61.アルゴーノーツ
森の中に剣と剣がぶつかり合う音や魔術による爆発の音が鳴り響く。ゴブリン達の罠によって冒険者の数は減っていたが、メディアの魔術によって、その不利を帳消しにしていた。数ではわずかにゴブリンが多いくらいだろうか? それでも冒険者が攻めきれないのには理由があった。
それぞれの群れを率いていたゴブリンの亜種たちの存在である。彼らは元々強力な力を持っていた上に、プロメテウスの力によって、強力な知識を得ていたこともあり、Bランクの冒険者でも苦戦するほどの存在になっていたのだ。
「くそが、あいつらの相手は俺達がやる!! お前らは引いていろ!!」
俺は巨大な大剣を振り回して、冒険者達を吹き飛ばしているゴブリンチャンピオンとその背後で、魔術を撃ってくるゴブリンマジシャンを前にして舌打ちをした。
強力な力を持つゴブリンの亜種同士はプライドが高いのか、普段はこんな風に手を組んだりはしないのだが、どうやら手を組むほどの知恵があるようだ。しかし、この戦い方は不愉快ながら親近感がわくな。
「イアソンとメディアみたいだね……」
「俺はもっとイケメンだし、メディアはもっと綺麗だろうが!! アス、サポートを頼む。テセウスは俺についてこい。アタランテは……ここならばゴブリンマジシャンくらいならやれるな?」
「わかった……医神よ」
「すごい、体が軽くなった。ありがとうございます。アスさん!!」
「はい、この森なら私の力を十分に発揮できます!!」
俺の言葉に皆が頷く。これがこの前の緊急ミッションでできていればな……と思うが、あの時では無理だっただろう。まず、アスが協力をしないし、俺自体も焦っていた……もっと何も考えずにつっ込んでいただろう。
「何て握力だよ、クソが!!」
「剣を弾くなんて!?」
ゴブリンチャンピオンの一撃を俺は上級剣術を使って何とか受け流す。ミスリルの剣と相手の大剣がぶつかり合って火花を散らす。その隙にテセウスが斬りかかったが、筋肉の壁によって弾かれる。
そして、背後でゴブリンマジシャンが嫌らしく笑ったと思うと、「ゴブ!!」という言葉と共に火の矢が飛んでくる。
「医神よ」
だがその魔術が俺達に届くことはない。アスの法術によって生まれたシールドが俺達の観を守ってくれる。
「フゴーーー!!」
背後から大きな音を立てて、カリュドーンが明後日の方向へと駆け出していく。その背中にメディアを抱えながら……
「ゴブゥゥゥ!!」
目の前のゴブリン達はメディアの大規模魔術を警戒しているのだろう。俺達をなんとか倒してカリュドーンを追おうとしていく。
「それでいい!! 中途半端に知恵を得たことを悔いるがいい!!」
「イアソン調子に乗らないの……」
「まあまあ、アスさん、今回はいいじゃないですか」
俺達は適度に距離を取りながらカリュドーンを追っているゴブリン達の後ろをつける。そして、しばらく、進むとメディアを抱えたカリュドーンとアタランテが弓を構えながら立っていた。
今の彼女はいつものようにどこか自信なさげに立っているアタランテではなかった。氷のように静かな目をして、弓を放って彼女は言った。
「あなたたちゴブリンは道具を手にしてどれくらいですか? 私達狩人は……何百年とその技術を磨いてきました……あなたたちとは積み重ねたものが違うんです」
彼女の放った矢はゴブリン達ではなくその後ろの木を射抜き、やつらが外したなと厭らしい笑みを浮かべた瞬間に轟音と共に、木の上に仕掛けてあった桶からねばねばの液体が降り注ぐ。
「うふふ、どうですか? アスさん特製のダークスパイダーの毒液と粘液を調合した毒は? これで自由に身動きはできないでしょう?」
「「ゴブゥゥゥ」」
突如と降り注ぐ毒液に目と口をやられた二匹のゴブリンがふらふらとよろめくと再び悲鳴を上げる。地面に仕掛けられた金属の刃が彼らの足に刺さったのだ。普段なら引っかからないような罠も、目が毒液によって封じられている今ならば話は別だ。
アタランテ……これが彼女の狩人のとしての真骨頂である。伊達にソロの冒険者で名をあげていたわけではない。森での戦いならば彼女は一級品である。
「ゴブゥゥ!!」
「え? 嘘ですよね、まだこっちに向かうだけ気力が!?」
「締まらん女だな!! テセウス」
「わかっています!! そんな攻撃当たるかよ!!」
アスの法術で身体能力が上がったテセウスの盾がゴブリンチャンピオンの一撃を受け流す。そしてそのまま、無防備な瞼ごと相手の目を貫いた。
「神よ、浄化の炎を!!」
『ぐぁぁァァァ」
聖騎士であるテセウスの中級法術が浄化の炎が剣を伝ってゴブリンチャンピオンの目から体内を焼き払った。筋肉の壁があっても眼球の内部から魔術が全身に伝われば意味がない。
そして、俺は口を塞がれて呪文を使えないゴブリンウィザードの首をはねる。
「ふん、所詮サル知恵ならぬ、ゴブリン知恵だな。確かに個々の力はおまえらのほうが強いかもしれんが、俺達人間は何百年も剣術や戦い方を研究して強くなったんだよ。昨日今日に知恵を得ただけのお前らに負けるものかよ!!」
「イアソンはろくに戦ってないくせに……今回のMVPは間違いなくアタランテだよ……さっきの決め台詞もう一度言って……かっこよかった……狩人は何百年ってやつ……」
「うわぁぁぁ、ついかっこつけちゃっただけなんですよぉぉぉ。忘れてください」
「でも、これで安心ですね……あとはシオンさん達のサポートに行きましょう」
リーダーを失ったゴブリンに負けるほど他の冒険者たちも弱くはないだろう。そうして俺達はシオンの魔術がはなったれた方へと向かうのだった。
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