20.落ちたさきにいたもの
どれだけ降りただろう。無限にも思える時間落下していたが、ようやく地面の感触を味わって俺は一安心する。
俺は一息ついて上を見上げるが、真っ暗闇で何も見えはしなかった。というかなんだろう、この空間は? 空気が重いというか、呼吸をするのが少し、苦しい。俺は冷静になるためにも深呼吸をして再び上へ向かう事にする。
カサンドラ達は無事だろうか? あのスケルトンは俺を嵌めたのか? 俺が考えごとをしていると、何かが空を切るような音が聞こえてくる。
「うおおおおお、マジかよ」
音の正体はカースドウェポンたちだった。俺が落ちた穴から何体か追いかけてきたらしい。俺はとりあえず魔術を放ちつつ穴の奥へと向かう。ここは狭いうえに暗いから襲われるとまずい……
そして、俺とカースウェポンの鬼ごっこが始まる。俺式炎脚を使いながら、距離を稼いでいるため、なんとか追いつかれはしないものの、このままでは魔力切れになり捕まるだろう。俺がどうしようかと思考していると、通路の先に何やら紫色の光と、広がっている部分が見える。
「今しかない!! 俺式炎脚、そして火よ!!」
俺は広場に飛び込むと同時に振り返り魔術を放って入り口を破壊する。土砂崩れと共に、入り口が崩れ落ちた。これでなんとかなったはず……俺はほっと一息いれてあたりを見回して俺は絶句した。
広場には巨大な水晶が二つあったのだ。それだけならばいい。魔王が残した遺産か何かで貴重な石なのかと納得もできる。だけど、その水晶には人に似た何かがそれぞれ封印されるかのように、閉じ込められていたのだ。
片方の水晶には目をつぶった腰まである長い金髪の美少女だ。その肌の色はまるで雪の様というよりも病的なまでに白い、人間離れした美貌の少女だ。なぜだろう、俺の直感がこの生き物は人とは違うと主張しているのだ。
そして、もう片方の水晶にはぎりぎり収まるくらいの巨大な人型の何かがいた。三メートルほどの巨大な体躯に、不格好なまでに大きい頭が見える。人と似ているというのに決定的なまでの違和感からか、本能的な嫌悪感が俺を襲う。だって、おかしいだろう、体は二メートルくらいなのに、頭が一メートルくらいあるのだ。なまじ人に似ている分気持ちが悪い。
そして、何の音かわからないが、巨人の方からはギリギリギリギリと不気味な音が鳴り響いている。
「なんだ……こいつらは……」
「さて、何かな? 実は私もわからないんだよ、いや、覚えていないというのが正しいかな。なんでこんなところに巨人がいるんだろうねぇ」
「は?」
魅入られるように水晶を見つめていた俺だったが、いつの間にか手前から聞いたことのない声色で返事がして、俺はとっさに振り向きながら剣を構えて対峙をする。視界に入ったのは、金髪の病的なまでに肌の白い美少女だ。その顔は水晶の中で眠っている少女に瓜二つだった。
咄嗟に水晶に視線をやるが、その中には変わらず少女が眠っていた。じゃあ……こいつはなんだんだ? そもそもこの水晶の中に眠っているやつらはなんなんだ? 状況について行けずに俺の頭は混乱をする。
「ふむ、そんなに警戒されるなんて心外だねぇ。私の名前は……そうだね、モルモーンとでも名乗っておこうかな。君たちが吸血鬼と呼ぶ存在さ」
「吸血鬼だって……」
俺は目の前のモルモーンと名乗った吸血鬼の言葉に絶句する。吸血鬼とはアンデット系の魔物のトップである。体を霧にしたり、血を吸ったものや目を合わせたものを魅了し眷属としたりなど、様々な特殊能力をもっており、年をへていれば年を経ているほど数多くの、そして、強力な力をもっているといわれている。魔物としてのランクはAランクだが吸血鬼同士でもその実力の差は大きく離れているため、あまり参考にならない。
そして、俺一人で戦って勝てるような相手ではないのだ。どう切り抜けるか、俺が思考した瞬間だった。モルモーンが指をパチンと鳴らすと、水晶の光に反射された彼女の影が触手にの様に細く形を変えて襲ってきた。
やはりダンジョンの奥になにかいるのはワクワクしますよね。
第一巻発売日7月10日に発売しますので興味があったら手に取っていただけると嬉しいです。
続刊などはやはり発売最初の1週間が肝となるらしいのでぜひとも宣伝させて頂きたく思います。
作品名で検索するとアマゾンなどのページが出てきますのでよろしくお願いいたします。
また、一巻にはカサンドラがシオンと会う前の話が5万字ほど書き下ろされているので興味があったら手に取ってくださると嬉しいです。