とある休暇
今日はオフの日だ。緊急ミッションでオークロードとギフト持ちオークを狩った私たちは、結構な額の報奨金をもらったということもあり、少し休息を取ることにしたのだ。
せっかくの休暇なので、シュバインと模擬戦をやった後、私はライムと街をぶらついていた。シオンも誘ったのだが、何やら予定があるとの事で断られてしまったのだ。
とはいえ、シオンとは違いあまり知り合いもいない私はライムと一緒に時間を持て余していた。前までは一人でいることが当たり前だったというのに、私も変わったものだと思う。でも、この寂しいというは悪くない。だって、私は他人と……彼といたいと思えているのだから。本当にこの街に来れてよかったと思っている。
『でもシオンの用事ってなんだろうね? エッチなお店に行ってないといいけど……』
肩にいるライムが私にささやく。彼の声が聞こえるのはどうやらシオンの新しいスキルの効果によるものらしい。彼を通じてどうやら信頼しあったものには異種族でも言葉が通じるようになるそうだ。ただし、条件は厳しいので、今はシュバインとライムの声しか聞こえない。シオンみたいに猫と会話をするっているのも少し憧れたのだけれど……そんなことよりもだ。
「エッチなお店ってあれよね……女の人がいるお店よね……」
いや、まあ、犯罪をするよりはいいし、彼もそういう年頃である。そういうお店に行くのは個人の自由である、でも、なぜだろうか、胸の中がもやもやする。ちょっと不快な感じだ。
『ごめんごめん、冗談だよ。たぶんシオンにはそんな度胸はないんじゃないかな? だからそんな獲物をみつけたオークみたいな怖い顔をしないでよ』
「別にそんな顔してないわよ、失礼ね!!」
そんなに怖い顔をしていたのかしら? ライムが慌てて謝ってきた。私は胸の中の感情を考える。この気持ちはなんなのだろうか? 相棒が私に秘密にしていることへの不満かしら?
『ふふ、これは結構脈ありかな?』
「当たり前でしょう、生きているんだか脈はあるわよ。あなたたちスライムはわからないけど……」
『スライム差別だ!! 僕たちは脈の代わりに核があるんだよ。でもカサンドラって天然とか言われない?』
「言われないわね……その、人とも魔物ともあまり話したことなかったから……」
『助けてー、シオン助けてー、この雰囲気なんとかしてーー!!』
私の言葉にライムがわざとらしく悲鳴を上げる。彼なりに雰囲気を明るくしようとしているのだろう、こういうところはこのエロイムも、シオンと似て人に気を遣うところがあると思う。
「私はもう、仲間ができたしそんなに気にしてないんだけど……って噂をすればシオンじゃない」
『あ、まって、誰かと一緒にいるよ!」
シオンを見かけて声をかけようとした私だったがライムの声に動きを止める。本当だ、誰かしら。シオンは顔が広いから誰かといても不思議ではないのだが。あの後姿は見覚えがある。栗色のロングヘアーの女性だ。おそらく……
「あれはアンジェリーナさんですね、やっぱりシオンさんは巨乳が好きなんでしょうか……くっ、アスさんがいない隙を突かれましたね。不覚です!!」
「そ……その、こんにちは、カサンドラさん」
「あなたは……ポルクスちゃんとカストロ君だっけ……?」
いきなり声をかけられて振りむくと、悔しそうな顔をしたポルクスちゃんとなぜか顔を真っ赤にしたカストロ君がいた。
「カサンドラさん、二人の後をつけましょう!! このままではアンジェリーナさんにシオンさんがとられてしまいます!!」
「いや、私は別に……」
「いいから行きますよ!! あ、あそこカップルに人気なお洒落なバーですよ。なんか片腕の元冒険者がやってるんですが味は確かって話です。私もシオンさんを誘おうと思っていたのに!!」
「まって、でもバーってお酒を飲むところでしょう? 別に付き合いでそれくらいあるんじゃ……」
「ダメです!! シオンさん押しに弱いから、アンジェリーナさんによい潰されて、持ち帰られてしまいます!! バーは付き合っている男女の密会に最適ですからね!!」
「ポルクスさんにとってバーってどういうイメージなの……? てかそういう場所なの?」
ポルクスさんが、村を焼いた仇でも見るかのようにバーを睨む。
待って? アンジェリーナさんとシオンは付き合ってるの? いや、別にいいんだけど……私聞かされてないんだけど? 私は彼の相棒よね。一言くらいあってもいいんじゃないかと思う。あとなんだろう。少し胸がモヤッとするのだ。
そうして私たちはポルクスちゃんに押され彼らが入っていったバーへと私達もいくことになったのだった。多分本気で嫌がればポルクスさんも無理強いはしなかっただろう。だけど私はこの気持ちを確かめるためにも、彼女達に着いていく事にしたのだった。
というわけでアンジェリーナさん編始まりです。シオンアンジェリーナさんは二人でどんな話をするのか?
次はアンジェリーナさん視点になります。
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