63.ゴブリンの巣
「ここか」
『ああ、俺達の事はどうなってもいい!! だから、ここにいる非戦闘員たちの命だけは助けてくれ』
「ああ、もちろんだよ、俺達としても生態系まで崩れるのは望んでいない。その代わりクレイが剣を手にした時のことを詳しく教えてくれないか?」
俺は必死な表情で懇願するゴブリンにうなづく。彼らの元にやってきたのはクレイが剣を手に入れた経緯を知ることと、そして、ゴブリン達が本当に約束を守りそうになるかを見極めるためだ。
俺達が最初に入ったすでに崩壊している入口とは別に小さい入口があったようだ。彼らはここから密かに出て西側の冒険者たちを倒したのだろう。
「これは確かにぱっと見はわからないわね……」
「うん……山賊の隠れ家みたいだね……」
穴を隠すための木の枝を払いながらゴブリンの案内の元ゴブリンの巣へと入っていく。しばらく歩くとモルモーンと潜入した時に見た砦のような住処が目に入る。
高台で見張りをしていたやたらと小柄なゴブリンがこちら見つけて弓を構えたが、俺達が捕虜としているゴブリンを見るとすぐにおろして悲鳴にも近い叫び声をあげた。
『ゴブールさん!? なんでこんなことに……まさか負けたのですか?』
『ああ、そうだ……我々の敗北だ。彼らはクレイの事で俺達に聞きたいことがあるそうだ……クレイが剣を抜いた見つけた時のところまで案内をする。人間達が巣に入るのを皆に伝えてくれ……』
ゴブールというらしい捕虜にしたゴブリンの言葉に、小柄なゴブリンが慌てて走って里の中へと入っていった。
「さっきのゴブリンはずいぶん小さいんだね」
『ああ、子供だからな……いったろう、我々ゴブリンの巣には今は非戦闘員の女子供しかいないと。さっきの子もようやく弓をうてるようになったばかりにすぎない。まともには戦えんよ』
「本当にこんなしっかりした壁を作るなんて……」
「すごい……このゴブリンを解剖したら、頭の良くなる薬が出来そう」
『ひぃぃぃ!! 私を殺してもいいとったがこの女にだけはやらせないでくれ!!』
アスの探求心に満ちた目に自分の命の危機を感じ取ったのか、ゴブールが悲鳴を上げながら俺の背に隠れる。先ほどまでのどこか威厳のある雰囲気はどこにいったのだろうか?
『その……皆には報告をしてきました。お入りください』
そんな事を思っていると先ほどの小柄なゴブリンが戻ってきた。その目にはこちらへの憎悪のようなものを感じる。まあ、あっちからしたら俺達は侵略者みたいなものだから仕方ないよね。
ゴブリン達の巣へと入るとそこはまばらに石でできた家があったり、ベッド代わりに草が敷かれている場所、そして、火をおこしたあとらしきものがある。
そして、恐怖半分、憎しみ半分で俺達を見つめているゴブリン達がいる。その大半は小柄だったり、ふくよかな胸をしているから子供や女性なのだろう。
「えい!!」
「いって!! まって、アスなんで今足を踏んだの?」
「シオンが厭らしい目でゴブリンを見てたから……」
「うわぁ……」
「流石の俺もゴブリンに興奮はしないんだけど!? てか、カサンドラも引いた顔しないでよ」
そんな事を話していると、小柄なゴブリンが何かを目でゴブールに合図をしていたのに気づく。しかし、それに対してゴブールは不快そうな顔をして、首を小さく横にふった。
おそらく、小柄なゴブリンが奇襲を提案して、それをゴブールが拒否って感じかな? もちろん奇襲されてもいいようにゴブ質はとってあるし、カサンドラのギフトなら奇襲を察知できる、万が一ケガをしてもアスがすぐ治療してくれるから問題はないんだけどね。少なくともゴブールは信用できそうだ。
カサンドラも気づいたのか、俺と目があうと微笑んで頷いてくれた。
『ここです、この中でクレイ様はあの剣を見つけたんです』
そこはなんの変哲もない穴である。風化してたまたま空いたのだろうか……そう思って覗くと心臓を鷲掴みにされるかのような不気味な感覚に襲われた。それはちょうどモルモーンの最初にあった魔王の墓で巨人たちを見た時と同様で……
「あれ……穴の先にはなにがあるのかな……?」
アスの言葉が通じたわけではないだろうが、指をさしていたことから通じたのだろう。ゴブールが小柄なゴブリンに聞く。
『あんな穴はあったか? 誰か探索をしていないのか?』
『え? 私も初耳です。ただ、あそこは先ほどクレイ様が帰ってきた時に入っていったので、ご自分で掘ったのかもしれません』
「『はぁぁぁぁ!?』」
俺とゴブールの叫び声が重なった。クレイっていうかプロメテウスはここに帰ってきてたのかよぉぉぉ




