アンジェリーナとアルゴーノーツ
冒険者ギルドに就職したのは大した理由があるわけではなかった。ただ給料が良かったのと、人の世話をするのが好きだから。それだけだった。
「アンジェリーナ、この新人パーティーまかせていいかしら?」
「はい、わかりました」
先輩の言葉に私は元気よく返事をする。そしてもらった資料を見る。三人パーティーで、全員ギフト持ち? これはすごいパーティーを任されてしまったかもしれない。あと一時間ほどで来るようだ。今のうちに色々資料に目を通しておかないと……
「へぇー『英雄』に『医神』ね。あとは『翻訳者』か……他の二人はともかく、なんでこの子は冒険者になろうと思ったのかしらね」
「ちょっと勝手に人の資料を見ないでください!! まあ、どうせ調べようと思えばすぐわかる内容ですが……」
「だって、声をかけたのに無視をするんですもの、それとも新しい担当パーティーができたら、私の事は捨てちゃうのかしら。あー悲しくて涙が出ちゃう。しくしく」
そういってわざとらしく泣く真似をしているのは、私の担当冒険者のジェシカさんだ。女性にしては身長が高く、長い黒髪を後ろに縛っている。Cランクのソロ冒険者である。彼女は年の割には冒険者としての経験が豊富で、新人の私が任されたのはその面倒見のよさも見込まれたのだろう。私がギルド職員としてサポートをしなければいけないはずなのに、むしろ色々教わっている気がする。
「新人パーティーを任されるなんてあなたの仕事が認められたのよ、がんばりなさい。アンジェ」
「ええ、わかってます。失敗しないようにしないと……」
私はマニュアルを頭の中で思い出しながら、流れを思い出す。まずはパーティー編成を聞いて、ヒヤリングをして、どんな人たちか見極めて、最適なクエストを斡旋するのだ。基本的に冒険者たちは自分の力を盛る癖がある。それに騙されてはいけない。
「ねえ、アンジェ、緊張をほぐすおまじないをしてあげようか?」
ぶつぶつと言っている私を心配したのか、ジェシカさんが優しく声をかけてきてくれた。こういうところがあるから憎めないのだ。たぶんお姉ちゃんがいたらこんな感じなのだろうなと思う。
「すいませんが、おねがいしま……キャッ!!」
「ほうほう、なかなか良いものを持ってますな」
「ジェシカさーん!!」
私は揉まれた胸をおさえながら涙目で抗議をするがあっという間に逃げられてしまった。まったくもう……今度会ったときにどんな仕返しをしてやろうかと考えていると、三人組の少年少女がギルドに入ってきた。先頭の少年はどこか偉そうな雰囲気をしていて、金髪に中々端正な顔立ちをしているが、どこか生意気そうだ。その後ろを銀髪のローブを着た無表情な少女と、レザーアーマーを着た目つきの悪い、黒髪の少年が歩いている。
「今日から冒険者になる『アルゴーノーツ』だ。俺たちの担当は誰だ?」
「イアソン、敬語くらい使おうよ……」
「何を言っているんだ、英雄になる俺たちがこの街のギルドを選んだんだ。むしろ感謝されるべきだろう」
「イアソンやめて……恥ずかしい……存在が……」
大声で得意げに喋る金髪の少年を、黒髪の少年が諫め、それを見て銀髪の少女があきれたように呟く。なんというか騒がしそうなパーティーだ。名前も一致するし、彼らが私の担当のパーティーだろう。
「アルゴーノーツの皆さん、こちらです。あなたがたの担当をするアンジェリーナです。よろしくお願いします」
私が手を挙げると彼らが私の方を向いた。そして、三人とも目を希望に満ちた目で私の方へと歩いてくる。
「ふははは、今日が、俺たちの英雄への船旅の日だ!!」
「イアソン……私たちは船に乗らない……馬鹿なの……?」
「アス、今のは比喩だから!! イアソンもアスを睨みつけないの!!」
黒髪の少年が、二人を諫める。苦労人らしき彼に少し親近感がわいた。騒がしいけど仲良しだなぁと微笑ましい目で見ていると、銀髪の少女と目があう。彼女は私をみるとなぜか胸を凝視した。
「気を付けてください……シオンは巨乳好きだから……いまも、ちらちらあなたの胸を見てます……」
「風評被害ぃぃぃ!! いや、確かに巨乳は好きだけど……って、痛いよ!! アスなんで俺を蹴るんだよ」
「ははは、シオンはむっつりで巨乳好きだからなぁ、アスの貧乳じゃあだめなんだろう。ほげーーー!!」
「シオンの馬鹿……いつか薬を作るからいいもん……あと……イアソン……デリカシーなさすぎ……もげちゃえ」
股間を杖で突かれて悶絶する金髪の少年、少女は一体どんな薬をつくるつもりなんだろう? 黒髪の少年と目があったので私はとっさに胸を隠す。すると、少年は露骨にがっかりした顔をする。冒険者には個性豊かな人間が多いが、彼らはその中でもトップクラスかもしれない。彼らに色々言いたいことはあるが、仕事はしないと……
「まだ会話すらしていないのに、俺へのギルドの職員さんの好感度がすっごい下がった気がするんだけど……」
「大丈夫……シオンには私がいる……説明を聞きに来ました……お願いします」
「待て、俺を置いて行くな……というか俺がリーダーだぞ……」
傷ついた顔をする少年と、無表情な少女の後を股間をおさえながら金髪の少年が這いずりながらついてきた。とりあえず三人とも席につくのを待って、私は説明をはじめることにした。
本日更新二回目です。アスとジェシカさんは初めて出ますね。
しばらくはアンジェリーナさん視点が続きます。そんなには長くならないです。
いただいた感想は仕事終わりに返信させていただきます。
『期待する』『次も読みたい』
と少しでも思って頂けたら励みとなりますのでブックマーク登録や評価、感想をいただけると嬉しいです。
特に下側の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にして頂けるとモチベが上がりますので宜しくお願いします!




