22.モルモーン2
俺は思わず彼女の胸に目を向けてしまう。それと同時に彼女の目が怪しく光ったように見えたのは気のせいだろうか? てかさ、今はそんなことやってる場合じゃなくない? カサンドラ達を助けないと……
「おっぱい……でも、カサンドラ達を助けないと……俺は……」
「へぇー、私の魅了に抗うか……中々やるじゃないか。じゃあ、そのカサンドラって言うのを助ければいいのかな? 少し記憶を見せてもらうよ」
彼女は心の中の誘惑に必死に抗う俺を興味深そうに見ながらそう言うと、俺の頬の傷をぺろりと舐める。
そして、まるでごちそうでも口にしたかのように笑みを浮かべる。舌のざらりとした感触がぞくりと俺を刺激する。
「ああ、やはり人の血はいいねぇ。久々にみなぎったよ。少年……いや、シオン君の味方を助けてあげよう」
そういうと共に彼女の影が再び触手のように伸びる。その触手は俺が入ってきた通路へとすさまじい速さで向かっていきそのままどこかへと向かっていった。
「モルモーン……、一体何を……?」
「まあ、少し待ちたまえよ。ほら……捕えたようだ」
そう言うとモルモーンは得意げな笑みを浮かべて俺にウインクをした。
捕えたって何を? 俺がそう問う前に影がすさまじい勢いでモルモーンに戻ってくる。そして、その触手の先には何かが捕えられている。
いや、何かじゃない、あれはカサンドラ達が戦っていた鎧を着たスケルトンだ。そのスケルトンは空中でバタバタと暴れている。だけど……俺は一つの違和感を感じた。そのスケルトンは水晶とモルモーンを交互に見つめると穏やかな笑みを浮かべていた気がしたのだ。
『よかった……無事だったのですね……』
「君は……なんだろう、懐かしいね。ありがとうとだけ言っておこうかな」
彼女は最後にスケルトンに微笑むと、そのまま指を鳴らす。すると触手がスケルトンの体ごと鎧を包み込んでグシャリという音を鳴らして何かをつぶした。そして影の触手の間から塵のようなものがこぼれ出る。
「今のスケルトンは……モルモーンの知り合いなのか? それなのに、そんなあっさり……」
「うん? ああ、君のギフトは『万物の翻訳者』か……彼の言葉がわかるんだね。どうなんだろうね……多分そうだと思うよ。それと、彼は……呪いの武具その身を冒されていたからね……こうするしかないんだよ。それに私達アンデットはもう死んでいる。死は安息への道に過ぎないのさ」
俺の質問に彼女は目を細めてスケルトンの残骸を見つめながら答える。最期のスケルトンはむしろ晴れやかな笑顔を浮かべていた気がする。アンデットの価値観はよくわからないが、彼女の言う通りなのかもしれない。
でもさ、なんて彼女は俺のギフトと名前を知っている? そして、あのスケルトンとはどんな関係だ? 俺は彼女に馬乗りになったまま思考する。こいつからは底知れないものを感じる。敵意はないようだが……
「何か言ってくれないかな? ああ、そうか話をするなら胸を揉ませろってことかな? 軽い冗談だったんだけどね。童貞をからかうもんじゃないねぇ……まったくシオン君はエッチだなぁ」
彼女は何が楽しいのかふっと笑った。いや、そんなことじゃないんだが? だが、これで確信する。こいつに敵意はない。彼女が本気になれば俺なんて瞬殺だろう・
てかなんで俺が童貞だって言う事もばれてんだよぉぉぉぉぉ。色々と聞きたいことはあるが、とにかく、どうやら彼女は本当に俺と話をしたいだけのようだ。ならば彼女を警戒しつつ疑問をどんどん潰していくか……
「じゃあ……」
「シオン大丈夫!? 変な触手があなたが落ちた穴から……」
「カサンドラ!! 俺は無事だ」
俺が意を決した直後だった。スキルを駆使して急いで来てくれたのだろう。俺を見つめる彼女の表情が歓喜に包まれて、そしてどんどん軽蔑の色に染まっていく。待って、ゴミをみるような目になっているんだけど……そこで俺は今の状態を思い出す。
馬乗りになって美少女にまたがっている一人の男……アウトだ……このままじゃ、俺の人生が終わる。
「違うんだ、カサンドラ……これには深い事情が……」
「ああ、君がカサンドラだね……シオン君の記憶を読ませてもらった。気にしないでくれたまえよ。胸を揉ませたら話を聞いてくれるっていうからさ。こうなっているだけさ、恋愛感情はないから安心したまえ」
「ふーん、心配だったから急いできたけど邪魔しちゃったみたいね」
聞いたことのないほど冷たい声でカサンドラがいった。
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