59.クレイとの戦い
俺は剣に手をかけてこのままどうしようか悩む。ローブで姿を消している間は魔術こそ使えないものの相手の手首を切って剣を奪えば、このままあの剣をうばうことができるのではないだろうか?
相手はゴブリンだ。あの再生力だって剣から離れれば……彼の無防備な背中を視て俺は生唾を飲んでいると、話し声が聞こえる。
『なあ、プロメテウスよ。本当に俺はここにいていいのか? みんなのサポートをした方がいいんじゃないのか?』
『何を言っている。お前が俺を奪われればゴブリン達はそれこそ終わりだぞ。他の里のゴブリンも強いのだろう? ならばお前らがいなくても勝てるはずだ。お前たちは人間と同じ叡智という武器を手に入れたのだぞ。それとも、お前らゴブリンは人間よりも身体能力で劣っているのか?』
『そんなはずがないだろう、俺達に足りなかったのは知恵や知識だ!! それをお前に授かった以上俺達が負けるはずはない!!』
『ならば、俺に従うのだ。お前は大事な体なのだからな』
クレイは俺に気づかずに剣と会話をしている。『呪いの武具』も魔物だからか翻訳できるようだ。そして、大事な事を聞いた。あの剣は……プロメテウスはクレイが倒れることを恐れているというか、自分が手元から離れる事を恐れているようだ。
ならば、俺はさっとその場から離れる。あのまま自分で攻めようかと悩んだが、カサンドラとアスの言葉を思い出したのだ。それに……俺が万が一ここで失敗したら、誰もクレイの居場所がわからなくなるからね。
「火よ!!」
俺の言葉と同時に火の球が空に放たれて、そのまま爆散する。そして、しばらくするとすさまじい早さでこちらにやってくる赤髪の少女がいた。
「シオン待たせたわね!!」
「いや、全然待ってないけど? てか、速すぎない?」
「うふふ、相手のボスとのバトルよ。たぎるもの!! それに……」
俺の合図を待って戦場から少し離れていたカサンドラはやる気満々といった顔で俺の元へとやってきた。アスに身体能力アップの法術をかけてもらっているのもあるがこっちに来るのはやすぎない? ずっと空を警戒していないとこの速さで来れないと思うんだけど……
「シオンが心配だったのよ。わるい?」
「悪くないです……ありがとう」
ちょっと恥ずかしそうに言うカサンドラを見て俺もちょっと照れ臭くなる。くっそ可愛いな!! しかし、そんなことを言っている場合ではない。
「カサンドラ、あの高台に例のゴブリンがいる。行くぞ!!」
「任せなさい!! この戦いを終わらせましょう。それに魔王が戦った『呪い武具』の持ち主か……たぎるわね!!」
俺が高台を指さすと、彼女はさきほどまでの可愛らしい顔とは一変して好戦的な笑みを浮かべて、走る出す。俺は姿を消して彼女を必死に追う。
マジでくそはやすぎるんだけど!!
『く、どうやってここが!? やはり先ほどの魔術は何らかの合図か!?』
「喰らいなさい!! 炎脚!!」
ゴブリンと対峙するカサンドラは彼に襲い掛かると思わせてそのままスキルを使って、足に爆風を放ち、飛び上がって木に飛び乗ったと思うと、その木を蹴って、ゴブリンに対して剣を振り落とした。
「これは初めて見る技でしょう!?」
『ちぃぃぃぃ』
予想外の奇襲にクレイが体制を崩してそのままカサンドラが剣を振るう。おそらくギフトを使っているのだろう。彼女の一撃一撃がクレイに先手を打ち追い詰めていく。
『これならばどうだぁぁぁ』
「それも視えているわ」
追い詰められた彼はカサンドラの突きに対して左腕を差し出して、文字通り体を張って動きを止めとする。カサンドラは躊躇なく刀から手を離すとクレイの胸に蹴りをかまして体勢を完全に崩させる。
「それを待っていたんだ!!」
『なっ……』
俺は体制をくずして無防備になったクレイの利き腕に剣を振り下ろす。悲鳴と共に血しぶきが上がって、透明な俺を返り血が染めた、
そして、俺がそのまま剣を拾おうとした瞬間だった
「そのまま剣を取って!!」
『剣を取ったらだめ!!』
カサンドラの声が二重になって聞こえた。これってもしかして、彼女のギフトが……
この作品『追放された俺が外れギフト『翻訳』で最強パーティー無双!~魔物や魔族と話せる能力を駆使して成り上がる~』の二巻が発売中です。
ゴルゴーンの里でのお話になっております。書き下ろしでシオンとアスの過去編もありますのでよんでくださると嬉しいです。
二巻の表紙は活動報告にアップしているので見ていただけると嬉しいです。
最初の一週間で、続刊が決まるので、もし、購入を考えている方がいらしたら早めに購入していただけると嬉しいです




