44.異変
ギルドの応接間には人数分の飲み物がおかれている。俺達が帰ってきたら元々ここで話し会いするつもりだったのだろう。それだけの何かがあったという事だ。俺は緊張して席に着く。
「なるほど……ゴブリン達が武器や防具……そして、火を使ってきたですか……」
「ええ、信じられないかもしれませんが、あいつらはまるで俺達人間の様でした」
俺がダンジョンであったことを話すと、アンジェリーナさんが険しい顔をして何やらメモを取っている。俺達の話を元に緊急ミッションを発令するかを決めるのだろう。
俺の他には彼女に呼ばれたモルモーンとシュバインが座っている。さすがに空気を読んでいるのかモルモーンも大人しい。シュバインはなぜ呼ばれたのだろうと怪訝な顔をしている。
本当に何で呼ばれたんだ? シュバインは。
「ええ、信じますよ。シオンさんがそんな嘘をつくとは思いませんし。それに……」
「アンジェリーナさん……」
「過去の記録に一度そう言う事がありましたから」
「え?」
「やはりねぇ……」
俺が驚いて、アンジェリーナさんに聞き返すと、モルモーンだけがなぜか納得したように頷いた。俺が怪訝な顔をしながら出された飲み物を口にして、視線で促すと彼女は珍しく深刻そうな顔をして、口を開いた。
「それは……この街を魔王が守った時だろう? 魔王が街を守った時に戦った相手の一人にそういう集団がいたんじゃないかな?」
「博識ですね、モルモーンさん。ゴブリン達が変わった武器を持っていたこともご存じでしたし……その事は英雄譚にも書かれておらず、よほど、魔王に興味を持っていないと知らないはずなんですが……それとシオンさん、体調や気分に何か変化はありませんか?」
「え、特に変化はないですけど……」
急に話を振られた俺が、怪訝な顔をしながら返事をすると横にいるモルモーンが楽しそうに笑いだした。え、こいついきなりどうしちゃったの?
「ふふ、その飲み物に入っているのは状態異常の治療薬かな? そんなに私は怪しかったかい? 安心したまえ、私はシオンには何もしていないよ……だから、天井の裏でそんなに殺気を出しながら潜んでないで出てきなよ」
「そう……だけど……あなたは人間じゃないし、吸血鬼でもないよね……どちらかというと魔族に近いかな……」
天井から返事が返ってくる。なにこれ怖い!! ってこの声アスじゃん。って思うと同時に天井がずれて、銀髪の美しい少女が降ってきた。そして、彼女は当たり前の様に俺を庇うようにくっついた。
「待て待て、俺は正気だって!! 俺はモルモーンに操られてなんていないよ!!」
「うん……本当にそうだね……だからびっくりしてるよ……私の目にも異常はないし、薬も飲んだ……魅了とかにはかかっていないって保証する……」
俺の言葉をアスが肯定するとアンジェリーナさんは申し訳なさそうに、モルモーンに頭を下げる。
「すいません、モルモーンさん……私たちはあなたを疑っていました。てっきりあなたも、ここらへん一体でおきている異変の一つだと思ってしまっていて……」
「アンジェリーナは悪くない……私がモルモーンが、怪しいっていったから……でも、シオンも悪いよ……なんで嘘をついたの……? それに何か厄介ごとに巻き込まれているよね……? なんで私にはなしてくれなかったのかな?」
アスは不満そうに頬を膨らませて俺を睨みつける。ああ、そりゃそうだよ、アスがアンジェリーナさんにモルモーンについて相談をしていれば、俺の嘘なんてばれるに決まっている。だって、俺の昔の知り合いでアスが知らないはずがないもんね……それよりも気になっていることがある。
「はっはっはー、別に謝らなくてもいいさ。街の付近に異変が起きて、謎の美少女がその街のトップクラスの冒険者と仲良くしている。誰だって疑うさ!!」
高笑いをすると彼女はアスに庇われ、アンジェリーナさんに心配されている俺を見てにやりと笑った、
「ふふ、シオンは本当にモテるねぇ、彼を責めないでやってほしい。彼は私に気を遣ってくれたんだよ。魔王の墓で記憶を失って一人でいた私をね……だけど、今回あいつらを見たおかげでちょっと記憶を取り戻したんだ。だから、情報交換と行こうじゃないか。私に敵意も恋愛感情もないから銀髪の君はそんな殺気に満ちた目で見ないで欲しいなぁ」
「そうですよ、アンジェリーナさん、いくつかの異変ってなんなんですか? ゴブリンの件以外にも何かあるんですか?」
俺の言葉に彼女は深刻な表情でうなづいた。
この作品『追放された俺が外れギフト『翻訳』で最強パーティー無双!~魔物や魔族と話せる能力を駆使して成り上がる~』の二巻が11/10日に発売いたします。
ゴルゴーンの里でのお話になっております。書き下ろしでシオンとアスの過去編もありますのでよんでくださると嬉しいです。
また、発売日前ということでしばらく毎日更新を行います