42.プロメテウスの叡智
隠し通路の方から進んだおかげか、ゴブリン達とは遭遇せずに進むことができた。奥へ進むと巨大なくぼみのような空間があり、そこにゴブリン達の住処があった。
しかし、これは一体なにがおきているのだろう? ゴブリン達は木を組み合わせ、高台やはしごを作っているのだ。そして上には弓を構えたゴブリンがきょろきょろとあたりを見回している。まるで人間の砦みたいである。そして、恐ろしいのはそれだけじゃない……
『ねえ、シオン、なんでゴブリン達が木や石で家を作っているんだろう? あいつらにあんな知識ってあったっけ?』
「誰か人間達が住んでいたのか? いや、だが……それにしては新しすぎる……」
まさか、人間を脅迫して作らせているのか? そうも思ったが、言葉が通じるならともかく、ジェスチャーだけで建物を作れと命令するのは難しいだろう。それに、ゴブリンは短気な生き物だ。話が通じないとわかれば襲い掛かってきてもおかしくはない。そもそもこの規模で作るなら相当な数の人間が必要となるはずだ。それだけの人間を収容するスペースはないだろう。
もはや一つの村と化しているゴブリンの巣を見て、俺は冷や汗をかく。
「シオン君……思い出したよ。あれは……あのゴブリンが持っていた剣は『プロメテウス』だ。かつて巨人たちが、君たち人間に叡智を与えるきっかけになった『呪いの武具』だよ」
「は? なんだそれ……?」
「まあ、プロメテウスだけじゃなくて、様々な巨人やその眷属達が君達人間に力を与えたんだけどね……プロメテウスの叡智は、その種族の知力を一気に引き上げるんだ。そう、例えば火や道具を使ったり、スキルの存在に気づいたりね」
いきなり意味の分からないことをいわれて俺は思わず聞きかえす。巨人達が俺達人間に与えただって? そして、そのプロメテウスとやらによって俺達人間は叡智を得たって言うのか?
「ここは一旦逃げるとしよう。私はともかく君は夜目はきかないだろう? それに……プロメテウスに私の……一度見せた技は通じない。さっさと帰って態勢を整えて……ちぃ!!」
モルモーンがそう言った時だった。どこからか矢が飛んできたのを彼女の影が弾く。息をひそめて近づいていたのか、いつの間にかゴブリン達が迫っていたようだ。
「いや、この光景にびっくりしてたからって、流石にゴブリンの接近に気づかないほど俺達はまぬけじゃないだろ」
「簡単な事だよ、スキルを使ったんじゃないかな? おそらくこの中にもスキルの持ちのゴブリンがいるんだろうねぇ」
『魔物がスキルを使うのはあんまり聞かないなぁ……まあ、僕ほどの天才スライムならともかく、他のスライムはスキル何て覚えていなかったよ』
モルモーンの言葉にライムが不思議そうな声をあげる。スキルはギフトの影響で目覚めたり、剣をひたすら振ったりするなどの反復行動で覚えるものだ。魔物達が意識的に行動しないかぎりは滅多に覚えるはずがないというのに……
つまり、プロメテウスによって叡智を得た魔物は俺達人間の様に道具を使い、スキルすらもつかいこなすっていうのだろうか? さすがにまずいんじゃないか? 人間のアドバンテージがなくなるぞ。
「とりあえず、さっさと逃げよう!! 火よ!!」
俺は弓を撃ってきたゴブリンに魔術を放ちながらさっさと、隠し通路の方へ走り出す。モルモーンも影を駆使してゴブリン達を追い払い、ようやく出口へ来たときだった。
『やはり来たな、人間と魔物に……化け物め』
そこに立ちふさがっているのは例の剣を持ったゴブリンだった。
本日より翻訳無双のコミカライズが始まりましたー。
翻訳無双 ニコニコ静画で検索していただけると読めますのでよかったら、読んでいただけたら嬉しいです。
また、本シリーズの二巻が11/10日に発売いたします。
ゴルゴーンの里でのお話になっております。書き下ろしでシオンとアスの過去編もありますのでよんでくださると嬉しいです。