待ち合わせ
いつもよりお洒落をした私は自分の気持ちを考える。セイロンに言われたせいか、少し意識してしまう。私は彼をどう思っているのだろうか? やはり、放っておけない弟だろうか……少なくとも、彼がパーティーから追放されて、声をかけた時は、凹んでいる彼を心配しているっていうのが強かったと思う。まあ、彼にご飯にさそわれて嬉しいっていうのも事実だったけど……
だけど、同時に親しくなるのが怖いという気持ちもある。でも、彼がカサンドラさんを連れてきた時の感情はなんだっただろう。
そんなことを考えながら歩いていると、待ち合わせ場所についてしまった。街の中央にある噴水の前は人で溢れている。
そこに、待ち合わせよりまだ早い時間だというのに彼はいた。魔術で作り出した水の鏡で、髪型をチェックしているようだ。こういうところが可愛いなぁと思う。
「早いですね、シオンさん」
「あ、アンジェリーナさん! アンジェリーナさんもずいぶんお早いですね」
私を見て微笑みを浮かべた彼はあわてて、魔術を解除した。鏡は水となり、地面に落ちる。少し動揺していると最初に会った時を思い出す。あの頃も緊張しながら私に話しかけてきたのだ。
「ふふ、付き合いが長いのにこうして、二人で出かけるのは珍しいですね」
「いやぁ、だって、アンジェリーナさん忙しそうだから……」
「シオンさんもそうじゃないですか? Bランクになってからは色々忙しそうでしたよね」
そういって私たちはお互いの環境の変化を実感し合った。私が新人で、彼が新米冒険者だった時は、よく講習などをしていたが、最近はそれも、めっきり無くなった。
私もベテランになり業務が忙しくなったことと、彼は彼で、彼の知識はもうかなり豊富になり、講習は不要になったのと、Bランクということで色々とやることが増えたのもあるだろう。
いや、それだけではない、シオンさんも私も積極的に異性を食事などに誘う性格ではない。思えばいつも言い出しっぺは彼女だったのだ、その彼女がギルドから居なくなったのだから、一緒に出かける事がなくなるのも納得である。だから、彼が食事にさそってくれたのは嬉しかった。
「それよりも、何か言うことはありませんか? 私、今日はお洒落してきたんですが?」
「え……その似合ってます。いつもの制服もいいんですが、私服は新鮮ですね。どこかの令嬢かなって思っちゃいました」
少し動揺しながらも、彼はちゃんと褒め言葉を返してくれた。それが予想外で……ちょっとドキッとした自分が悔しくて、わたしは意地悪をすることにした。
「胸を見ながらそんなことを言っても説得力はありませんよ」
「え……いや、見てました? いや、たしかに見ましたけど、一瞬ですよ! 本当に!」
「ふふふ、今日は特別に許してあげますよ、さあ、行きましょう。シオンさんオススメのお店を案内してくださいね!」
私が彼をからかうと顔を真っ赤に動揺する。こうしていると昔に戻ったみたいだ。彼女も一緒にいたあの頃に……その雰囲気がなつかしくて、今ここに彼女もいたらなと、つい思ってしまった。
「アンジェリーナさん、なんか考え事してませんか? 悩みとかあったら聞きますよ」
彼の言葉にわたしはドキッとする。どうやら顔に出ていたようだ。本当に彼はよく気が利くと思う。おそらくこういうところが彼の強さなのだろう。彼のギフト『翻訳者』はあくまで動物や魔物と会話をするだけのギフトだ。仲良くなれるギフトではない。彼が魔物や動物と仲良くなるのが早いのは彼の人柄によるものだろう。私は彼といるスライムとオークをみて思う。私に彼らの言葉はわからなかったけど、オークもスライムもとても楽しそうなのだ。
「その……シオンさんとギルドの外で会う時はたいてい彼女がいたから、つい昔を思い出してしまって……」
「あー、それすごいわかります。こういう時はいつもあの人もいましたもんね……よかったら今日は食事よりも、お酒にして思い出話でもしますか? アンジェリーナさんは知らないでしょうけど、俺お酒も強くなったんですよ」
「ありがとうございます。シオンさん、今日は予定を変更してわたしが行きたいお店にしてもいいですか?」
「もちろんです! あの店ですよね? 俺も久々に顔を出したかったんです」
そうして私たちは予定を変更してバーへとむかうのだった。シオンさんと話しながら、私は思い出す、彼女と、シオンさんとの思い出を……
本日更新一回目です。待ち合わせって緊張しますよね。
次回から回想になります。しばらくはアンジェリーナさん視点が続きます。
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