41.尋問
「それで……あのゴブリンが持っている剣はなんなんだ?」
『……』
「お前の仲間をどうなってもいいのか? こいつは吸血鬼でね、俺でも制御できないほど血に飢えているんだ」
「はっはっはー、泣け叫べ、そして、助けを乞うがいい!! 気が向いたら命は助けてあげるかもよ」
そう言うとモルモーンはノリノリで触手状になった影をぶらぶらと動かして、ゴブリン達を脅す。なんというか無茶苦茶楽しそうなんだけど!! ライムも『うわぁ……』というドンびいた声をあげている。
ちなみにゴブリンにモルモーンの言葉は一切通じてない。
『わかった、言うから!! 言うからそいつは助けてくれ。動きがキモすぎる!!』
「モルモーン止めていいよ」
「わかりました。ご主人様」
俺の言葉と共にモルモーンの影が動きを止める。これ、完全に俺が悪の黒幕みたいになってるじゃん。目の前のゴブリンが化け物でも見るように睨んできているんだけど!!
『あの剣は……クレイ様がこのダンジョンの奥で拾ってきたんだよ。そして、あの剣を持ったクレイ様は色々と俺達に教えてくれたんだ。お前ら人間が落としていった武器や防具の使い方や、手入れの仕方……そして……お前ら人間が使っていた俺達の薄暗い洞窟を照らしていた火の使い方をな』
「剣が教えてくれただって?」
俺は予想外の回答に思わず聞き返す。そういえば洞窟の入り口にたいまつが灯っていた。あれは冒険者達が設置したものではなく、ゴブリンが設置していたのか?
そして……どうやら、ゴブリンのリーダーはギフトではなく、武器を手に入れて変わったようだ。あのスケルトンの鎧の様に何らかの特殊能力のある呪いの武具なのだろう。
正直まだ信じがたいが欲しい情報は手に入れた、後は何とかあのゴブリン達を倒して、可能ならばその剣を奪うだけだ。そして剣を調べればいいだろう
「どうしたんだい、シオン君。このゴブリンの秘密はわかったのかい?」
「ああ、やはりあのゴブリンがもっていた武器のおかげみたいだ。武器の扱い方や、火の使い方を学んだらしい。まるで剣から知恵をもらったみたいだね」
「武器じゃなくて、火の使い方もだって……まさか……」
俺の言葉に彼女は驚いて呻く。なんだろう、確かに驚くけれどそこまでの反応をするような事なのだろうか? もしかして、何かを思い出したとか……俺は彼女が一瞬見せたこれまで見たことの無く動揺した顔を見て思う。
そのまま俺は彼女の言葉を待つが先ほどの動揺が嘘であるかのように涼しい顔でいった。
「それで、これからどうするんだい? 私としてはこのまま攻めるのをお勧めするけど」
記憶を取り戻したかと思ったのは気のせいだったのだろうか? 彼女はいつものように胡散臭い笑みを浮かべながら言った。まあいいか。とりあえずこのゴブリン達をなんとかしないと。
「モルモーン頼む。情報は十分手に入れた。約束だからね、命はとらないであげてくれ」
「ふぅん、甘いねぇ、シオン君。それは偽善だよ。でもまあ、そういうのも嫌いじゃないけど、今回だけはダメだ。彼らは知識を得てしまったからね」
「モルモーン!?」
そう言うとモルモーンは影を操りゴブリン達の首を絞めそのまま絶命させた。確かに俺の行動は甘かったかもしれない……だけど……
「君にとっては会話をした捕虜かもしれないが、彼らはすでに冒険者を殺しているんだよ、これは生存競争だ」
「それはそうだけど……」
モルモーンの言葉が正しいのはわかっている……俺は彼らの仲間を思う気持ちに自分たちを重ねてしまったのだ。そして……まるで人間と話しているような気分になってしまったのだ。
少しへこんでいるとひんやりとした涼しい感覚が俺の首を襲う。何ともきもちいい。
「ライム、ありがとう」
『気にしないで、早く奥に行こうよ、そして僕らは見事ゴブリンを倒して、英雄になるんだ。そうすればまた女の子にちやほやされるよ』
「ああ、そうだね」
俺はいつものテンションのライムに微笑みで返す。ゴブリンは明確な敵意を持った敵だ。モルモーンが正しいのだ。俺は再度自分に言い聞かせて彼女を見る。
「火に知恵か……あれは……プロメテウスかな……」
「モルモーン?」
なにやらぶつぶつと呟いている彼女に声をかけると、こちらの視線に気づいたのか微笑んでくる。
「ああ、ごめんごめん、考え事をしていたんだよ、シオンは優しいけど、敵は敵だと区別しないとだめだよ。まあ、ちゃんと、相談せずに殺したのは悪かったけどさ……時間もないし、進もうじゃないか」
そうして、俺達は進むのだった。
翻訳無双の二巻が11月10日に発売になります。
興味のある方読んでくださると嬉しいです。内容はゴルゴーンの里の話となっております。




