46.作戦会議2
いきなりの再会に言葉を失っていると、イアソンは俺と視線を合わせずに席に着いた。続いて入ってきたメディアはいつものように興味なさそうに、俺の顔をちらっと見てからイアソンの隣に座り、テセウスは気まずそうに、アタランテは愛想笑いをして、それぞれ入ってきた。
「大丈夫よ、あいつはあいつなりに反省しているみたいだから安心しなさい。あと、ちゃんと謝るように言っておいたわよ」
混乱している俺の肩を叩いて、微笑みながらカサンドラが声をかけてくる。おそらく、外でひと悶着あり何かを聞いたのだろう。カサンドラはニヤニヤと笑いながらイアソンを見つめている。
カサンドラのおかげで少し落ち着いたようだ。まあ、あいつに言いたいことはたくさんあるが今はそれどころじゃないしね。
でも、あいつが謝るなんて、なんだかんだ彼も変わったという事なのだろう。
「おい、アス!! どういうことだ!! お前がシオンのピンチだから来いと言ったからきてやったというのに……、これじゃあ、俺がシオンを助けて、色々と有耶無耶にする作戦が台無しじゃないか!!」
「うるさいな……シオンの役に立てるんだから感謝すべき……そもそも、私はまだ追放の件、許してないんだよ……メディアもね……」
「その件は申し訳ありませんでした……」
いや、変わってないや……イアソンはイアソンだったよ。アスに文句を言う彼を見て懐かしいやら、呆れたような不思議な気持ちになる。
そして、メディアは相変わらずアスには弱いようだ。アスに睨まれて体を縮こませている。
「それではみなさん、早速ですが本題に入らせていただきます。今回の緊急ミッションについてです」
コホンという咳払いの後に、アンジェリーナさんのその一言で、全員の表情に緊張が走る。俺達冒険者はみんな『緊急ミッション』という言葉の重みを知っているのだ。
まあ、前回のオークの時も色々とぎりぎりだったしね。
「今回はシオンさんを筆頭に何人かの冒険者から話が上がっている武装をしたゴブリンについてです。彼らのリーダーは不思議な形をした剣を持っているようで、なにやら防具や火を使うようです」
「ふん、火を使おうが所詮はゴブリンだろう、わざわざ緊急ミッションを発令するほどではないだろう。なんなら俺達『アルゴーノーツ』が潰しにいってやろうか?」
「あいつ懲りないわね……」
相も変わらずのイアソンの言葉にカサンドラが呆れたように言った。いや、まあ、気持ちはすごいわかるけど……そして、そんな彼の言葉を遮ったのは意外にもモルモーンだった。
「そうだねぇ……ただのゴブリンだったらそうかもしれない。でも、彼らが手にした武器は『プロメテウス』という呪いの武具だ。それの効果は……持ち主に不死に近い能力を与えるだけじゃない。その剣を持ったものに叡智を与えるんだ。そして、その叡智は周りに伝染する。かつて神々の奴隷にすぎなかった人間がソレを与えられ、文明やスキルを得て進化したようにね」
「「は?」」
モルモーンの言葉に俺達は思わず間の抜けた声を上げた。いや、どういうことだ? 俺達人間が叡智を手に入れたのはかるか昔にプロメテウスを手に入れた人間がいたからなのか?
そんなバカな……と否定したいが侵入したゴブリンの巣での事を思い出す。あそこにいたゴブリンは明らかにいままでのゴブリン達とは違った。確かに知恵があり……感情が豊かで……人間みたいだなと思ったのだ。
「何を馬鹿な……と言いたいが、シオンは何やら納得するものがあるようだな。叡智を持つ魔物……この前のオークとは違うのか?」
「ああ……あいつらのあれは明らかにこの前のオークとは違ったよ。オークの時はリーダーだけが他のオークと違ったが、今回はリーダーだけじゃなくて、ゴブリン全体が賢くなっていたんだ」
「ふん、お前がそう言うならばそうなのだろうよ。魔物の事に関してならシオンが一番詳しいからな」
俺の言葉にイアソンが納得したように頷いた。そのおかげだろうか、怪訝な顔をしていたテセウスや、アタランテの表情が変わる。リーダーが認めたのだからみんなちゃんと信じることにしたのだろう。
なんだかんだこういう風に周りの空気を変える男なのだ。変に人望があるのもこういう風に他人の長所はちゃんと褒めたりするからなのだろうななどと少し懐かしくおもう。
「ツンデレっぽく言っても……ちゃんと謝らないとゆるさないからね……」
「ここはかっこつけさせろよぉぉぉ!!」
しかし、アスにだけは通じないらしく、イアソンは情けない叫び声をあげた。
「でもさ、モルモーン。ゴブリンに叡智があるなら何とか説得はできないかな? お互い領土をきめたりすればあるいは……」
「ふふ、実にシオンらしい優しい考えだ。でも、難しいだろうねぇ、叡智があるから欲も出てくる。だから人間同士の争いは増えただろう? 昔は生きるために獣を狩っていたのに、娯楽でも狩ったりするだろう? 叡智を得るという事はそう言う事だよ。人間は生態系の異物になってしまったんだ。そして……人間同士でも、争いがなくならないのに、同じくらい力を持ったら言葉も通じないゴブリンと同じ共存はできないだろうね。そう、魔族と、神々が争ったようにね」
モルモーンは俺の言葉に溜息をつきながら言う。悲しいけどそういうことなのかもしれない。そして、彼女が巨人の事を神々と言っているのは他の人間に気を遣ってだろう。
そして、話が途切れたタイミングで、アンジェリーナさんがモルモーンに質問をする。
「今回の不思議な武器は魔王が戦った相手と酷似しています。叡智を持つ魔物や、不思議な盾を持つ魔物のお話は魔王の冒険譚にでてきますから……つまり、今回の敵はかつて魔王が戦った相手という事でしょうか?」
「多分そうだね……魔王の墓には私の主とその敵が封印されていた。おそらくだけどその敵の封印が解けかけているのか……それか封印されていた敵の呪いのようなものだろうね」
「かつて魔王が戦った敵か……」
モルモーンの言葉にそう返したのは誰だっただろうか。魔王は伝説の冒険者だ。そんな彼らが戦った相手に、Bランクの俺達でそんな相手をなんとかできるのだろうか……そんな空気が漂っている時だった。
「つまり、そいつらを倒せば俺達は魔王と同等になれるという事だな。いくぞ、お前ら!! 汚名返上のチャンスだ!! アンジェリーナ、どうせ緊急ミッションは発令させるのだろう。俺達は参加するぞ!! 武器屋の親父にいって最高の装備を用意してもらう」
そう言うとイアソン達はさっさと出て行ってしまった。去り際にアスが俺にほほ笑む。ああ、そうだ……くやしいけどこういう時のイアソンは無駄に元気で……周りの人間も頑張らなきゃって思えるんだよな。
「みんな、俺達もあいつらには負けてられない。俺達も明日の準備をしよう。アンジェリーナさん、任せてください。この街は俺達が守ります!!」
「はい……みなさんありがとうございます。とりあえずはダンジョンから出ない巨大なスライムは調査にとどめて、脅威度が高いであろうゴブリンの対処をすることになると思います。よろしくお願いします」
そうして、俺達は部屋を出るのだった。
この作品『追放された俺が外れギフト『翻訳』で最強パーティー無双!~魔物や魔族と話せる能力を駆使して成り上がる~』の二巻が11/10日に発売いたします。
ゴルゴーンの里でのお話になっております。書き下ろしでシオンとアスの過去編もありますのでよんでくださると嬉しいです。




