47.巨人の眷属
そうして、俺達が冒険者ギルドと併設している酒場に戻ると他の冒険者達がチラチラとこちらを見つめてくる。イアソンや、俺というこのギルドのトップクラスのパーティーが招集されたのだ。何かやばい事があったと考えるのが普通だろう。
まだ、冒険者ギルドの方針が決まっていないので余計な事を言って混乱を招くわけにはいかないこともあり俺達は何事もなかったフリをするしかない。
「セイロンさん、すいません、会議室を借りる事はできますか? ここだと話しにくい事を相談したくて……」
「ええ、私もアンジェから色々話は聞いているわ。多分今回の緊急ミッションはあの子に任されると思う。あの子は魔王の伝承に詳しいからね」
「もしかして以前紹介してくれるって言ってた魔王に詳しい人って……」
「ええ、そうよ。本当に魔王をダシにあなたたちを二人っきりにしちゃおうかなって思っていたんだけどね……それどころじゃなくなっちゃたわね……」
なんでこの人はここまで俺とアンジェリーナさんをくっつけようとするんだろう……そんな事を思いながら見つめているとそれまでどこか、ふざけていた感じのセイロンさんの表情が真面目なものになる。
「多分今回の緊急ミッションは以前よりも大変な事になると思うわ……そして、私もだけど特にアンジェはあなたたち冒険者をそんな所に送り込むのをすごい責任を感じると思うの……だから、シオン君、絶対無事に帰ってきてね。私はもう、あの子の辛そうな顔を見たくないのよ」
「もちろんです。俺はアンジェリーナさんに悲しい顔はさせないって、絶対に死なないって約束していますから」
「……なら、安心ね。私もシオン君を信じるわ。あなたをアンジェが推す理由がわかってきたわね」
そんな風にちょっとからかうような笑みを浮かべて、彼女は会議室の鍵を渡してくれてた。そう、俺は死ぬわけにはいかないのだ。約束をしたからね。俺は今も色々と忙しいであろうアンジェリーナさんの事を考えながら会議室へと向かった。
会議室は椅子と机があるだけのシンプルな部屋だ。昔はもっとぼろかったが、この前の緊急ミッションを解決した時に国から補助金が出たらしく、ちょっと綺麗になっている。
俺はアンジェリーナさんの言葉が通じないから会議に参加しなかったライムとシュバインに事情を説明してからこれからの方針を話し合う。
「それで……魔王の墓に封印されていたのが神様っていうか、巨人がいたっていうのは言わないほうがいいんだよね?」
「そうだねぇ、流石にショックが大きすぎるんじゃないかな? 君たちはそうでもないかもしれないけど、冒険者や住民の中には神を信仰している人間だっているんだろう? それに……万が一あれを見ても神だとは思わないだろう。あれを見て、神々しいとか、神秘的だーとか思ったかい?」
「あれは……どちらかというと不気味さを感じたかな……」
「そうね……私は元々父から巨人の存在を聞いていたけれど、それでも不気味だったわね」
モルモーンの言葉に俺とカサンドラが同意する。確かにあれはなんというかマイナスの感情しか感じなかった。そして、神々しいなんて思わなかった。むしろ……関わってはいけないという本能的な嫌悪感をかんじたものだ。
「でも、今回の件はあの巨人と関係があるんだよね? ゴブリンの持っていた剣や、巨大なスライムがもっているっていう盾は魔王の墓にいた呪いの武具と関係があるんでしょ」
「ああ、そうさ。魔王の墓にいた巨人は……死と武器を司っているんだ。あの『呪いの武具』達は巨人の眷属でね……そして、『呪いの武具』の中には強力な四体がいてね。魔王もそれには苦しめられたものさ。まずはゴブリンが持っていた魔剣『プロメテウス』、巨大なスライムがもっているであろう魔盾『アトラス』、魔王の墓にいたスケルトンが寄生されていた『エピメーテウス』、そして、かつて魔王の仲間であるトロルの憤怒が破壊した『メノイティオス』だね。彼らがなんで復活したのかはわからないけど、あの二体を破壊すればこの街にも平和がおとずれるんじゃないかなぁ」
「しかし、巨人はなんでゴブリン達を進化させようなんて思ったのかしらね?」
「さあねぇ……自分たちを裏切って魔族と手を組んだ人間に代わってゴブリン達をこの世界の支配者にしようとしているのかもね」
カサンドラの言葉にモルモーンも首を横に振りながら答えた。魔族たちと共存を選んだ俺達への復讐った言う事か……これも封印されている巨人の復讐の一種だろうか。
そして、流暢に話すモルモーンを見て俺は疑問が生まれた。
「なあ、モルモーン、もしかして記憶が戻ったのか?」
「フフフ、さすがシオンだね。よく気づいてくれた!! 因縁があったプロメテウスに影経由とはいえ触れたからか、それても再生される能力が私の記憶にも干渉したのか、だいぶ記憶が戻ったようだよ。といってもやはり自分の事はいまいちまだわからないんだけどね」
『じゃあ、なんで僕を暴食って呼んだかは思い出した?』
「それは……いずれか話そうじゃないか」
ライムの言葉にモルモーンは得意げな顔から少し寂しそうな表情に移り変わる。でも、モルモーンのおかげで色々とわかった。ようは呪いの武具を破壊すればいいのだ。だったらやる事は決まっている。
「とりあえず緊急ミッションでゴブリン達を倒して……『プロメテウス』を破壊しよう。他の冒険者達に戦利品として回収されたら厄介な事になるからね」
「そうね、最悪は奪い取るしかないわ。その時は任せなさい」
「はは、カサンドラは暴力的だねぇ。ここは大人な私が色仕掛けで奪うさ」
相も変わらず戦闘民族なカサンドラの言葉にモルモーンも乗っかる。確かにモルモーンは黙っていれば無茶苦茶美人だし胸も大きいから誘われたらついついていってしまうかもしれない。などと思っていると視線を感じた。
「シオン……すごいエッチな顔をしているわよ」
「いや、気のせいじゃないかなぁ……」
『シオンは巨乳が好きだからね」
氷のように冷たいカサンドラの視線にライムが追い打ちをかけてきた。確かに好きだけどさぁ……そんな事を思っていると腕に柔らかいものが押し付けらる。
「ふふふ、シオンはむっつりだなぁ……こんなのただの脂肪の塊だよ」
「モルモーンやめろっての……」
『シオン……悪い……今回俺だけ単独行動をさせてくれないか?』
そう言ったのはさっきからずっと無言だったシュバインだった。
この作品『追放された俺が外れギフト『翻訳』で最強パーティー無双!~魔物や魔族と話せる能力を駆使して成り上がる~』の二巻が11/10日に発売いたします。
ゴルゴーンの里でのお話になっております。書き下ろしでシオンとアスの過去編もありますのでよんでくださると嬉しいです。
二巻の表紙は活動報告にアップしているので見ていただけると嬉しいです。
アスが可愛い!!




