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202/203

新たな英雄

「これが今回の魔王の墓の下でおきた出来事です。モルモーンのおかげで、何とか再度封印をする事が出来ました。ですが、これはあくまで封印です。俺はこれから色々と魔王や魔族について調べて……巨人を倒す方法を見つけようと思います」

「なるほど……にわかには信じがたい話ですが……魔王の墓にはそんなものがあったのですね……」



 ここは冒険者ギルドの応接室である。俺は今回の件をアンジェリーナさんに報告していた。巨人の話なども彼女には一切隠さず話している。多分中途半端に隠したり、誤魔化したりすると、魔王の墓に眠っているものの存在が再び忘れられそうになってしまうと思うからだ。

 魔王はおそらく優しい魔族だったのだろう、昔はもっと巨人への恐怖もあったのだと思う。だから、彼はあくまで劇に残すという遠回しな方法で物語を残していたのだろう。自分たちの街の近くにあんなのが封印されていると思ったら呑気に暮らすなんて無理だろうからね。



「荒唐無稽な話ですが信じてももらえるでしょうか?」

「巨人に……モルモーンさんの正体……色々と信じがたいことばかりですね……でも、私は信じます。シオンさんがそんな嘘をつくようには思いませんから。それで、シオンさんはこれからどうしようとおもうんですか?」



 ちょっと心配そうな俺の言葉に彼女は微笑んで答えてくれる。よかった……信じてもらえそうだ。アンジェリーナさんに相談してよかったと思う。



「ありがとうございます。まずはヘルメスを探そうと思います。あいつは他にも色々と知っていそうですから……」

「そうですね……いつの間にか、この街からも姿を隠していましたし……魔王の墓の事もどこで知ったのかわかりませんし……」



 俺の言葉にアンジェリーナさんも頷いた。ヘルメスは魔王の墓に行く前から、モルモーンや巨人の事を知っていたようだし、魔王の事も詳しそうだった。

 もしかしたら記憶を取り戻したモルモーンだったら彼の事を知っていたかもしれない。それに彼の知識が巨人を倒す方法へ至るのに必要になると思う。



「あと、今回の活躍もあり、吟遊詩人さんがお話を聞きたがっています。ひょっとしたらシオンさん達の物語は今後英雄譚として語り継がれるかもしれませんよ。なんせこの街を二度もすくった英雄ですからね……」

「英雄だなんて……そんな……いえ、その時はモルモーンの事もちゃんと語り継いでくださいね」



 アンジェリーナさんの言葉を否定しようとして、俺は首を振る。だって、モルモーンに英雄になると誓ったのだ。だったらここで否定している場合ではないだろう・



「でも、俺達が英雄みたいに言われる何て夢見たいですね……」

「そんなことはないですよ、私はシオンさんならきっと英雄になるって信じてましたから……」

「アンジェリーナさん……」



 俺の言葉を彼女は否定した。ああ、そうだ。この人はずっと俺を見てくれていたのだ。だったら俺もいつまでも、卑下している場合ではない。むしろ英雄に恥じぬように頑張り続けるべきだろう。



「ありがとうございます。俺はあなたがいあたから冒険者を続けれたのかもしれません」

「シオンさん……」



 そうして俺達は見つめあう。その不思議な雰囲気を壊したのはノックの音だった。



「シオン……みんな待ってるよ……」

「うふふ、シオンさんはみんなの人気者ですね、いってらっしゃい」

「はい、ありがとうございます」



 そうして、俺は席をたって部屋を出る。アスがちょっと不満そうな顔をして待っていた。



「どうしたの? アス」

「また、シオン、デレデレしてた……」

「いや、別にしてないよ?」

「でも、胸は見てたでしょ?」

「それは本能だから……」



 いや、だって、ギルドの受付嬢の制服ってこうなんというか胸が協調されるんだよ、仕方なくない? などといったら余計好感度が下がりそうだったので黙る。

 そんな俺をアスはなぜか黙ってじーと見ている。



「どうしたの、アス?」

「ううん、シオンがモルモーンの事でへこんでいるかなって思っていたけど、思ったより元気でびっくりしたんだ……」

「ああ、彼女には誓ったからね、英雄になるってさ。それに彼女は死んだわけじゃないんだ。あいつが復活したときに俺の子孫とあったりとかするかもしれないしね。だから、完全な別れじゃないよ」

「シオンの子供……」



 そう言うとアスはなぜか自分のお腹をさすりながら顔を真っ赤にした。え、一体どうしたの? 俺は変な事言った? 



