69.
「くっそ、本来アトラスは頭はまわらないんだよ……なんでこんな作戦を……プロメテウスの入れ知恵か?」
「ダメ元だけど!! 火よ!!」
『ふはははは、そんなものは無駄だ。私の元にすら到達しない』
俺が杖を掲げて唱えた言葉と共に火の球が生まれて巨大スライムであるアトラスを打ち抜くが表面を少し焼くだけだった。多少体積は減ったかもしれないが誤差レベルである。
俺にメディアのような魔術が使えれば……と無力さを悔いたくなるがそんな場合ではない。ライムも助けなきゃいれないんだ。俺は俺のやり方でやれることをするしかないのだ。
『……』
その時何かが聞こえたような気がする。些細だけど……確かに何かの声が聞こえたのだ。何の声だ……?
俺は触手を切り払いながらも耳をすませる。
『うう……吸収される……』
『ああ、意識が遠くなる……ああ、でもこれ気持ちいい。癖になるぅぅぅ』
『せめてあの方だけは逃がさねば……』
それはアトラスの体内から様々な数の声が聞こえてきたのだった。俺が表面を焼いたことによって、消化途中のスライム達の声が聞こえてきたようだった。
他の魔物達は息絶えていたようだが、スライム達は同じ種族の体内だからかまだ生きているようだ。だったらライムも生きているのか? いや、生きているに決まっている!!
「お前ら、まだ意識はあるのか? だったらライムを……俺といつも一緒にいたスライムを知らないか?」
「ふぅん、どうやらシオン君は何か策があるようだね、だったら!!」
モルモーンはスライムに話しかけた俺を見てにやりとわらってから、目立つように影を触手として振りまわす。触手VS触手の戦いを傍から見ながら俺はスライム達に話しかける。
『ああ、君は……いつもあのお方と仲良くしていた人間……』
『君と話していた時はあのお方はいつも楽しそうだった……』
「あのお方? ライムは一体なんなんだ?」
『あのお方は……我々の王であるスライムの知恵を司る分裂体です……かつて、我々を身をていしてくださった偉大なるスライムの一部なのです』
「なっ……」
俺はスライム達の言葉に驚愕の声を漏らす。要はかつて暴れたアトラスを捕えた暴食の一部なのだろう。だけど、知恵を司るって……だから、俺と同じように考えたりできたのだろう。他のスライムはあそこまでスムーズにコミュニケーションはできないし……
そして、ライムはこういう風に敬わられるのが嫌だったのだろう。だから群れから逃れて俺と出会ったのだ。
「だったら、その偉大なスライム様を助けるために力を貸してくれ。あの水晶までの道を何とか空けられないか?」
『大丈夫ですよ』
『あの方の仲間なら我々の仲間です』
『なんだ? うおおおおお。体がぁぁぁぁぁ』
そう言うとアトラスの体が波打って、まるで穴でも空くかのように左右に左右に道を道開く。ところがあと一歩というころで止まってしまった。
「モルモーン!! あと一歩は俺の魔術で道を作る!!」
「さすがだねぇ、シオン!!」
だけど、これくらいの薄さなら貫けると、俺が魔術を放とうとした瞬間だった。
『いいのか? そいつが水晶に触れればそいつの人格は消えるぞ』
「え?」
何を馬鹿な……だが、その一言で俺は動きを止めてしまい、ついモルモーンの顔を見る。彼女はしまったとばかりに苦い顔をしており、アトラスのその一言が本当だとわかってしまった。
「シオン!! 早く!!」
『もう、遅い!! スライムごときが生意気な! さっさと消化してやる』
アトラスの言葉と共にせっかくあいた穴が閉じていき、元のように埋まっていく。だけどさ……モルモーンの人格が消えるってどういうことなんだ?
俺は頭の中を整理するためにもいったんアトラスから距離を置く。
「シオン、なんで撃たなかったんだい?」
「ごめんなさい……、こっちはもう限界みたい……」
モルモーンが戻ってくると同時に体のいたるところに擦り傷を負ったカサンドラが肩で息をしながらこっちにとびこむようにやってきた。
「モルモーン……さっきアトラスが言ったことはどういうことだ? あの水晶に触れたら存在が消えるだって?」
「はっ、モルモーンが消える? いったい何の話を……」
「……」
後ろにはプロメテウス、前方にはアトラスという絶体絶命な状況でありながらも俺は彼女に問わずにはいれなかったのだ。
だいぶ佳境になってきました。




