56.先遣隊
イアソン視点です。
「イアソンさん、これなら楽勝ですね」
俺の横を歩いているテセウスが先ほどまで対峙ししていたゴブリンの亡骸から剣を引き抜いた。それを確認して制圧したという合図ののろしアタランテが上げる。
どこか得意げな様子のテセウスを見つめながら、確かに通常のゴブリンに比べれば強いが、彼の言うようにそこまでの厄介さは感じられなかったなと思う。
俺自身剣を持って戦ったが、確かに剣術を覚えているようだが、初級剣術に過ぎない。上級剣術をつかれる俺の相手ではなかったと言えよう。これだったらまだオークの方が厄介だった。
「それは違いますよ、テセウス、イアソン様がすごいのです。イアソン様の完璧な指示によって、ゴブリン達を一層できたのです」
「ふん、当たり前の事を言うなよ、俺の完璧な指示でゴブリンごときに遅れをとるはずがないだろう」
「何を言っているの……油断するなってシオンに言われたよね……それに……苦戦するほどの相手じゃなかったでしょ……」
俺を褒めたたえるメディアの言葉に、気を良くしていたらすかさずアスに突込みをいれられた。くそが、わかっているっていうのに……
俺だって痛い目は見たし、もう敵を見くびる事はしない。それにシオンの言葉を信用するくらいの精神的な余裕はできている。
「ですが、シオンの報告が虚偽だった可能性はありませんか? 彼が奇妙な武器を持ったゴブリンを逃しその言い訳に……」
「メディア……私……怒るよ……そんなすぐばれる嘘をついてシオンにメリットはないでしょ」
「ひぃっ!!」
メディアの言葉にアスが切れて、それを見たテセウスが悲鳴を上げた。全く持って騒がしい……だけど、こうしてくだらない事で騒げるくらいの余裕はできてきたのだろう。少なくともオークの時はできていなかった。なんだかんだヒーラーであるアスの存在は大きいし、俺達も焦ってはいないという事が大きい。
そして、俺は一人険しい顔をしているアタランテに声をかける。
「お前はどう思う? このまますんなりいくと思うか?」
「え、私ですか? イアソンさんが人の話を聞くなんて珍しい……」
思っていても口にするなよ……心のなかで突っ込みながらアスとは別の方向でコミュ症な彼女の言葉を待つ。狩人である彼女の経験やスキルは森の中ではとても役に立つ。斥候の意見は大事なのだ。
「森が少し騒がしいですね……何かがおきていることは間違いないです。やはり、警戒はしたほうが良さそうです……これからなにかがおきるかもしれません」
アタランテは眉を顰めながらそう言った。森での事は狩人である彼女に聞いた方が良いだろうと思ったのだが正解の様だ。経験はバカにならないからな。それに嫌な予感というのは得てして当たるものだ。このまますんなりは行かないのだろう。
「お前ら油断はするなよ!! 警戒をしながら指定の位置まで進むぞ!!」
それぞれが俺の言葉に返事をして前へと進む。幸か不幸かゴブリン達に出会う事はなかった。だが、その先の集合場所で問題がおきているようだ。やたらと騒がしい声が聞こえる。
「所詮ゴブリンなんだよ、警戒しすぎだっての!! 西のやつらはまだきていないが今のうちに攻めようぜ!! ゴブリンがもっているっている剣は業物なんだろ。売れば大金になるだろ。ノロノロしていると手柄を奪われちまうぞ」
「待ってください、不意打ちをされて挟み撃ちになったらまずいから、森を完全に制圧し、全員が合流してから突っ込む予定でしょう?」
「はっ、もう、のろしはあがったんだ。待っていられるかよ」
先走って進もうとする冒険者の言葉に何人かが「そうだ、そうだー!!」と同調する。ゴブリン相手に警戒をしたもののあっさりと撃退できすぎたせいか、全員の集まるのを待たずにつっこもうとしているらしい。
