37.約束
オークの騒動から何日かたち、ギルドも通常通りの運営を始め、ダンジョンも解禁になったので俺たちは再びここに足を踏み入れた。
「なあ、カサンドラ……信じてるからな」
「ええ、あなたの相棒に任さなさい。彼の戦い方はもう知っているもの、負けることはないわ」
俺とカサンドラはうなずいて、ライムの巣へと向かう。そうして俺たちは再帰の戦いに向かうのであった。シュバインとの約束を果たしに向かうのだ。
ライムの巣に来た俺は、まるで守護者のように巣の入り口に仁王立ちをしているシュバイン声をかける。彼は俺たちを見るとニィと好戦的な笑みを浮かべた。
「傷は大丈夫か?」
『ああ、問題ないぜ。元リーダーの時も、急に動きが止まった瞬間にそこの雌が殺しちまったからな、不完全燃焼なんだよ。この時を待っていたぜ』
そういうと彼は好戦的な笑みを浮かべてカサンドラをみた。なるほど……オークロードを狩った時もいきなりギフトが解けて混乱している隙をカサンドラが持っていったのか。俺たちが会話をしているとライムがやってきた。
『ねえ、シオンこの戦いに意味ってあるの? 僕はシュバインにもカサンドラにも怪我をして欲しくないんだけど』
「あるさ、約束だからな。こいつはちゃんと約束を守ってくれたんだ、こちらも守らないとな……それにシュバインには強い奴と戦うことがなによりものお礼になるんだ。カサンドラには悪いが……」
「いいえ、構わないわ……だって、私もわくわくしているもの」
ライムの言葉に俺が答えていると、カサンドラが武器を構えて俺に向けて楽しそうに笑った。そしてカサンドラとシュバインは剣を構え向かい合う。
カサンドラの未来視と、炎剣の二つのスキルによる戦い方と、シュバインのギフト『ベルセルク』による身体能力の向上どちらが上かはわからない。おまけに二人は一度共闘をしている、ある程度戦い方などはわかっているだろう。最初とはちがう、お互いの手を知った上でどう対策をするかも大事になってくるのだ。
先に動いたのはシュバインだった。彼はすさまじい勢いで剣を振るうが、カサンドラはそれをかいくぐる。一瞬彼女が怪訝そうな顔をしたのは気のせいだっただろうか?
『はは、さすがだなぁ!! あんたがオークだったら迷わず求婚していたぜ!!』
「ごめん、何言ってるか全然わからないわ。でも私も楽しいわよ!!」
カサンドラはシュバインの攻撃を受け流しては、その隙をついて、軽い傷を負わせているが、致命的なダメージは与えられていない。膠着状態がしばらく続いたが、一瞬シュバインの腕の筋肉が膨張したようにみえ、次の瞬間にはカサンドラには切りかかっていた。
「残念ね……私にはそれは視えているわ」
『そう来る思ったよ!!』
その攻撃をカサンドラが躱し反撃をする。ここまでは以前と同じ、しかしそこから流れが変わる。シュバインの必殺の一撃を予言によって躱したカサンドラが反撃をしようとすると、シュバインはそのまま剣を捨て徒手空拳に切り替えたのだ。
『この前と同じだと思うなよ!!』
「へぇーおもしろいわね、じゃあ私もお礼をしなきゃね」
シュバインの拳はかわした彼女は距離を取ろうとするが、そうはさせまいとシュバインが迫る。思うように剣を振るえないカサンドラのピンチと思いきや彼女は笑みを浮かべた。
「炎脚」
カサンドラの足が爆発と共に、蹴り上げられる。そして爆破の加速力と相まってすさまじい威力となった彼女の足がシュバインの顎を捉えた。
「オークだって、脳がある以上振動には耐えられないでしょう。致命傷ではないからあなたのギフトも発動はしないわ。これでチェックメイトよ」
そうして勝負はついた。彼女は、何がおきたかわからず倒れたシュバインののど元に剣を突きつけて勝利を宣言した。それを見たシュバインは満足そうに笑った、
『俺の負けだ……あとは好きにしてくれ。最後にいい勝負ができた』
「シオン……あなたに通訳してほしいのだけど……こいつに何で右手の傷が完治していなかったのに勝負を挑んだか聞いてくれる? その傷がなければこの勝負わからなかったもの」
「え……ああ。シュバイン、カサンドラがなんで、怪我が治るのをまたなかったんだ?って」
