シオンのお願い
わたしは今日の報告書をまとめながら、安堵する。『アルゴーノーツ』が無事に薬草採取を終え、帰還したのだ。途中で一角ウサギというウサギに鋭い角が生えた魔物に襲われはしたものの、なんとか、撃退したようだ。
イアソンさんが偉そうに討伐証明の角を持ってきた。一角ウサギは戦闘力はそこまでではないが、すばっしこいので初心者には狩りにくいはずなのだが、さすがはギフト持ちというところだろうか。でもあんまり調子に乗らないように言っておかないと……
「へぇー、あのルーキー達、一角ウサギを倒したんだ。やるわねぇ」
「ここはご飯を食べるところじゃないんですが……」
「まあまあ、これでも飲んで気分転換しなさいな」
私はあきれた声で当たり前のように書類を覗いているジェシカさんに返事をする。私が睨むと彼女はおどけた顔をして、コーヒーを差し出してきた。ちょうど疲労もたまっていて頭をすっきりさせたかったのでちょうどいい。そして彼女は私のタイミングを見計らって声をかけてきたということもわかってしまう。こういうところがあるから憎めないんだよね。
「ありがとうございます、頂きますね」
「あいつら無事に帰ってきてよかったわね、あんた一日中気に病んでいたでしょう。いちいち気にしていたら心が持たないわよ」
「冒険者のあなたがそれを言いますか……」
「冒険者だから言うのよ……でも、私はあんたのそういう真面目なところ嫌いじゃないけどね」
「はいはい、ありがとうございます」
私は少し恥ずかしくなって、ジェシカさんに適当に返事をする。そしてジェシカさんに言われたことは受付嬢が最初に注意されることだ。『冒険者に感情移入をしすぎるな』言いたいことはわかる。でも、彼らは一生懸命生きているわけで……私達の依頼を一生懸命受けてくれているわけで……そんな彼らに適当な対応なんてできるはずがないでしょう。
「あの……すいません、アンジェリーナさんちょっといいですか?」
「はい、なんでしょうか……って巨乳好きさん!?」
「待ってください、俺にはシオンっていう名前があるんですけど!? 何で胸元を隠すんですか? 俺そんな凝視してました!?」
声の方をみると黒髪の目つきの悪い少年が立っていた。『アルゴーノーツ』のシオンさんだ。どうやら今は一人らしい。とっさに胸元をおさえてしまったが失礼だっただろうか?
「3回ね」
「え、何がです? ジェシカさん」
「シオンとやら良いことを教えてあげるわ、私はCクラスの冒険者だから目は良いのよね。暇だから数えていたのよ」
「すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、でもそのおっぱいで受付嬢は無理ですよ!!」
「え……? は……? はぁぁぁぁぁぁ!?」
全然失礼じゃなかった。私はとりあえずシオンさんを睨みつける。いや、確かにこの制服はちょっと胸を強調するところもあるけれど見られるのはあまりいい気分ではない。男の本能なのかもしれないが……というかジェシカさんもなんで数えているのよ……私はにやにやと笑っている彼女を睨みつける。
「それで何をしに来たんですか? セクハラでもしに来たんですか? 巨乳好きさん。冒険者の資格をはく奪されに来たんですか?」
「せっかくなったばかりなのに!? そのこれを受け取ってもらえませんか? お願いがあるんですが……」
「これは……? すいません、胸ばっかり見る人はちょっと無理なんで……大体あなたはパーティーの銀髪の子と仲良しなんじゃないですか?」
私は彼が持ってきた綺麗な石を突っ返す。受付嬢になると冒険者からのお誘いがすごいと聞いたが本当にあるのとは……しかも、こんな少年が……私はちょっと彼の将来が心配になった。
「え、なんで俺振られてるんです? ってかまだ俺何にも言ってませんよね?」
「え、デートのお誘いじゃなかったんですか?」
「いや、確かにアンジェリーナさんは綺麗ですけど、俺達今日あったばかりですよ!? なんで、デートに誘うんですか? その……これをクエスト中に拾ったんですが、たぶん換金すればお金になると思います。これを報酬ってことで俺に色々冒険者の知識を教えてもらえないでしょうか?」
「冒険者の知識ですか……まあ、いいですけど……でもなんでまた……」
どうやらデートのお誘いではなかったようだ。彼には悪いことをしてしまった。
「俺はイアソンほど剣も強くないし、アスみたいに回復も得意じゃないんで、少しでもパーティーの役に立つために知識を得たいんです。イアソンやアスと一緒に英雄を目指すために俺は俺にできることをやっておきたいんです」
先程までの情けない雰囲気とは一転して、その声はあまりに切実で、私は一瞬迷ってしまう。個人のサポート……そこまでは完全に業務外だ。だからこそ彼は先に報酬をわたしてきたのだろう。助言を求めるように私はジェシカさんに視線で助けを求める。
「シオンとかいったわね、あなた、この宝石をどこで見つけたのかしら? あなたが行った森で見つかるようなものじゃないと思うんだけど」
「ああ、鳥が教えてくれたんです、珍しいものが落ちてるよって」
「ああ、なるほど……『翻訳者』のギフトの力ね。ちなみにあなたのギフトは魔物とも話せるのかしら?」
「ええ、話せますよ、さすがに仲良くなるのは難しいですけどね」
ジェシカさんはシオンさんの返事にうーんと唸って何かを考えて、私と彼を交互に見て言った。
「この子には色々教えた方がよさそうね。アンジェ、私も付き合うわよ!!」
「ジェシカさんがいるなら……」
「ありがとうございます!! このお礼は必ずお返ししますから」
そうして私たちは彼に冒険者の講習をすることになったのだった。
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