35.力をどう使うのか?
俺はカサンドラからもらった短剣で、オークのリーダーの喉を貫いた。今度こそ絶命しただろう。もちろん心が読めるというのは嘘だ。やつの本心を確かめるためのブラフである。俺は必死に生きているこいつに一瞬同情心を感じてしまった。弱いけれどがんばっていたこいつに……
「お疲れ様、こいつがリーダーだったのね……まさか自分に似た死体まで用意しているなんて思わなかったわ」
「ああ、あとはオークの事は放っておいてもいいだろう」
俺はギフト持ちのオークの耳を切り取った。これで報奨金がもらえるはずだ。今頃冒険者たちはオークたちの耳を切ったりして、報酬を数えていることだろう。このままオークの巣へ行けばオークを全滅させることはできるかもしれない、だがそれではダンジョンの生態系が乱れて、かえって予期せぬ魔物が上層にくるかもしれない。そもそもオーク自体は今回のようなイレギュラーがなければ脅威ではないのだ。あとはまた、別のオークのリーダーが現れて群れを統率するだろう。
「こいつも俺と同じように弱い力でなんとか生きようとしただけなんだよな……」
「まさか、あなたこいつに同情をしたの?」
「いや、そういうわけじゃないんだが……こいつも生きるために必死なだけだったんじゃないかなって思ってさ」
「あなた、こいつが自分に似ているとか思ってないわよね?」
「それは……」
俺の言葉に彼女はあきれたとばかりにため息をついた。もしもこいつがギフトに目覚めなければ、大した力も無いこいつはのたれ死んでいただろう。カサンドラと会えなかった俺と同様に……もしかしたら俺だってこいつのように……
「あのねぇ、あなたとこいつは全然違うわよ。だってこいつは他のオークを駒のように扱っていたじゃない。あなたは私を駒のようにすることもできた、でもあなたは私に相棒になってほしいって言ったもの。それに、そいつはギフトを自分のためだけに使っていたけれど、あなたはギフトで他人を助けてるじゃない。全然似てないわ」
「……」
「え、ごめんなさい、私なんか見当違いなこと言っちゃった? なんか言ってよ。恥ずかしいじゃない」
俺が彼女の言葉に絶句していると、なぜか彼女は顔を真っ赤にしてあたふたし始めた。違うよ、カサンドラ、俺はお前が俺の欲しかった言葉をくれたから驚いているんだ。
「いや、ありがとう、カサンドラは最高の相棒だなって思ってさ」
「何よそれ……じゃあ、行きましょうか。みんな帰り始めてるわよ」
そういう彼女はすねたように唇を尖らせていたが、俺は彼女に感謝をするのであった。
「終わったぞ」
『そうか……騙し討ちに失敗とは無様な最期だったな』
俺は隅っこに身を潜ませていたシュバインに声をかける。彼は俺を止めなかったけれど、やはり思うことはあるのだろう。その表情は何とも言えない顔をしている。
「お前……やっぱり……」
『ふん、俺たちは殺しあっているんだ恨んだりはしねえよ。兄貴は負けたんだ……敗者には文句を言う権利はない。でも……兄貴はさ、俺がまだ小さかった時に肉を分けてくれたんだ。自分だってろくに食ってないのにさ……あの時の肉は本当にうまかったんだよ。兄貴は力を得て変わってしまったけど、本当は心優しい奴だったんだ』
「そうか……お前の兄貴の死体はそこに置いてある。お前らの弔い方はわからないからあとは任せていいか」
『ああ……ありがとう。それと、約束は忘れるなよ』
「もちろんだ」
そうして俺たちはダンジョンを後にした。去り際に押し殺したような鳴き声が聞こえた気がしたが、それは意味のない泣き声だったのだろう。『翻訳』ギフトを持っている俺にも意味は聞き取れなかった。
緊急ミッション編終了です。次は後日談になります。
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