34.敗走
シオン視点ではないです。
ありえないことだった……俺は傷だらけの体を引きずって、住処への帰路を目指す。あの男はなんなのだろう? おとりである元リーダーには一切気を取られず俺をピンポイントで狙ってきた。おそらく、俺と同様に特殊な力を持つ人間なのかもしれない。そう思って、俺と似ているオークを囮にして、そいつが死んだタイミングで、ギフトを解いたせいで混乱はおきたが、無事逃げることができた。
まあいい、住処に戻って体制を立て直すのだ。幸い俺が生きていればまたオークの軍勢は強くなれる。頭の悪い馬鹿どもだが俺が導いてやれば、人間とも渡り合えることは証明された。
体制を立て直したらあの人間は生け捕りにして、たっぷり嬲ってやろう。ああ、あとはあの裏切り者の弟も同様だ。ちょっと力を持っているからって、調子に乗っていた弟だ。あいつにも力を使えばよかった。でもあいつは……あいつだけは俺の言う事を聞いてくれると思っていたのだ。なのに人間と親しくしていたという。頭にきて追放してやったが、まさか人間と組むとは予想外だった。これまで好き勝手な事をしていたのを、許してやった恩も忘れやがって……
「あぶねー、間に合った」
「シオンの読み通りね、あの混乱の中逃げ出しているなんて……」
「勘だよ。念のためシュバインに顔を確認してもらってよかった」
俺は壁の穴から出てきた人間たちを見て、絶句する。なんでこいつらがいるんだ、こいつは……この男は俺に魔術を放った男で、この女は元リーダーと対等に戦っていた女だ。そして何よりもなんで、俺はこの男の言葉がわかるんだ?
「知恵を持つオークがこんなに強敵だとは思わなかったが、今回こそ終わりだ。さっきとは違いお前を守るやつはいないし、俺たちは絶対にお前を逃がさない」
男が俺に話しかけてくる。ああ、だが、言葉が通じるのは逆にラッキーなのかもしれない。俺は昔を思い出す、冒険者に返り討ちにあって、他のオークが殺されかけて、俺が必死に命乞いをした時のことを……
あの時の冒険者は小柄な俺を子供だと思ったのか、必死に頭を擦り付けたら見逃したのだ。だから背後から襲って殺してやった。そして、その時に力に目覚めたのだ。死にかけた他のオークたちを助ける事によって俺は奴らを支配下に置く事が出来た。
屈辱的な出来事だったが、俺はそのおかげで人間の恐ろしさと甘さを知ることが出来た。しかも今回は言葉も通じるのだ。必死に命乞いをしよう。そして無事逃げたら体制を立て直すのだ。
『頼む、俺だって好きでやっていたわけじゃないんだよ。俺のような体の弱いオークは、こうして結果をださないと生きていけなかったんだ!! リーダーになんて本当はなりたくなかったんだ。でも、生き残るにはこうするしかなかったんだよ!!』
俺の言葉に人間が悲しそうな顔をした。その表情をみて俺は内心ほくそ笑む。ああ、本当に人間はバカだ。このまま行けばこいつは俺を見逃すだろう。涙を流しながら俺は内心ほくそ笑んだ。
「お前は俺と似ているのかもしれないな……お前も生きるのに必死だったんだよな、だからできる事をやってお前は成り上がったんだ。生きるために……生き残るために……もう、地上に出ないって誓えるか?」
ああ、もう一押しだ、俺は過去の冒険者の顔が思い浮かぶ。本当に人間は甘い。
『ああ、もちろんだ、俺はもう懲りたよ。ここで適当に生きると誓おう。なんだったらこれからは他のオークにも、人間を襲わないように命令をしてもいい』
「そうか……いい事を教えてやる。俺のギフトはお前の本心を教えてくれるんだよ」
『な……しねぇぇぇ』
俺は失策を理解する。ああ、こいつには俺の本心がばれているのだ。ならば殺すしかない。幸いこいつは雌よりも強くない。俺はしゃがんだ状態から男に襲い掛かって……
オークのリーダー視点でした。
ゴブリンスレイヤーみたいだなぁと自分でも思いながら書いたのは秘密です。
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