51.和解
「はい、シオン、ハーブティーだよ。リラックス効果があるからね……」
「ありがとう、アス」
「いや、ちょっと待った。お前らナチュラルに会話しているけど、なんであたりまえの様に一緒に暮らしてるんだよ。というかあの壁の穴はなんだ? ここ宿屋だよな?」
部屋に入った俺とアスがいつものようにやり取りをしていると、正面に座っているイアソンが信じられないとばかりに、壁の穴を指さして叫んだ。
こんな夜中に近所迷惑なんだけどな……
「うるさいな……はい、イアソンには下水の水だよ……味はしなし、多分健康に悪いけど飲んでね……」
「俺の扱いぃぃぃぃ!! いや、絶対お腹を壊すだろうが、こんなもの飲んだら!!」
ドンっと雑に置かれたコップに入れられた透明な液体が揺れる。仲が悪いのかなと思う人もいるかもしれない。でも、二人は……いや……俺達はいつもこんな風だったのだ。こうしていると昔に戻ったようで少し懐かしい。
けど、それじゃあ、話が進まないよね。
「それで、イアソンはこれまでどこで何をやっていたんだ?」
「ああ、ちょっとな……自分を見つめなおしていたんだ……それより、お前は順調そうだな。テセウスとアタランテから聞いたぞ。この街一の冒険者パーティーって呼ばれているんだってな」
「ああ、まあね……」
それきり、俺達の間を沈黙が支配する。そういう彼の表情は嫉妬も混じっているけれど、俺への素直の賞賛の色もあった。だからだろう、この沈黙も不思議と気まずいものではなかった。
そう、例えるならば二人で再びお互いの距離を確かめているそんな感じである。
「今回のゴブリン達に関してシオンはどう思う? 直接戦ったお前の意見を聞きたい」
「ああ、今回の相手はおそらく、この前のオークより厄介だと思う。リーダー格だけでなく、ゴブリン全体がみんなある程度の知能があると思った方が良い」
「なるほどな……数はどれくらいだろうな?」
「うーん、ゴブリン達の住居を見た感じだと30匹くらいかな。あとはゴブリンの亜種がどれくらいいるかだね。あとは……他の巣のゴブリン達とも協力をしている可能性もあるし……」
そんな風に俺達はかつてのようにクエストについて話す。結局イアソンが何をしにきたかいまいちわからないが、不思議と自分の中で、わだかまりが減っていくのを感じた。
それは単に追放されて時間がたっているからかもしれないし、今の俺が昔よりも成長できているからかもしれない。そして……彼の俺への申し訳なさそうな顔を見て、ああ、イアソンも本当に気にしているんだなっていう事がわかったからだろう。まあ、これでいいかなって思っていたけれど、そうはいかせない人間がいた。
「イアソン……私怒るよ……わざわざ二人が話す機会を作った理由はわかるよね? シオンも傷ついたり嫌だったことはちゃんと言わないとだめだよ。シオンは優しいけど……そういうことをちゃんと言わないのは悪いところだと思う……」
「「う……」」
俺とイアソンは痛いところをつかれて同時に呻く。いや、確かにそうなんだけどね。俺ももう、あんまり気にしてないし、イアソンが素直に謝るようには思えないんだけど……
「シオン……」
そんな事を思っているとイアソンが険しい顔をして俺を見つめている。一体どうしたというのだろうか。そうして彼は意を決したように深呼吸をすると予想外の行動に出た。
「追放してすまなかった……俺はお前が停滞しているから発破をかけるつもりだったんだ。でも……言っていい事と悪い事があったよな……」
あのイアソンが頭を下げて謝罪をしたのだ。俺はその光景を驚き何も言葉を返すことが出来なかった。アスと目が合うと満足そうにうなづいて、こちらにピースをしてきた。
多分彼女が説得をしてくれていたのだろう。そして……イアソンもずっと後悔をしていたのだろう。彼らにとって俺は無意味な……簡単に追放できる存在ではないという事がわかったのが不思議と嬉しかった。
「気にしないでよ。俺もあの時は停滞していたのはわかるし……おかげで新しい仲間にも出会えた。そりゃあ追放された直後はショックだったけど……今はカサンドラ達もいるしね」
「おかげでライバルが増えた……色々大変……」
俺の言葉にアスが何やらぼやく。てか、ライバルって何のライバルなんだろうね?
「でも、こうして話せてよかった……私たちは家族みたいなものだから……やっぱりいがみあっているのは嫌だから……」
「アス……色々ありがとう」
アスの言葉に俺は素直に感謝の言葉を述べる。俺も大変だったけど、アスも大変だっただろう。旅から帰ってきたら俺とイアソンが仲たがいしているんだから。
ゴルゴーンの里では気にしていない風だったけど、実際はそんな事はなかったのだ。
「まあ、そのあれだ……明日も早いし俺はそろそろ帰るぞ。またな」
「うふふ、珍しく謝ったから……どうすればよくわからなくなってるね……ざまぁ」
「うるさいぞ、アス!!」
そう言うとイアソンは苦虫を嚙み潰したような顔で怒鳴る。そして、立ち上がってこちらを真剣な表情でこう言った。
「俺はあの吸血鬼を信じていない。だからなにかあったら言え、助けてやる……それと……わるかった」
「大丈夫、モルモーンは信用できるよ」
イアソンの言葉に俺は一瞬モルモーンの事を思う。確かに彼女は妖しいところもある。ヘカテーもあの巨人も死を扱うらしいしね……だけど、彼女と接して分かっている。彼女は悪い奴ではないと。
「ふん、まあいいさ。アスから聞いている。お前は魔物と共に英雄を目指すのだろう? 俺はあくまで人の英雄となるさ! お前と俺とは違う道のりだ。俺は俺のやり方で英雄になる。見ているがいい、真の英雄はどちらなのかをなぁ!!」
そういうと得意げに笑いながら部屋から出て行った。近所迷惑だなぁ……あとで苦情が来ないといいけれど……
「アス……ありがとう。なんだかんだイアソンの事はひっかかっていたんだ。助かったよ」
「うふふ……気にしないで……私もシオンが喜んでいてくれて嬉しい……明日は……パーティーはちがうけど、頑張ろうね……」
「ああ、明日の緊急ミッションは必ず成功させよう。この街は俺達で守るんだ」
俺とアスはうなづくとそれぞれの準備を始める。彼女に言ったようになんたかんだひっかかっていたのだろう。
どこか心が軽くなりながら俺は明日の準備を進めるのだった。
この作品『追放された俺が外れギフト『翻訳』で最強パーティー無双!~魔物や魔族と話せる能力を駆使して成り上がる~』の二巻が本日発売いたします。
ゴルゴーンの里でのお話になっております。書き下ろしでシオンとアスの過去編もありますのでよんでくださると嬉しいです。
二巻の表紙は活動報告にアップしているので見ていただけると嬉しいです。
最初の一週間で、続刊が決まるので、もし、購入を考えている方がいらしたら早めに購入していただけると嬉しいです。