「シオンは何か大人になったね……より、かっこよくなった」

「そう、あんまり変わっていないと思うけど……だけど、変わったとしたら色々とあったからかな……」



 イアソンに追放されて、ライムやカサンドラを仲間になったり、と色々あったものだ。そして、アスとの冒険や、モルモーンとの出会い。なんだかんだ少しは強くなったし、自分にも自信を持てたような気がする。



「昔のシオンも好きだけど、今のシオンももっと好きだよ」

「ありがとう、俺もアスの事を好きだよ」

「むぅー、私の好きはシオンの好きとは違うよ……私は異性として……」

「はっはっはー!! シオン遅かったなぁ!! お前も俺の英雄譚を聞くといい!! 特殊な知能を持つゴブリンどもを倒したイアソンの英雄譚をなぁ!!」



 酒場の方へとつくと酔っ払っているようすのイアソンが大声でこちらに声をかけてきた。そのせいでアスが何を言おうとしたのか聞こえなかったんだけど……

 隣を見てみるとアスが不満そうに頬を膨らまして、イアソンを睨みつけている。



「アス今何て……」

「今はそういう雰囲気じゃなくなった……ちょっと調子にのっている馬鹿をこらしめてくる……」



 そういうと彼女はイアソンの方へと向かっていた。なにやら怖い事がおきそうになるが放っておいた方がよさそうである。

 そして、俺はいつもの場所へと向かう。



「みんな!! シュバインも怪我はいいのか?」

『ああ。おかげさまでな。今回は役に立たなくてわりぃ……』

『大丈夫だよ、僕もあんまり役に立っていなかったしね』



 シュバインを元気づけるようにライムが言った。こいつだって、吸収されてたいへんだったろうに……だから俺も便乗する。



「ああ、正直俺もほとんどなんにもできなかったしね」

「そんなことはないわ。シオンが元気づけてくれたから私は動けるようになったのよ。私ももっと強くならないと……」



 俺もライムと同じように自虐的に言ったらカサンドラに否定される。ああ、そうだよ、俺は自虐的になるのをやめるんだった。



「俺達は今後巨人について色々と情報を集めようと思う。みんなもそれでいいかな?」



 俺の言葉にみんながうなづく。



『そうとなれば特訓だな、さっさと傷を治すために寝てくるわ……その巣のオーク達を守ってくれてありがとうってみんなにも言っておいてくれ』

『じゃあ、僕も帰ろうかな。まだ、本調子じゃないんだよね』



 そう言うとライムはシュバインの肩に乗って去っていく。最後にウインクをしたのはどういう意味だろう。そうして、俺達は二人っきりになる。

 彼女はコップに入ったビールに口をつける。



「お疲れ様、アンジェリーナさんはちゃんと話を聞いてくれたかしら?」

「うん、巨人の事も上に報告もしてくれるってさ。あとは俺達の英雄譚が歌われるかもしれないって」

「そう、なんか不思議な気持ちね。私達が英雄譚に歌われるなんて……でも、これでモルモーンの事もみんなに覚えてもらえるわね」



 俺の言葉にカサンドラは嬉しそうに笑う。そして彼女はモルモーンの事を思い出しているのか、ビールを飲みながら窓の外を眺める。

 短い間だったけれど、カサンドラとモルモーンは仲良くなっていたんだよね。それこそ、異性の俺とは違う距離感で……だからこそ、つい俺ははアンジェリーナさんにも言えなかった弱音を吐いてしまう。