どうしたものかと悩んでいると、周りを扇動している冒険者と目が合う。そして、彼はにやりと笑って言った。
「なあ、イアソン。お前も汚名を返上したいだろ。シオンが来る前にさっさとゴブリンをぶっ倒しちまおうぜ。お前がいてくれれば俺も安心だからよ」
「ふん、確かにそれも一理あるな……」
「イアソン……」
俺の言葉に不満そうな顔をしているのはアスだけだ。他の三人は俺に従うという事だろう。正直今のアルゴーノーツは昔に比べてその名は失墜している。ここで武器持ちのゴブリンを倒せば、こいつのいう通り汚名返上できるだろう……と以前なら思っていただろうな。
「お前は前回の緊急ミッションには出ていなかったな? 俺達は前回自分たちの力を過信して、つっ込んで、やられたんだ。前回と同じミスをするわけつもりはない。他の連中の合流を待つべきだろう」
「はっ、所詮負け犬か!! いいぜ、チキンなお前らの代わりに俺達が倒してやるよ。ゴブリンごときあいてじゃないっての。いくぜ。お前ら!!」
「イアソン様……どいてください、殺しましょう。こんなやつらいなくても問題はありません。そして、私達だけでゴブリンを倒し、イアソン様の素晴らしさを皆に見せつけるのです」
「ひぃぃぃ、この人本気だぁぁぁ」
冒険者の挑発に氷の様に冷たい目で魔術を唱えようとするメディアにテセウスが情けない悲鳴を上げる。
俺は溜息をつきながらそんなメディアの肩を抑えて声をかける。
「落ち着け、私のメディア。こんなくだらないとでお前を危険な目には合わせたくないんだ。それに……あいつらが自分の意志で斥候をしてくれるんだ。都合がいいだろう。ほどよく攻めたタイミングで乱入して、助けれてやれば俺の名誉も回復するさ」
「私のメディアですか、うふふ……イアソン様……わかりました」
「メディア……ちょろすぎる……将来悪い男に騙されないか不安……あ、もう騙されているね……」
「うわぁ、私今男性不信になりました。顔がいいけどうさんくさい笑みをうかべる男性には気を付けます!!」
「アスとアタランテうるさいぞ!! それよりも、俺達は周りを警戒しつついつでも突入できる準備をするぞ!!」
俺の言葉に他の冒険者達もうなづいた。あいつについていったのは10人前後か……思ったよりも残ったなと思っていると、一人だけやたらと震えている冒険者がいる事に気づく。
「どうしたんだ、お前……確かCランクだったろ、ゴブリン相手にそんなにビビるなんて珍しいな」
「ああ……イアソンか……俺はあいつらと実際戦ったんだよ。あいつらの恐ろしさはこんなもんじゃない……多分これもあいつらの作戦だ……そう言ったのに……」
そう言って、彼は冒険者達が入っていったゴブリンの巣を見つめながら言った。そういえば、シオンに助けられたゴブリンに襲われたパーティーで一人だけ生存者がいたらしい。おそらくそれがこいつなのだろう。
「なあ、お前が戦ったゴブリンはどんな感じ……」
その言葉と共に轟音が響いて、ゴブリンの巣が崩れていく。火薬か魔術かわからんが、洞窟内で爆発がおきたらしい。俺達も入っていたらと思うとぞっとする……呆然としていると、西の方からすさまじい足音と共に矢や魔術が放たれる。
まさか、あいつら、西の冒険者を倒して、狼煙をあげたのか? ゴブリンのくせに?
この作品『追放された俺が外れギフト『翻訳』で最強パーティー無双!~魔物や魔族と話せる能力を駆使して成り上がる~』の二巻が発売中です。
ゴルゴーンの里でのお話になっております。書き下ろしでシオンとアスの過去編もありますのでよんでくださると嬉しいです。
二巻の表紙は活動報告にアップしているので見ていただけると嬉しいです。
最初の一週間で、続刊が決まるので、もし、購入を考えている方がいらしたら早めに購入していただけると嬉しいです




