そんな顔じゃあ、冒険者だって不安になるのよ」
そうして私は冒険者ギルドを追い出された。ジェシカさんが運ばれたという教会に足を運んだが、そこも治療中だからと追い出されてしまった。私はあてもなくふらふらと街を歩く。
結局私が来たのは以前ジェシカさんと夢を語り合ったバーだった。困惑している店主に頼み込んで私は店を開けてもらい私は、いつもの席に座る。なぜだろう。ここにくればジェシカさんが来てくれるそんな気がしたのだ。もちろん、そんなはずはない。そんなことはあり得ない。
私は先輩たちの言葉を思い出す。『冒険者と仲良くなりすぎるな』ああ、まったくもってその通りだ、冒険者たちは私たちを置いていく……こんな思いをするくらいならもう、冒険者に心を開くなんてことは……
「アンジェリーナさん、大丈夫ですか? ギルドで話を聞きましたよ。ジェシカさんが……」
「シオンさん……」
私が顔をあげるとそこに息を切らしているシオンさんがいた。乱れた髪に服、きっと彼は私のために、街中を走ってくれたのかもしれない。そのことに嬉しくなる。だけどだめだ。彼もいつか死んでしまうのだ……だから、彼ともこれ以上仲良くなってはいけない。
「なんですか……帰ってください。私は大丈夫だから……」
「大丈夫なはずないじゃないですか!? そんな世界が終わったみたいな顔をして大丈夫だなんて思えませんよ」
「大丈夫だって言ってるんだよ!! 私に優しくなんてしないでよ、どうせシオンさんだってわたしの前からいなくなっちゃうんだ!!」
私のひどい言葉に彼は一瞬驚いたように目を見開いたが、一歩も引かずに私の言葉を受け止める。彼はそのまま私の隣に座って私の方を真正面から見つめる。
「俺はあなたに悲しい顔をさせたりなんかしませんよ!!」
「信じられるはずないでしょ!! そんなこと言ってみんな死んじゃうんだ。ラヴァさんだって、ヘイズさんだって、ジュナーさんだって死んだ……絶対大丈夫っていっていたジェシカさんだって死んじゃうかもしれないんだよ!!」
「俺は死にませんよ、絶対死にません!!」
私の八つ当たりの言葉を彼は真正面から受け止めた。その顔はいつもの気弱そうな印象はなく、まるで一人前の男の人のようだ。彼は私を見つめながら言葉を紡ぐ。
「だって、俺にはアンジェリーナさんから教わった冒険者としての知識があるから、ジェシカさんから、教わった冒険者としての経験があるから。だから俺は死にませんよ!! だから……俺を信じてくださいよ。アンジェリーナさんやジェシカさんが教えてくれた知識と経験を信じてくださいよ!!」
「シオンさん……」
その姿があまりにも立派に見えて私はつい甘えてしまう。彼の強さに甘えてしまう。いままでためていたものを吐き出すように彼に甘えてしまう。
「だって、私達ギルド職員はあなたたち冒険者たちを見送ることしかできないんです。みんな命を懸けているのに神様に祈るくらいしかできないんです」
「そんなことないですよ、アンジェリーナさん達が俺たちに適したクエストを選んでくれるから、ちゃんと見送ってくれるから、俺たちは安心してクエストにいけるんです」
「でも、私はクエストに出たあなたたちには何もできないです。苦しんでいるあなたたちに何もできないんですよ」
「そんなことないですよ、だって、クエストで苦しい時や、つらい時にアンジェリーナさんの笑顔を浮かべるとがんばれるんです。だからなんにもできないなんて言わないでくださいよ」
「シオンさーん」
私は感情を押し切れず彼に抱き着いてしまう。冒険者として生きている彼の体は意外とがっちりしていて不思議な安心感に包まれるのであった。
結局ジェシカさんは一命をとりとめたものの、もう冒険者としてはやっていけないとのことだった。でも生きていた。それだけで私の胸は少し軽くなったのだった。
更新二回目です。次で終わりです。予想以上に長くなってしまいました。
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