「そうだね……、でも、俺がもっとつよければ変わったかな……」

「シオン……」



 思わず出た顔を下げた俺の顎をくいとカサンドラがあげさせた。彼女の綺麗な瞳が俺をまっすぐに見つめている。



「シオンは強いわよ。あの時だって私は心が折れかかっていたのに、あなたは立ち上がって、イアペトスと戦おうとしたわ。震えているだけの私と違ってね……」

「でも、カサンドラがあいつの攻撃を受けてくれたからモルモーンの援護が間に合ったんだよ」

「それは違うわ。あなたが立ち上がってくれたから私は頑張れたのよ、やっぱりあなたは私の救世主だったわ」

「違うよ、俺はカサンドラの相棒だよ。俺とカサンドラ、それにモルモーンやライムがいたから何とかイアペトスを封印で来たんだ」

「ふふふ、そうね、私たちは相棒ですものね。だから私ももっと強くならないと……」



 そう言うと彼女は力強くうなづいた。確かに巨人などに関わろうとすれば俺達はより危険な冒険を可能性が増えるだろう。俺もこのままじゃいけないな……と思いながらちょっと話題を変える。このままだとカサンドラが特訓に行くとか言いそうだしね



「でも、俺達が英雄譚になるなんてすごいよね」

「ふふ、そうね、まるで夢みたい。一人の時じゃ想像もつかなかったわ。そういえば英雄譚と言えば主人公にはヒロインがつきものよね、この場合誰になるのかしら」

「え、やっぱり最初に仲間になって、ずっと一緒にいるカサンドラじゃない」

「私が……ヒロイン……」



 何気なく口にするとカサンドラが口をパクパクとした後に顔を真っ赤にする。どうしたんだろうって思うと、俺は自分の言ったことの意味を理解して彼女と同様に顔が熱くなるのを自覚する。

 何か告白しているみたいになってるじゃん!!



「いや、これは……」

「私は別に……シオンのヒロインになってもいいわよ」

「え? それって……」



 どういう意味って聞き返そうとすると彼女の視線が俺をまっすぐに射抜く。美しい顔を赤く染まっているのはお酒のせいかはたまた違う理由か……



「おい、シオン!! カサンドラとリベンジをさせろ!! こいつらが俺よりカサンドラの方が強いとか言いやがる!!」



 俺達に会った不思議な雰囲気はイアソンのその言葉によって消え去った。カサンドラはあきらかにむっとしかた感じで立ち上がった。



「せっかくいい雰囲気だったのに……いいわよ、負け犬さん、またほえずらをかかせてあげるわ」

「ふん、俺があの時と同じだと思うなよ!!」

「シオンは見てなさい、あなたの相棒が……ヒロインが活躍する姿をね」

「え……」



 カサンドラはそういうと俺に向けてウインクをしてイアソンと模擬戦をはじめてしまった。俺の困惑は冒険者ギルドの連中の歓声にかき消される。

 でも、これってフラグが立っていることだよね……



「頑張れーカサンドラ!!」



 俺は彼女の名前を大声でよぶのだった。


お久しぶりです。


いよいよ、明日15日にこの作品のコミカライズが、20日にこの作品の三巻が発売されます。


よかったら購入していただけると嬉しいです。


コミカライズの方にはライムとシオンが初めて会った時の話。

三巻にはモルモーンの過去の話が載っているのでぜひ!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 町どころか世界がヤバイことになりかけた事態なのに、ギルドマスターとかそれに準ずる人は居ないのかな? さすがに受付嬢レベルで応対する話じゃないと思う。 町長や領主の耳に届くのは時間が掛か…
[良い点] ついにカサンドラがヒロイン力でアピールしたぞー!!! [一言] モルモーンもといヘカテーもまた登場してほしいねぇ… あと誤字にも送ったんですけど、シュバインとライムが離れるところで作者さん…
[一言] シオン君のヒロインレース白熱注意。
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