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俺とモルモーンは一緒に街を歩く。彼女は物珍しそうに屋台の並んだ道を眺めている。
屋台を覗いては、興味深そうに見たり、話をするものだから、つい買わないといけないふんいきになってしまい、彼女の両手には肉の串だったり、湯気の立ったスープなどがある。
「吸血鬼も血以外も食べるんだね」
「ああ、当たり前だろう? 君達だって毎日甘いジュースばかりじゃ飽きるのと一緒さ。まあ、シオンの血は美味しいから安心したまえ。君がくれるというならこれらを捨ててもいいくらいさ」
「別にそんな心配はしてないっての……」
俺の言葉にモルモーンはからかうように言った。ちなみにモルモーンはお金を持っていないので全て支払いは俺である。まあ、ゴブリン達の戦いでは役になってくれたからいいんだけどね。
おかげで懐も暖かいし。
「それにしても、今日はお祭りでもないのにすごい人だねぇ。いつもこんな感じなのかい?」
「ああ、ここは冒険者はもちろん仕事帰りの人たちも来るからね」
「みんな楽しそうだねぇ。ここで私が吸血鬼だーって騒いだらどうなるかな」
モルモーンは何を思ったのか、そんなことを言った。もちろん、本気ではないだろう。だから俺は答える。
「そうだね、みんなびっくりした後になんかスキルを見せてくれって言うんじゃないかな? それで酒のつまみにすると思うよ」
「本当かい? 吸血鬼は魔物だぜ。みんな驚くんじゃないかな?」
「そんなことないさ、そりゃあダンジョンで出会ったら話は別だろうけどさ。俺みたいな冒険者と楽しそうに喋っているんだからみんな恐れはしないよ。カサンドラだって半分魔族の血を引いてるけど、ここの人達は変な顔をしないだろ」
「確かに……人は本当に変わったんだねぇ……」
モルモーンはしみじみといった感じでつぶやく。
「まあ、それはこの街だけだよ。ここは魔王に救われたことを覚えているからね。魔物や魔族に寛容なんだよ。魔王のおかげだよ」
「ふぅん……命がけで守った魔王達をみんなが覚えているようには見えないけどなぁ。でも……シオンが言うんならそうなんだろうね」
俺の言葉に半信半疑といった感じで彼女はうなづいた。本当なんだけどなぁ……でも、証拠があるのかって言われたら魔王のゆかりの地も結構過疎っているからしんじてもらえないかもしれない。
彼女は俺の言葉何とも言えないような表情をしながら肉串を平らげて言った。
「それにしてもシオンは偉いねえ、かつて魔王が戦った相手かもしれないんだぜ。逃げても誰も怒らないんじゃないかな? 別に君はここの出身じゃないんだろう? 君はあまり強くないんだし下手したら死ぬよ」
「そうかもね、でも、冒険者として色々と過ごしてさ、アスやイアソン達と冒険した思い出や、ライムに、カサンドラ、シュバイン……そして、モルモーンとだって会った思い出の場所なんだよ。ここは俺にとってもう、第二の故郷のようなもんなんだ。それに、英雄を目指すものが困っている人を見捨てるわけにはいかないだろ?」
「英雄ねぇ……懐かしい響きだなぁ。どっかの誰かも英雄になるんだって息巻いてたねぇ……でもさ、英雄になっても何になるっていうんだい? 死んだら全部なくなるんだよ。かつてこの街を救った魔王の墓だってアンデットの巣窟になってたじゃないか、英雄なんて無意味じゃないかな?」
「そうでもないさ、あれを見なよ」
なにかないかと思ってあたりを見回すと、ちょうどいいものがあったので指をさす。
「さあさあ、魔王達の冒険譚だー、興味のある人はみにきてくれよなーー」
そんな言葉と共に劇が始めるようだ。ちょうどいい。
「なあ、モルモーン、大体は覚えているんだろう? 劇と実際の話のどどれだけ違うか教えてくれよ」
「はっは、シオンも意地の悪い事をするねぇ。だけど嫌いじゃないぜ。そういうの!! 実話と創作の齟齬をかいせつしてあげようじゃないか!」
そうして、俺達は一緒に劇を観ることになった。
この作品『追放された俺が外れギフト『翻訳』で最強パーティー無双!~魔物や魔族と話せる能力を駆使して成り上がる~』の二巻が11/10日に発売いたします。
ゴルゴーンの里でのお話になっております。書き下ろしでシオンとアスの過去編もありますのでよんでくださると嬉しいです。
二巻の表紙は活動報告にアップしているので見ていただけると嬉しいです。
アスが可愛い!!