だから彼女は途中顔をしかめていたのか? 俺は確かに傷をなおしたが神経までは完全に癒せていなかったのだろう。怪我をして日が浅いこともあり、オークの治癒能力をもってしても、完全には治っていなかったのだろう。
『簡単なことだ、俺にとってこの戦いはあの時の続きだ。俺の手は本来そこの雌に切られて失っていた。くっつけてもらえたのでもありがたいのに、完全に治るまでまってもらうなんて都合がよすぎるだろ』
「馬鹿ね……でも、そういう考え方は嫌いじゃないわよ」
俺がカサンドラに伝えると彼女は微笑みながら頷いた。俺にはよくわからなかったがカサンドラには納得のいく理由だったらしい。
『さあ俺を殺せよ、俺を放っておけばここに来る人間を襲うぞ。お前らも嫌だろう?』
「ねえ、シオン……」
『シオン、お願いがあるんだ』
カサンドラとライムが俺を見つめる。ああ、二人の言いたいことはわかっているよ。
「なあ、お前が人を襲わないって言うんだったら俺は……」
『それは無理だ。俺の生きがいは強敵と戦う事なんだよ。それに……自分の生きがいを我慢してまで生きたいとも思わないしな』
俺の言葉にシュバインは首をふった。ああ、でもこいつはわかっていないな。何もわかっていない。
「お前は強い奴と戦いたいんだよな? それは人間じゃなくてもいいんだろう?」
『ああ、まあな。でも、ここにくる強い奴なんて人間くらいだろう?』
「ここならそうだろうな。だったら、俺たちと来いよ。強い奴と戦いたいなら、俺たちはAクラスの冒険者を目指すんだ。いろんなところへ行くし、そこにはお前やカサンドラより強い敵がいるかもしれない」
『いいのか? 俺はオークだぞ』
「ああ、魔物だって言うならライムもいるし、お前は今回俺たちと戦ってくれたからな。ギルドの連中もお前に悪い印象はないよ」
『そうか……じゃあ、俺を外に連れて行ってくれないか?』
「ああ、行くぞ。シュバイン。ダンジョンの外は楽しいぞ」
そうして俺たちはシュバインとダンジョンの外に出ることにした。これからアンジェリーナさんに説明したり色々大変ではありそうだけど、俺は……俺達はこれが正しいと思ったんだ。ここから俺の新しい冒険者としての道がはじまるのであった。
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Bクラス
シオン
ギフト『万物の翻訳者』
いかなる生き物、魔物と意思疎通可能。
スキル
中級剣技 剣を使用したときのステータスアップ
中級魔術 火、水、風、土の魔術を使用可能
中級法術 傷の回復、身体能力の向上などの法術の使用可能
NEW
魔と人を繋ぎしもの 人でありながら魔のモノと心を通わせた人間にのみ目覚める。自分の所属するパーティー内に限るが、信頼を得た人や、魔物、魔族同士でもギフトがなくとも会話が可能になる。ただし、信頼をなくしたりした場合は声は聞こえなくなる。
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シュバイン
ギフト『ベルセルク』
傷を負えば追うほど身体能力があがる。
スキル
力溜め 力を体にためることによって次の攻撃速度及び破壊力が上昇
強者への嗅覚 視界に入った相手の強さがだいたいわかる。
強さへの渇望 何よりも強さを求めるものにのみ目覚める。鍛錬時のステータスアップ。及び強敵と戦った時にステータスアップ
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本日は二話更新予定です。二話目です。
これで一章は終了となります。
お付き合いいただきありがとうございます。追放物を書くのは初めての経験で色々と楽しかったです。
明日からは、ちょっと出番が少なかったアンジェリーナさんとシオンの出会いの話を投稿させていただきます。
その後、二章では、名前しか出てこなかった幼馴染のアスがメインの話を投稿させていただきます。よろしくお願いします。
ただ、今後は書き溜めが少なくなってきたので一日一回の投稿になりそうです。許してください。
一章の終了ということで感想や評価を頂けたら本当に嬉しいです。また、感想などで気になったことを聞いてくださった場合ネタバレにならない限りはお答えします。




